2026年7月6日、クレジットカード決済代行大手の株式会社全東信が大阪地方裁判所に準自己破産を申請しました。負債総額は約1,151億6千万円にのぼり、2026年の倒産としては最大規模です。飲食店を中心に加盟店約20万店、そして63の金融機関が債権者として影響を受けています。
破産と同時に決済端末が使用できなくなっています。加盟店では入金予定だった売上金が未入金となり、回収時期や回収額が見通せない事態に陥りました。業界団体は連鎖倒産を防ぐため公的支援制度の早期適用を国に要請し、経済産業省・中小企業庁は7月10日、全国の公的金融機関に特別相談窓口を設置するなど異例の速さで支援策を打ち出しています。
会計事務所としては、顧問先に全東信の決済端末を利用している事業者や、売掛金・貸付金を有する事業者がいないかを速やかに把握すべきです。資金繰り支援策の活用と税務処理の両面から支援する必要があるでしょう。
全東信破産の概要 — 何が起きたか
最初に、全東信の事業内容から破産に至るまでの経緯を整理します。
会社概要と事業内容
全東信は大阪市中央区に本社を置く決済代行会社です。1987年設立の大阪南飲食事業協同組合をルーツとし、株式会社全東信は2006年9月に設立されています。主力事業は、飲食店などの加盟店に対してクレジットカード決済の売上金を早期に現金化する「決済後早期入金」サービスで、カード会社との間に入り、手数料を収入源としていました。
破産までの経緯
全東信は2026年7月6日、大阪地方裁判所に準自己破産を申請し、同日付で破産手続開始決定を受けました。事業停止と同時に決済端末の利用が停止されています。その結果、加盟店では顧客がクレジットカードで支払った売上金の入金見通しが立たない状態となりました。
負債規模と影響範囲
負債総額は約1,151億6千万円(2025年3月期決算時点では1,259億円)で、2026年の倒産事案として最大規模です。加盟店約2万店、金融機関63行が債権者として名を連ねています。複数の銀行が多額の引当処理を検討するなど金融機関側の損失も大きくなっている状況です。
【出典】 全東信の破産、焦付不可避と機会損失 ~外食団体、「セーフティネット保証1号」適用を要請~
全東信はなぜ経営破綻したのか
全東信が破産に至った背景には、大きく3つの理由があります。
20年間の粉飾決算
全東信は約20年間にわたり粉飾決算を続けていたとされています。実態と乖離した決算が長期化したことで経営の実像が見えにくくなったのでしょう。結果、資金繰りの悪化を覆い隠す構造が続いていたとみられます。
コロナ禍での売上急減
主要な取引先である飲食店がコロナ禍で大きな打撃を受けたことも経営悪化に直結しました。全東信の売上高は2021年3月期に約82億円から約50億円まで急減しています。収益基盤の縮小が資金繰りを圧迫したと考えられます。
不正加盟店契約問題
2024年1月には不正な加盟店契約の問題が発覚し、対外的な信用が失墜しました。これを契機に金融機関からの資金調達が難しくなり、資金繰りが限界に達したことが直接の破産要因になったとみられます。
政府による緊急支援策
全東信の破産を受け、経済産業省・中小企業庁は主に4つの支援策を打ち出しました。
支援策発表の概要
経済産業省は2026年7月10日、全東信の破産手続き開始により影響を受ける中小企業・小規模事業者への支援策を発表しました。日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、商工組合中央金庫、信用保証協会など全国の公的機関に特別相談窓口を設置しています。4機関の全国378か所に特別相談窓口が設置されました。
【出典】 全東信の破産手続開始により影響を受ける中小企業・小規模事業者への支援を実施します
セーフティネット貸付
日本政策金融公庫のセーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)は、通常「直近3か月の売上高が前年または前々年同期比5%以上減少」という要件があります。しかし、今回はこの数値要件を満たさなくても利用できるよう緩和されました。融資限度額は中小企業事業で7億2,000万円、国民生活事業で7,200万円、運転資金の返済期間は最長10年(据置3年以内)です。
セーフティネット保証1号
売掛金債権を有する事業者向けには、融資額の100%を保証するセーフティネット保証1号の適用が進められています。対象は原則として50万円以上の売掛金を有する事業者、または50万円未満でも全東信への取引依存度が20%以上の事業者です。利用には、本店所在地の市区町村の商工担当課で認定を受けたうえで、信用保証協会または金融機関に保証付き融資を申し込む手続きが必要です。
全東信は、2026年7月31日付でセーフティネット保証1号の指定事業者となりました。指定期間は2026年7月6日から2027年7月5日までです。
対象となるのは、全東信に対して50万円以上の売掛金債権等を有する中小企業者、または50万円未満でも全東信との取引規模が売上高の20%以上である中小企業者です。通常の保証限度額とは別枠で、信用保証協会が融資額の100%を保証します。
ただ、市区町村の認定や信用保証協会の保証は、融資の実行を約束するものではありません。自治体の認定を受けた後、金融機関と信用保証協会による審査があります。必要書類や申請方法は自治体によって異なるため、事業所所在地を管轄する市区町村や信用保証協会に確認してください。
金融機関への要請
中小企業庁は2026年7月10日、金融庁・財務省とともに金融機関に対し、事業者の資金繰りに支障が生じないよう事業者支援の徹底を要請しました。具体的には、既往債務の返済猶予などの条件変更、貸出手続きの迅速化、担保徴求の弾力化が挙げられています。
【出典】 株式会社全東信の破産手続開始を踏まえた金融上の対応について要請しました
顧問先へ提案できる代替決済手段
決済端末が使えなくなった加盟店にとって、売上機会の損失を防ぐために代替の決済手段の確保が必要です。決済代行各社が相次いで緊急の受け皿となる施策を打ち出しています。
即日〜数日で導入可能な手段
たとえば、Squareは最短で申込当日から決済を開始できる決済手段です。手数料は年間キャッシュレス決済額3,000万円未満の場合、主要カードで2.5%、その他のカードで3.25%が発生します。
また、STORES決済は2026年7月7日から31日までの期間限定で、通常27,720円の決済端末を無償提供し、手数料はフリープランで2.48%からです。USEN PAYは全東信の影響も鑑み、一時的ですが最短3日で端末を設置でき、決済代金の翌日入金に対応しています。
大手決済会社の動き
GMOペイメントゲートウェイやGMOフィナンシャルゲートといった大手決済代行会社も、全東信の空白を埋める受け皿として注目されています。今回のケースは決済インフラを一社に依存するリスクが顕在化したものです。これを鑑み、顧問先に複数の決済手段を確保する重要性を伝えるとよいでしょう。
売掛金・貸付金がある場合に税理士が今すぐやるべきこと
顧問先に全東信への売掛金や貸付金がある場合、税理士としては以下のステップで支援を進めましょう。
● ステップ1:債権の整理と証拠保全
● ステップ2:破産手続きでの債権届出への対応
● ステップ3:貸倒損失の税務判断
● ステップ4:セーフティネット制度の活用支援
● ステップ5:経営セーフティ共済の活用
ステップ1:債権の整理と証拠保全
まず、顧問先が全東信に対して有する売掛金・貸付金・未収金を洗い出すことが必須です。契約書や請求書、入金明細などの証拠資料を整理・保存するよう助言します。回収不能の判断や後述する税務処理には、こうした資料が不可欠です。
ステップ2:破産手続きでの債権届出
管財人・裁判所からの案内を確認し、債権額や法的性質に争いがある場合は弁護士と連携しましょう。税理士の範疇で判断できる場合は、期限内に債権届出をおこなうよう案内します。届出を怠ると配当を受けられないかもしれません。スケジュール管理を丁寧にサポートすることが求められます。
ステップ3:貸倒損失の税務判断
破産開始決定を受けただけで、自動的に貸倒損失として損金算入できるわけではありません。以下の見極めが必要です。
- 法律上の貸倒れ:再生計画の認可決定などで債権が切り捨てられた場合
- 事実上の貸倒れ:資産状況から回収不能が明白な場合
- 形式上の貸倒れ:売掛債権について1年以上取引停止が続く場合
いずれに該当するかを踏まえ、どの事業年度で損金処理すべきかを判断します。貸倒引当金とは性質が異なる点にも注意が必要です。
ステップ4:セーフティネット制度の活用支援
前述のセーフティネット保証1号やセーフティネット貸付は、申請主義であるため顧問先自身が動かなければ利用できません。まずは対象要件を満たすかどうかを確認するサポートから進めましょう。要件を満たす場合は、市区町村への認定申請や金融機関への相談に同行するなど、実務面での後押しが税理士の役割になります。
ステップ5:経営セーフティ共済の活用
顧問先が経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に加入しているかどうかは重要です。加入しているのであれば、取引先の倒産時に無担保・無保証人で借入れができる共済金の貸付制度を利用できます。加えて、解約手当金の範囲内で利用できる一時貸付金(利率年0.9%)も選択が可能です。未加入の顧問先には、今回のケースを機に加入を検討するよう提案するのもよいでしょう。
まとめ
全東信の破産は、決済インフラを一社に依存するリスクと、平時からの与信管理の重要性を改めて示しました。負債約1,151億円という規模の大きさに加え、政府が異例の速さで特別相談窓口やセーフティネット貸付・保証を打ち出したことからも、影響の深刻さがうかがえます。
顧問先の中に全東信の決済端末利用者や売掛金・貸付金を有する事業者がいるかどうかの確認は必須です。該当する場合、税理士としては代替決済手段の確保、公的支援制度の申請支援、そして貸倒損失の適切な税務処理という3つの側面から並走することが求められます。
大型倒産の連鎖倒産防止に限らず、税理士は顧問先へ資金繰りリスクへの備えを伝え、緊急時の対応を支援することは重要です。情報提供など事務所の差別化を考えているならば、全国約1,700の会計事務所が利用する経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。










