会計事務所支援ブログ

トランプ関税が中小企業へ与える影響と税理士から提案したい対策とは

トランプ関税が中小企業へ与える影響と税理士から提案したい対策とは

トランプ政権が発表した高関税政策、いわゆる“トランプ関税”により、日本の中小企業が大きな影響を受ける可能性があります。

予測されている主な影響は、自動車などの輸出減少、関税コスト上昇分のコストダウン、日本国内における設備投資や個人消費の低迷などです。また日本製品に対する追加関税24%が続く場合、日本の企業倒産件数が4.4%増加すると予測されています。

日本政府は、トランプ関税の影響を受ける中小企業向けの支援策などをまとめた「米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ」を発表しました。ガソリン代定額引き下げや補助金の優先採択、資金繰り支援策の拡充などが講じられており、税理士から顧問先へ提案を検討できます。

本記事では、トランプ関税が日本の中小企業へ与える影響と、税理士から顧問先へ提案を検討したい対策について解説します。

トランプ関税とは

トランプ関税とは

トランプ関税とは、第2次トランプ政権が発表した相互関税政策のことです。主な内容は、「一律10%の追加関税」「国別あるいは自動車など品目別の追加関税」などです。
国別関税としては、日本は24%、中国は34%など原産国に応じた関税率が適用されます。
品目別関税としては、自動車・自動車部品について25%などです。

例えば、米国が日本から輸入する自動車については、現在の関税2.5%に追加関税25%を加えた27.5%が関税となります。
自動車に関する追加関税25%は2025年4月3日に発効し、5月3日からは自動車部品についても追加関税25%が発効しています。

トランプ関税の主な概要をまとめると次のとおりです。

第2次トランプ政権で発動した追加関税措置等一覧

【引用】第2次トランプ政権で発動した追加関税措置等一覧(6/4時点)|日本貿易振興機構(ジェトロ)

トランプ関税が日本の中小企業へ与える影響

高関税政策は輸入品価格の上昇を招くため、輸入品需要の減退を通じて輸出国においても影響があります。トランプ関税が日本の企業に与える主な影響は次のとおりです。

対米輸出の減少、値引き要請

米国内での輸入品価格の上昇により需要が縮小し、日本からの輸出が減少する可能性があります。また輸入コストの上昇分を米国内における販売価格へ転嫁せず、日本からの輸入品について値引きを求められる可能性があります。
財務省が2025年5月21日に発表した4月貿易統計速報によると、2025年4月3日に追加関税が発効した自動車の輸出額は前年同月比-4.8%の減少となっています。

【参考】2025年4月分貿易統計(速報)の概要|財務省

対米輸出が多い国への輸出の減少

米国向け輸出が多い中国などの国で輸出が減少すると、日本からそれらの国への輸出も減少する可能性があります。

日本国内における設備投資の停滞、個人消費の低迷

輸出の減少や日本の大手企業が米国内工場へ生産移管した場合、日本国内における生産が縮小し、日本国内における設備投資が停滞する可能性があります。
また日本国内企業の業績が悪化することで、個人消費が低迷する可能性もあります。

日本企業の業績悪化、企業倒産件数の増加

輸出の減少やコストダウン要請などにより、日本企業の業績が悪化する可能性があります。
2025年4月に帝国データバンクが試算した結果によると、日本からの輸入品への追加関税24%が続いた場合、日本国内の企業倒産件数は10,687件となり、相互関税適用前の予測と比べて4.4%増加すると予測されています。

【参考】トランプ関税が日本経済に与える影響(2025年4月16日)|帝国データバンク

トランプ関税対策『緊急対応パッケージ』とは

トランプ関税対策『緊急対応パッケージ』とは

日本政府は2025年4月25日、『米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ』を発表しました。本パッケージには、いわゆるトランプ関税の影響を受ける中小企業向けの支援策が盛り込まれています。

税理士として顧問先に説明すべき主な支援内容は、以下のとおりです。

相談窓口の設置

トランプ関税では自動車に加えて、機械、日本酒、衣料品など幅広い製品が追加関税の対象となるため、関心を持つ顧問先もいると考えられます。

公的な情報源としは、日本貿易振興機構(ジェトロ)が公式ホームページ内に特集ページを開設しているほか、全国1,181か所の商工会議所等に相談窓口が設置されており、すでに約2,600件を超える相談が寄せられています。

【参考】特集:米国関税措置への対応|日本貿易振興機構

【参考】米国の関税措置に対する国内対応について(2025年5月12日時点)|経済産業省

ガソリン代定額引き下げ措置の開始【2025年5月開始】

2025年5月22日から、ガソリンと軽油の定額引き下げ措置が開始されます。引き下げ幅は、ガソリンと軽油が1リットルあたり10円、重油と灯油が1リットルあたり5円です。この措置の注意点は次の2つです。

  • 1週間に1リットルあたり1円ずつ引き下げるなど段階的な措置(実施日から直ちに価格が下げるわけではない)
  • 発電用燃料油や外航船舶燃料は対象外

【参考】燃料油価格定額引き下げ措置|資源エネルギー庁

電気代引き下げ措置の開始【2025年7月開始予定】

電気代とガス代についても2025年7月分から9月分について支援措置が講じられる予定です。2025年5月に詳細が決定する予定となっています。

補助金の優先採択

トランプ関税の影響を受けた顧問先については、「ものづくり補助金」(第20次公募)と「新事業進出補助金」(第1回公募)の審査において考慮されます。
そのほかの補助金についても優先採択が検討される予定ですが、現時点においては、詳細未定となっています。

【参考】ものづくり補助金公募要領(第20次公募)|ものづくり補助金事務局

【参考】中小企業新事業進出促進補助金公募要領(第1回)1.1版|中小企業基盤整備機構

資金繰り支援策の拡充

中小企業向けの資金繰り支援策として、次の2つが講じられています。

  • 国の制度融資『セーフティネット貸付』(取り扱いは日本政策金融公庫)の対象要件緩和(「売上高5%以上の減少」要件が不要)
  • 日本貿易保険(NEXI)による保険金支払いおよび付保範囲の拡充(予定)

【参考】経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)|日本政策金融公庫

【参考】米国政府による関税措置に関する保険契約上の取扱いについて|日本貿易保険

【参考】米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ 概要(2025年4月25日)|内閣府

王道の経営改善がトランプ関税対策!税理士からの提案ポイント3つ

王道の経営改善がトランプ関税対策!税理士からの提案ポイント3つ

トランプ関税が及ぼす中小企業への主な影響として、売上減少(輸出量の減少や米国内への生産移管による国内生産縮小)と利益率の低下(コスト上昇分の値引き要請など)があげられます。特に大手企業の輸出に関係する顧問先は大きな影響を受ける可能性があるでしょう。

売上の確保と収益性の改善は、経営における基本的な取り組みであり、顧問先の経営改善と同時に、トランプ関税への対策としても有効といえます。

以下は、税理士として顧問先に提案したい具体的な取り組み内容です。

資金繰り支援策の活用

まず資金繰りを安定させる取り組みを提案することがおすすめです。
トランプ関税の影響を受ける中小企業向けの資金繰り支援策が、自治体や民間金融機関において講じられています。

【参考】米国関税措置の影響を受ける中小企業を支援|東京都

販売価格への転嫁

販売先と価格交渉をおこない、追加関税などのコスト上昇分を価格に反映させる提案を検討しましょう。​販売価格への転嫁が​難しい​場合は、販売先へ​別の​付加価値を​提供するなどの代替案を検討できます。

補助金を活用した新分野進出など売上確保策

売上確保策として、米国向け以外の輸出国を探すことがあげられます。また新たな販路構築、新しい事業分野への進出などを検討できます。
顧問先が新たな事業分野への進出に取り組む場合は、「中小企業新事業進出補助金」などの公的支援策の活用を提案しましょう。本補助金は補助率1/2、補助上限額は9,000万円(従業員数などにより異なります)、機械装置費や建物費などが対象となります。

【参考】中小企業新事業進出補助金|中小企業新事業進出補助金事務局

優先採択される補助金などを活用した収益性改善策

売上減少やコストダウン対策として、新たな事業や新たな製品への取り組みによる収益性の向上策を提案することを検討しましょう。
上記の「中小企業新事業進出補助金」と「ものづくり補助金」は、トランプ関税の影響を受ける中小企業が審査時に考慮されます。

また、省人化などによる生産性向上を支援する「中小企業省力化投資補助金」についても、顧問先への提案が有効です。

【参考】中小企業省力化投資補助金|中小企業省力化投資補助金事務局

顧問先への提案は経営革新等支援機関推進協議会がサポート

トランプ関税をめぐる各国の交渉が続いており、今後の追加関税の動向によっては、日本の中小企業が大きな影響を受ける可能性があります。

税理士から顧問先に対して、情報収集のアンテナを高くしておくとともに、この機会に自社の経営を改善させる取り組みの検討を提案しておくことがおすすめです。

顧問先の事業計画に合った公的支援策や、資金繰り改善策の立案など、顧問先支援業務の拡充は「経営革新等支援機関推進協議会」がトータルでサポートします。
全国約1,700以上の会計事務所が利用する経営革新等支援機関推進協議会へ、お気軽にご相談ください。

ABOUT US

経営革新等支援機関推進協議会
経営革新等支援機関推進協議会は、株式会社エフアンドエムが運営する会計事務所向けの支援団体です。2014年4月に設立し現在では、全国1700以上の会計事務所が正会員として参画しており、中小企業支援制度についての勉強会・システム提供を通じて全面的にバックアップしている。