インボイス制度や電子帳簿保存法の改正、人手不足などへ対応するITツールの導入は、IT導入補助金を検討できます。
本記事では、ハードウェアの購入費用も対象となるIT導入補助金(デジタル化基盤導入枠)の概要と、顧問先と事務所における活用法について解説します。
目次
IT導入補助金2023の全体像
IT導入補助金とは、インボイス制度やキャッシュレス決済などに対応するIT化を促進するための補助金です。
顧問先の勤怠管理や顧客管理システムなども幅広く対象となります。また要件を充たすシステムやハードウェアが対象であるため、2022年の採択率は80%(デジタル化基盤導入枠)を超えています。
IT導入補助金は3枠6種類
2023年のIT導入補助金は「通常枠」2類型、「セキュリティ対策推進枠」、「デジタル化基盤導入枠」3類型、合計6種類です。
通常枠(A・B類型)
業務効率化や売上増加のためのITツールの導入費用が補助対象です。
対象となるソフトウェアは事務局が事前に登録したものに限られます。
A類型は下記の業務プロセスのうち1つ以上、B類型においては業務プロセス4つ以上が必要です。
なお汎用プロセスのみでの申請は非対象です。
申請には、労働生産性の3%以上向上などを充たす計画書の提出が必要です。
セキュリティ対策推進枠
不正アクセスやウイルスメールなどのサイバー攻撃によるリスクを低減するITツールのサービス利用料(最大2年)が補助対象です。
対象は『サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト』に記載されているツールのみです。
【参考】サイバーセキュリティお助け隊サービス|独立行政法人情報処理推進機構
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
インボイス対応を含む会計ソフトや受発注ソフトなどの導入が補助されます。
対象となるソフトウェアは「会計ソフト」「受発注ソフト」「決済ソフト」「ECソフト」です。通常枠(A・B類型)と異なり、PC(パソコン)や決済用端末などのハードウェアも補助対象です。
デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)
地域全体でのデジタルマーケティングへの取り組みのために、事業協同組合など10社以上の中小企業で構成される商工団体等が導入するITツールが補助対象です。
ハードウェアも対象となります。
デジタル化基盤導入枠(商流一括インボイス対応類型)
発注者がインボイス制度に対応したITツールを導入し、受注者である中小企業へアカウントを提供して使えるようにする費用が補助対象です。
IT導入補助金2023はデジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)がおすすめ
IT導入補助金はデジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)を優先的に検討することをおすすめします。
おすすめの理由は、採択率の高さ、補助対象の広さなどです。
IT補助金2022におけるデジタル化基盤導入類型の採択率
2022年におけるIT補助金(デジタル化基盤導入類型)の採択率は次のとおりです。
【1次締め切りから19次締め切りまでの申請件数、交付決定件数、採択率】
1次締め切りから19次締め切りまでの合計 | |
申請件数合計 | 45,836件 |
交付決定件数合計 | 37,639件 |
採択率(申請件数/交付決定件数) | 82.1% |
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)がおすすめである理由
デジタル化基盤導入類型を優先的に提案する理由は次のとおりです。
- 採択率が高い
- 補助対象が幅広い(下記参照)
- 補助金額の下限撤廃により少額でも補助対象
- 通常枠(A・B類型)と異なり、労働生産性の伸び率の要件が不要
- 会計、受発注、決済、EC用途のバックオフィス業務をDX化するシステム
- PC、タブレット、プリンター、スキャナー、複合機
- POSレジ、モバイルPOSレジ、券売機と付属機器
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)の補助率と補助金額
デジタル化基盤導入類型の補助率・補助金額は次のとおりです。
ソフトウェアの補助率は、導入する機能が「会計」「受発注」「決済」「EC」のうち1つであるか複数であるかにより異なります。
補助率 | 補助上限額 | ||
機能が1つ | 50万円以下 | 4分の3以内 | 50万円 |
機能が2つ以上 | 350万円以下 | 3分の2以内 | 350万円 |
PC、タブレット等 | 2分の1以内 | 10万円 | |
レジ、券売機等 | 2分の1以内 | 20万円 |
補助金額が50万円以下の場合は補助率4分の3以内で算出します。
補助金額が50万円超の場合は、50万円以下の金額について補助率4分の3以内、50万円超の部分は補助率3分の2以内で算出します。
【引用】IT導入補助金 公募要領 デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)|サービス等生産性向上IT導入支援事業事務局
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)のスケジュール
2023年におけるデジタル化基盤導入類型の公募予定(確定分)は次のとおりです。なお2022年は19次締め切りまでの公募です。
公募回 | 公募期限 | 交付決定日 | 事業実施期限 | 報告期限 |
第1次締め切り | 2023/4/25 | 2023/5/31 | 2023/11/30 | 2023/11/30 |
第2次締め切り | 2023/5/16 | 2023/6/21 | ||
第3次締め切り | 2023/6/2 | 2023/7/11 | ||
第4次締め切り | 2023/6/20 | 2023/8/1 | ||
第5次締め切り | 2023/7/10 | 2023/8/22 | ||
第6次締め切り | 2023/7/31 | 2023/9/12 |
【引用】IT導入補助金2023 スケジュール|IT導入補助金事務局
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)の補助対象
補助対象はソフトウェア購入費、クラウドサービス利用料や導入費用、ハードウェア購入費などです。
PCなどハードウェアも補助対象
顧問先がバックオフィスで使用するPC、タブレット、プリンター、スキャナー、複合機が補助対象です。
顧客の決済などに使用するハードウェアも補助対象です。
POSレジ専用機以外に、POSレジ用途で使用するPCやタブレット、付属機器となるカード(コード)リーダー、Wi-Fiルーターなども含みます。
下記の指定されたソフトウェアと同時にIT導入支援事業者から購入する購入代金と運搬費用が対象です。
ソフトは4種類が補助対象
補助対象となるソフトウェアは、次の4つの機能のうち1つ以上を含むことが必要です。
- 会計
- 受発注
- 決済
- EC
上記のITツールを提供しているIT導入支援業者はIT補助金事務局のホームページで検索できます。
【参考】IT導入補助金 デジタル化基盤導入枠|IT導入補助金事務局
補助対象とならない経費
補助対象外である経費の例は次のとおりです。
- 消費税等
- リース契約、レンタル契約の対象
- 中古品
- 交付決定前に購入したもの
- 顧問先が負担すべき経費(売上原価に相当する経費)
- 既存ホームページの改修費用
顧問先と事務所の生産性を向上させる方法
IT導入補助金を活用することで、顧問先の生産性向上やインボイス対応など制度改正への対応が円滑となります。同様に会計事務所においても生産性の向上を図ることも可能です。
顧問先における生産性の向上
中小企業者の生産性向上の主な事例は次のとおりです。
バックオフィス業務の生産性向上や売上の増加など幅広い分野で効果があります。
導入事例 | 効果 |
会計システムのクラウド化と給与計算システムの導入 | 顧問税理士からの提案でシステムを刷新し、給与計算時間の短縮と迅速な業績把握が可能となった。 |
原価計算ソフトの導入 | 原価計算や予算予実管理を見える化したことで、経営数値をリアルタイムで管理できる体制となった。 |
クラウド会計システムの導入 | 会計事務所とリアルタイムで情報を共有し、試算表作成期間は2か月から1か月に短縮した。 |
セルフ注文・レジの導入 | キャッシュレス決済への対応と同時に入金ミスも激減した。売上データの分析が可能となり、販売実績に基づいたチラシの作成ができる体制となった。 |
【引用】ITツール活用事例|IT導入補助金事務局
【引用】IT導入補助金 活用事例|中小企業基盤整備機構
顧問先への本業支援で事務所を差別化
経営者が支援機関から支援してほしいと考える課題はさまざまです。
コロナウイルス感染症流行前と比べると「事業計画策定」「販路開拓、マーケティング」「事業承継、M&A」、次いで「経営改善」が多くなっています。
中小企業が利用して満足度が高かった支援機関としては、金融機関に次いで税理士などの税・法務関係士業が評価されています。
【引用】2023年版中小企業白書|中小企業庁
会計事務所として本業支援業務を強化することで、顧問先からの評価を得ることにつながります。
事務所の生産性向上にも活用
IT導入補助金は会計事務所においても活用できます。
自事務所の業務プロセスの見直しにより生産性を向上させることで、税務・会計業務以外の業務に投入する時間を確保することでも可能です。
導入事例 | 効果 |
会計システムのクラウド化 | 記帳作業、申告作業に要する時間を大幅に削減。資金調達アドバイスなどにかける時間を増加させ、売上増加につながった。 |
顧客管理ソフトの導入 | 顧客情報を一元管理することで、入力時間の削減や新人職員との円滑な情報共有ができる体制となった。 |
顧問先への告知から申請支援まで、経営革新等支援機関推進協議会がサポート
顧問先への迅速な案内の仕組み作りや補助金制度の申請支援などは、経営革新等支援機関推進協議会のサービスがサポートします。
経営革新等支援機関推進協議会は株式会社エフアンドエムが運営する会計事務所向けの支援団体であり、1,689の事務所にご参加いただいています。(2023年5月時点)
認定支援機関業務の開始や実績作りをサポートするサービスを月額33,000円(税込)で提供しており、次のようなサービスをご利用いただけます。
- 診断に応えると顧問先が利用できる公的支援制度を探せる『無料診断サービス』
- 新人スタッフも即戦力となる財務分析・事業計画書作成システム『F+prus』
- 顧問先への最新情報の提供と事務所へのコンタクトを仕組化した『FAS CLUB』
- すぐに使える税制改正や補助金などの最新情報のチラシ、DM素材を提供
- 記帳業務をまるごと外注化できる『おくるダケ記帳』(月額サービス料とは別に費用がかかります)
まとめ
IT導入補助金はソフトウェアとハードウェアの刷新を補助する制度です。インボイス対応や改正電子帳簿保存法への対応に加えて、顧問先のバックオフィス業務の生産性向上においても活用できます。
顧問先の本業改善の提案は自事務所の差別化につながる業務であるため積極的に提案します。
本業支援業務を強化するための定型業務の見直しや事務所スタッフへの教育訓練、顧問先への告知やアピールの仕組み作りなど事務所経営のお悩みは、経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。