公認会計士という職業がAIによって直ちになくなる可能性は低いでしょう。とはいえ、証憑突合や仕訳分析など一部の監査業務では自動化・高度化が進んでいます。理化学研究所と日本公認会計士協会の共同研究では、調査時点から10年後、2029年ごろを想定した試算で、監査補助者業務の約55%、監査主査業務の約34%がAIで代替可能になるとされました。
ただ、AIの出力を監査証拠としてどう評価し監査意見を形成するかという最終判断は、引き続き監査人が担います。会計事務所の生成AI利用率は56%に達する一方、6割超が「活用方法がわからない」と回答しており、AIをどう業務に組み込むかが今後の差を分けるのです。監査法人・会計事務所としては、AIに代替されやすい業務を正しく把握したうえで、公認会計士自身のキャリア戦略とスタッフの人材育成の両面から準備を進める必要があります。
公認会計士の仕事はAIに奪われる?今後の影響と現実
「公認会計士の仕事はAIに奪われる」という言説は、監査業務の一部が自動化されつつある現状から生まれています。まずは、こうした言説がなぜ広がっているのか、その背景を整理します。
AIによって公認会計士の仕事がなくなるといわれる理由とは
証憑突合や仕訳テストといった定型的な監査手続きは、AI-OCRによる証憑のデータ化や、監査支援AIツールによる仕訳・財務データの分析によって自動化が進んでいます。大手監査法人を中心に、監査調書の作成支援や異常仕訳の検知にAIを活用する事例が増えてきました。こうした動きが「AIに仕事を奪われる」という不安につながっています。実際、日本公認会計士協会のテクノロジー委員会は2024年8月13日に「監査におけるAIの利用に関する研究文書」を公表し、AI監査ツールの活用実態と課題を整理しました。
【参考】日本公認会計士協会「テクノロジー委員会研究文書第11号『監査におけるAIの利用に関する研究文書』」の公表について
「AIと協働する公認会計士」が注目される背景とは
一方、日本公認会計士協会は、AIによって監査人の業務が直ちに代替されるものではなく、役割が変化していくという立場を示しています。定型業務をAIに任せることで、公認会計士は財務諸表の解釈やクライアントとの対話、リスク評価といった高度な判断業務に時間を割けるという判断です。監査法人としては、AIを脅威ではなく業務効率化のパートナーと位置づけ、スタッフの業務配分を見直す好機と捉えることが求められます。
なぜ公認会計士がAIを活用すべきなのか?その理由と現状
AI活用は「仕事を奪われないため」だけでなく、監査品質の向上や人材確保対策としても重要な意味を持ちます。ここでは、AI活用のメリットと会計事務所の現状データを確認します。
監査業務でAIを使うことで得られる3つのメリット
監査業務にAIを導入することは、公認会計士にとって3つのメリットを生み出します。
1つ目は監査品質の向上です。一定のデジタルデータを対象に、AIによる全数的な分析や異常検知を行える場合があり、人的サンプリングでは見逃しがちな異常値の発見に役立つことがあります。
2つ目は業務効率化です。証憑突合や仕訳テストなどの定型作業をAIに任せることで、監査チーム全体の作業時間を圧縮できます。
3つ目は専門人材の確保への対応です。監査業務は担い手の確保が課題となっており、限られた人員で監査品質を維持するうえでAI活用は有効な選択肢となります。
会計事務所のAI利用率と課題を調査データで解説
経営革新等支援機関推進協議会が2024年11月に実施した会計事務所向けアンケート調査によると、生成AIを業務に利用していると回答した事務所は56%にのぼりました。一方で、AIを利用していない、または限定的にしか使えていない事務所のうち6割超が「活用方法がわからない」と回答しています。つまり、興味はあっても実装が進んでいない事務所が多い状況です。
公認会計士の業務は将来どこまでAIに代替されるか
理化学研究所と日本公認会計士協会は2022年1月、2019年9月〜2020年3月に実施した調査をもとに、そこから10年後、2029年ごろを想定したAI代替可能性を試算した共同研究報告書を公表しました。現時点の実績値ではなく、調査時点を起点とした将来推計である点に留意しながら、内容を見ていきましょう。
2029年ごろに監査補助者の業務でAIが活用できる作業とは
理化学研究所と日本公認会計士協会の共同研究「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」は、2019年9月〜2020年3月に調査を実施しました。この結果を踏まえて、そこから10年後(2029年ごろ)を想定したシミュレーションを出しています。これによると、監査補助者業務は年間1,435.23時間のうち795.02時間、割合にして約55%がAIで代替可能になるとの試算です。内訳を見ると、証憑や帳簿の突合作業・分析的手続は370.36時間中300.71時間(約81%)、仕訳テストは83.94時間中55.95時間(約67%)と、定型的な確認作業ほど代替可能性が高くなっています。
【出典】理化学研究所・日本公認会計士協会「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」
2029年ごろに監査主査の業務でもAIが使える範囲は
同じ試算では、監査主査業務は年間1,043.18時間のうち354.44時間、割合にして約34%が10年後にAIで代替可能になるとされています。定型的な監査手続きに限れば116.91時間中82.35時間(約70%)が代替可能となるのです。
一方、クライアント調整や監査契約時のリスク評価といった対人・判断業務は代替可能性が大きく下がります。監査補助者に比べて主査業務は非定型の判断が占める割合が高いため、代替可能性も相対的に低い結果です。
AIでは代替できない業務の特徴とは
代替が難しい業務には共通点があります。クライアントとの折衝や心証の把握が必要な業務、監査契約の可否を判断する業務、企業ごとに異なる事情を踏まえたリスク評価などです。これらは決まったルールに当てはめるだけでは対応できず、経験に基づく総合的な判断力が求められます。そのため、定型的な作業を求めがちなAIによる自動化にはなじみません。AIが提示した分析結果を監査証拠としてどう評価し、監査意見にどう反映させるかという最終判断も、引き続き監査人の役割です。
公認会計士がAIを使いやすい業務・使いにくい業務の具体例とは
前節の代替可能性の試算を踏まえ、実務でAI活用が進みやすい業務・進みにくい業務を一覧で整理すると、次の通りです。
| 業務 | AI活用のしやすさ | 理由 |
| 証憑・帳簿の突合 | 進みやすい | AI-OCRによる証憑のデータ化など、判断基準が明確でパターン化しやすい |
| 仕訳テスト・分析的手続 | 進みやすい | 大量の仕訳・財務データを、一定の条件や異常パターンに基づいて分析しやすい |
| 表示チェック | 進みやすい | ルールに沿った照合で対応できる |
| クライアントとの折衝 | 進みにくい | 状況に応じた柔軟な対応が必要 |
| 監査契約時のリスク評価 | 進みにくい | 個別事情を踏まえた総合判断が必要 |
| 新規の業務プロセス理解 | 進みにくい | 前例のないパターンへの対応力が必要 |
なお、AIの判断結果をそのまま監査意見の根拠にすることはできません。最終的な信頼性の担保には公認会計士自身の確認と判断が欠かせないのです。クライアントの機密情報を外部の生成AIサービスに入力しづらいというセキュリティ上の制約も、導入の壁になっています。
AI時代に公認会計士に求められるスキルと役割の変化
AIが定型業務を担うようになる分、公認会計士に求められるスキルセットも変化していきます。大きく3つのスキルと、それに伴う役割・キャリアの広がりを確認します。
公認会計士に必須のAIリテラシー・判断力・対話力
これからの公認会計士に必要なスキルは3つあると考えられます。
1つ目はAIリテラシーです。AIツールの特性と限界を理解し、出力結果を鵜呑みにせず検証できる力が必要になります。
2つ目は判断力です。AIが提示した情報をもとに、最終的な結論を導く責任は引き続き公認会計士にあります。3つ目は対話力です。
クライアントに監査結果やリスクをわかりやすく説明し、信頼関係を築く力の重要性は、AI時代にむしろ高まります。
公認会計士の新たな役割と活躍フィールド
定型業務から解放された時間を、内部統制の高度化支援やコンサルティング業務に振り向ける動きも広がっています。監査法人・会計事務所としては、監査だけでなく、AI導入支援やガバナンス強化のアドバイザーとしての役割を公認会計士に担わせることで、顧客への提供価値を高められます。
AI活用で広がる公認会計士のキャリアパスとは
AIは、資料整理や定型的な会計・管理業務の効率化に役立つ可能性があります。ただ、独立開業には顧客基盤の確保、品質管理体制の構築、独立性の確保、情報管理など幅広い対応が必要です。AIの活用だけで開業のハードルが下がるとは限りません。非監査業務に軸足を移したい公認会計士にとって独立は選択肢の一つですが、判断にあたっては次章のFAQもあわせて確認してください。
公認会計士がAI時代に今すぐやるべきこと
ここまでの内容を踏まえ、公認会計士自身が今すぐ着手できることを4つのステップに整理します。
ステップ0:AI利用ルールと情報管理体制を整える
生成AIを業務で試す前に、利用を認めるツール、入力してよい情報の範囲、出力結果の確認者、利用記録の残し方をあらかじめ定めておくことが欠かせません。クライアントの機密情報や個人情報を、承認されていない外部の生成AIサービスに入力することは避ける必要があります。
ステップ1:自分の担当業務を棚卸・AI代替可能性を把握する
自分が担っている業務を洗い出し、「証憑突合」「仕訳テスト」のような定型業務と、「クライアント調整」「リスク評価」のような非定型業務に仕分けます。定型業務の割合が高い場合は、AI活用による効率化の余地が大きいと考えられます。監査法人・会計事務所としては、スタッフ一人ひとりの業務内訳を可視化し、AI導入の優先順位を決める材料にすることが有効です。
ステップ2:AIリテラシーを身につけ、承認された範囲でツールを使ってみる
ステップ0で定めたルールの範囲内で、ChatGPTなどの生成AIやAI-OCR搭載の会計ソフトを実際に試し、業務での使い所を体感することが重要です。いきなり本番業務に組み込むのではなく、公開情報や匿名化した社内資料の要約といった、機密性の低い用途から始めると導入のハードルが下がります。
ステップ3:非定型・対話型・判断業務にシフトする
AIに任せられる業務が明確になったら、空いた時間をクライアント対応やコンサルティング、内部統制の高度化支援といった非定型業務に振り向けます。監査法人・会計事務所としては、この移行を個人任せにせず、業務配分の見直しや研修機会の提供という形で組織的に後押しすることが望まれます。
公認会計士のAI活用に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 公認会計士の仕事は本当にAIに奪われるのですか?
職業として直ちになくなる可能性は低いものの、業務内容は変化します。証憑突合や仕訳テストのような定型業務はAIに代替されやすい一方、クライアントとの対話や最終判断はAIでは代替できず、公認会計士の役割として残り続けます。
Q2. 公認会計士はどのようにAIを使えばよいですか?
AI活用が進みやすい業務から段階的に導入するのが効果的です。ChatGPTを使った報告書の下書き作成や、AI-OCR搭載の会計ソフトの導入から始めると、無理なく実務に組み込めます。導入前に利用ルールを整えておくことも忘れないようにしましょう。
Q3. ChatGPTのプロンプトはどこで入手できますか?
インターネット上に多数公開されています。業務に精通した同僚へのヒアリングや、会計事務所向けセミナーへの参加、会計系メディアの活用も有効な情報収集手段です。
Q4. 中小の会計事務所では、どのようにAIを活用していますか?
契約書や社内文書のAIレビュー・要約、AI-OCRによる証憑のデータ化、仕訳の異常検知、新人教育向け資料の作成補助など、定型的な確認・整理業務から導入する事例が見られます。金融庁の公認会計士・監査審査会も、監査事務所におけるITの活用とサイバーセキュリティへの取組状況を継続的に確認しており、まずは情報管理ルールを整えたうえで、業務負荷の大きい定型作業から段階的に取り入れる動きが広がっています。
【参考】公認会計士・監査審査会「令和8年版モニタリングレポート」(監査事務所のITの活用とサイバーセキュリティに関する取組状況)
Q5. 非監査業務に注力したい場合、独立すべきでしょうか?
独立は選択肢の一つですが、非監査業務に取り組みたいという理由だけで判断できるものではありません。監査法人に所属していても、独立性に関する規制の範囲内で非保証業務に携われる場合があります。独立後も、守秘義務・利益相反・独立性・品質管理などへの対応は引き続き必要です。また、税務代理・税務書類の作成・税務相談を行う場合は、別途税理士登録が必要になります。顧客基盤や収益計画、提供したい業務の範囲を整理したうえで判断することが大切です。
まとめ
公認会計士の仕事はAIによって直ちになくなるものではなく、業務内容や役割が変化していきます。理化学研究所と日本公認会計士協会の共同研究による10年後(2029年ごろ)の試算では、監査補助者業務の約55%、監査主査業務の約34%がAIで代替可能とされていますが、これは一定の仮定に基づく将来推計であり、対話や最終判断を伴う業務は今後も公認会計士に求められ続けます。まずは自分の業務を棚卸しし、AI利用ルールを整えたうえでAIリテラシーを身につけ、非定型・判断業務へと軸足を移していくことが、AI時代を生き抜くための現実的な戦略です。
AI時代のキャリア形成やスタッフの人材育成に不安があるならば、全国約1,700の会計事務所が利用する経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。

















