国税庁では、インボイス登録事業者(適格請求書発行事業者)の登録件数を1,205,091件(2022年9月31日現在)と発表しています。
9月の1か月間で21万件が登録され、今後も急増する見通しですが、事業者の約40%が準備していないといわれています。
顧問先の業績に影響があるインボイス制度対応への支援を、事務所のサービス拡充と差別化につなげる方法を解説します。
目次
インボイス制度への対応準備は2023年3月まで!
インボイス制度は、2023年10月1日に開始されます。
インボイス制度に対応する「インボイス(適格請求書)」を顧問先が発行するためには、「適格請求書発行事業者」の登録が必要です。
適格請求書発行事業者の登録件数は1,205,091件(2022年9月31日現在)と公表されています。
前月(2022年8月31日時点)の994,317件と比較すると、9月の1か月間で210,774件が登録されたこととなります。
適格請求書発行事業者の登録期限は、2023年3月31日です。
予想されている登録件数は約3,000,000件です。
登録期限までの残り6か月間で約1,800,000件、1か月あたり約600,000件の登録申請が予想されますが、登録の多くは2023年2月から3月に集中すると予想されています。
適格請求書発行事業者の登録申請から登録までの期間は、
e-Tax提出の場合:約3週間
書面提出の場合:約1.5か月
と公表されています(2022年9月30日現在)
登録期限である2023年3月31日から逆算すると、12月から3月までの事務所の繁忙期に、適格請求書発行事業者の申請が集中することとなります。
適格請求書発行事業者を登録予定の顧問先については、対応が急務です。
顧問先への効果的な案内
顧問先の中には、インボイス制度に対応する必要があっても準備していない経営者も多い可能性があります。
インボイス対応に「特段の準備をしていない」事業者は全体で約40%、特に売上高1千万円以下の事業者では約60%とみられています。
顧問先への案内はできていますか?
顧問先の中には、事務所からの案内があっても『あとで見よう』という経営者もいらっしゃいます。
ポストコロナでの投資、人材不足や急激な円安における対応で忙しい経営者は、優先度が高く早急な対応が必要と思われる事項を優先しています。
顧問先がインボイスへの対応を早期におこなうことで、顧問先の販路開拓や現状の取引先へのアピールなども可能です。
顧問先が関心をもつ案内とは
顧問先への案内に、経営者から関心をもってもらうためには、経営者が注目する仕組み作りが必要です。
経営者の関心が高い経営課題は販路開拓や人材確保、商品開発に次いで、財務面の課題となっています。
事務所からの案内に経営者が関心をもちやすくするためには、次の点が有効です。
- 経営者が関心を持っている分野の情報であること
- タイムリーに情報提供していること
- わかりやすい、読みやすいこ
顧問先への案内も、適切な顧問先にタイムリーに情報提供するマーケティングが必要です。
インボイス対応の案内についても、インボイスに対応した経理システムの導入や受注システム導入の場面で活用できる補助金制度を同時に案内しましょう。
顧問先におけるインボイス対応のための補助金制度は次のとおりです。
- IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)
- 小規模事業者持続化補助金(インボイス対応枠)
顧問先の役に立つ補助金情報
顧問先は、売上拡大などの本業の次に、資金調達を経営課題として考えています。
資金調達の手法として最も多い方法は金融機関からの借入ですが、その次が補助金となっています。
顧問先は補助金申請支援を求めています
顧問先が事業計画作成など自社を見直す際の課題としては、自社内でのノウハウ不足や資金不足・資金調達を上げています。
顧問先の経営者が経営上の課題を相談する相手として、業界団体や同業の経営者同士が多くなります。
経営課題のうち財務面は、税理士や公認会計士が半数近くです。
顧問先から会計事務所への期待度が高いことがわかります。
小規模事業者持続化補助金の公募があります
インボイス対応などを含めた補助金として、小規模事業者持続化補助金、略して「持続化補助金」があります。
一般型(第10回)の公募期限は、2022年12月9日です。
次回(第11回)の公募期限は、2023年2月下旬と公表されています。
持続化補助金は、従業員数が少ない小規模事業者にとっては、採択率が比較的高く、取組みやすい補助金として、多くの経営者が利用しています。
持続化補助金は2022年4月に拡充され、現在は、「通常枠」「賃金引上げ枠」「卒業枠」「後継者支援枠」「創業枠」「インボイス枠」の6つの補助枠があります。
補助枠 | 補助率 | 補助上限 |
---|---|---|
通常枠 | 3分の2 | 50万円 |
賃金引上げ枠 | 3分の2 (赤字事業者は4分の3) | 200万円 |
卒業枠 | 3分の2 | 200万円 |
後継者支援枠 | 3分の2 | 200万円 |
創業枠 | 3分の2 | 200万円 |
インボイス枠 | 3分の2 | 100万円 |
インボイス枠独自の申請要件と注意点は次のとおりです。
インボイスの概要 | ・免税事業者または免税事業者であると見込まれる事業者が対象です。 ・免税事業者である(または見込まれる)ことの判定は、2021 年 9 月 30 日から 2023 年 9 月 30 日までの日が属する事業年度でおこないます。 ・事業完了日(申請する事業者が定める事業完了の日)までに、適格請求書発行事業者への登録が必要です。 | |
申請要件 | ・実績報告(事業完了報告)時点で、適格請求書発行事業者の登録が確認できた事業者となります。 実績報告までに適格請求書発行事業者の登録ができていない場合は、採択および交付決定されていても、補助金は交付されません。 | |
申請手続 | ・「インボイス枠の申請にかかる宣誓・同意書」の提出が必要です。裏面に3期分の売上高を記入します。 | |
補助対象経費(専門家相談費用) | ・インボイス制度対応のための専門家(税理士など)への相談費用のみ、補助対象として認められる場合があります。 (インボイス枠以外の補助枠では原則、補助対象外です。) | |
実績報告(事業完了報告) | ・適格請求書発行事業者の登録通知書の写しが必要です。 |
持続化補助金(第8回)の採択結果をみると、申請件数11,279件、採択件数7,098件、採択率は62.9%です。
事業再構築補助金(第6回)の採択率50.0%より高めですが、申請の約40%が不採択となります。
顧問先が確実に採択されるためには、加点措置の活用が有効です。
持続化補助金で優先的に採択される加点措置は7つです。
中でも、「経営力向上計画」の承認を受けている事業者への経営力向上計画加点、補助金申請システム「Jグランツ」を利用した電子申請加点は、顧問先が取り組みやすく、持続化補助金以外にもメリットがある加点項目といえます。
経営力向上計画のメリットは、経営革新計画と比較するとわかりやすくなります。
経営力向上計画 | 経営革新計画 | |
---|---|---|
計画の中身 | 既存事業の改善 | 新たな事業分野の進出 |
申請窓口 | 国 | 都道府県 |
メリット | ・融資、保証の優遇制度 ・補助金での加点措置 ・設備投資をした際の法人税について、即時償却又は取得価額の10%の税額控除が選択適用できます ・(M&Aや他社の事業を譲り受ける場合)不動産取得税や登録免許税などの優遇措置 | ・融資保証の優遇制度 ・補助金での加点措置 ・販路開拓支援 ・補助金制度は2006年に廃止済 |
申請手続 | ・申請書類は約3枚 ・認定経営革新等支援機関からの作成サポート | ・様式以外の添付資料による詳細な説明が不可欠 |
類型承認件数 | 146,762件 (2022年9月30日時点) 2016年7月から約6年間の累計件数です | 最近6年間の累計33,480件 1999年7月からの累計96,694件 (2022年3月31日時点) |
経営力向上計画は申請書類が約3枚と、事務負担が少ないです。
優遇税制など顧問先の経営に直結するメリットが多いため、インボイス対応とそのための持続化補助金申請を考えている顧問先へはアピールしやすくなります。
【参考】経営力向上計画策定の手引き(2022年8月31日)|中小企業庁
【参考】経営革新計画進め方ガイドブック(2022年版)|中小企業庁
補助金などの最新情報で事務所を差別化
会計事務所の本業である税務・会計支援は、今後の縮小が懸念されています。
インボイス制度対応や年末調整などの電子化、勤怠管理のシステム化を含めて、多くの中小企業がIT導入補助金などを利用し、経理システムや勤怠管理システムのクラウド化を進めています。
今後、記帳処理に依存した旧態依然のサービスだけでは、飛躍することが難しくなっていきます。
ITツールなどを上手く活用し業務効率化を図り、空いた時間で付加価値支援に着手することが求められます。
補助金などの資金調達支援業務で事務所の売上向上
税務・会計業務の縮小は、事務所の売上減少につながります。
事務所職員の人件費上昇などを考えて顧問料の値上げを検討したい状況においては、税務・会計業務以外のサービス拡充が必要です。
顧問先の関心が高い補助金申請への支援は、事務所の売上の維持、向上につながります。
補助金支援を入り口に、事務所を差別化
補助金申請のサポートだけでは、顧問先の増加や中長期的な売上増加にはつなげにくいです。
単発的な補助金申請支援のみではなく、補助金申請支援を機会に、顧問先への財務分析支援、顧問先の強みや課題の共有、課題を解決する事業計画作成支援へと、事務所のサービスを拡充することで、事務所を差別化できます。
事業計画の作成支援では、顧問先の費用負担が大きな課題でした。
経営改善計画策定支援事業や早期経営改善計画策定支援事業を活用することで、計画作成費用と伴走費用の補助が受けられます。
また、早期経営改善計画策定支援による計画策定を踏まえて、伴走支援型特別保証を活用することで、顧問先の資金調達支援と資金繰り改善につなげることもできます。
サービス拡充は、財務支援・分析力の強化が重要
顧問先が会計事務所に期待している内容は、財務支援だけではありません。
顧問先が求めていることは、自社の経営内容への理解と自社に適した提案です。
事務所として、顧問先の事業や財務をよく理解していることを、財務分析結果の提供を通じて、顧問先に理解してもらう必要があります。
経営者が好む財務分析は次のとおりです。
客観的な評価基準
- 経営者は、金融機関が決算書をどのように見るのかを不安に感じている
- 金融機関の評価指標にあわせた財務分析は、顧問先の納得性を高める
わかりやすい結論
- どの財務指標が、どのような評価であるか、明確な結果が好まれる
- 忙しい経営者は、端的な表現を好む
見やすい帳票
- 数字や文章の羅列では、忙しい経営者は読まないことがある
- 項目ごとに良い悪いが明確となる、アイコン表示などを好む
- 既に利用されているスタイルが、顧問先や金融機関などにおけるわかりやすさ、利用しやすさにつながる
具体的な課題と改善策
- 課題と解決策を具体的に表現することで、共有しやすくなる
- 具体性の高さは、顧問先への理解の深さを表現できる
具体的な将来像
- 将来の売上や利益、資金繰りを数字で表すことが納得性を高める
- 投資効果や改善効果を数字で表現することで、意思決定が迅速になる
事業展開や資金調達支援への応用
- 的確な財務分析と明確な課題解決策は、各種補助金申請から借入審査資料まで応用できる
顧問先の財務データを利用して改善事項とコンサルティング内容を抽出し、事業計画書を作成することで、インボイス制度へ対応するための補助金申請の支援へとつなげてみてはいかがでしょうか。
経営革新等支援機関推進協議会は、事務所経営全般をサポートするサービスです
経営革新等支援機関協議会は、会計事務所さまの顧問先支援や認定支援機関業務を、一気通貫でバックアップサービスです。
会計事務所の、スタッフのノウハウ習得から実務対応による収益化までをサポートしており、現在1,651の会計事務所さま(2022年10月時点)にご利用いただいております。
- 顧問先へのマーケティングをサポート
すぐに顧問先へ提供できる販促ツールをご用意しています。
各制度の概要や活用ポイントをわかりやすく表現したチラシは、事務所名を入れるだけで提供可能です。
事務所から顧問先への配信メールを、毎月提供しています。
顧問先への説明内容の動画も提供しています。毎月、異なるテーマと選定しているため、顧問先へ継続的に配信できます。
- 顧問先への最新情報を無料提供「FAS CLUB」
顧問先へ、無料で補助金などに関する最新情報をお届けします。
顧問先の関心が高く、利用できる制度が急増した補助金など、各種支援策情報をタイムリーに提供することで、顧問先から相談されやすい仕組みを構築できます。
- 財務支援システム「F+prus」で事務所の差別化
導入会計事務所数1,651事務所(2022年10月時点)の実績があります。
全23種類の会計ソフトに対応済です。
現状の会計ソフトからのデータ取込みで利用できます。
顧問先ごとの改善事項とコンサルティング内容まで、自動で抽出できます。
会計データの入力だけで、事業計画の策定が可能です。金融機関が重視する指標も自動で反映されます。
資金繰り改善シミュレーション機能で、伴走支援型特別保証を利用したリファイナンス(既存融資の借り換え)シミュレーションも可能です。
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「補助金・公的制度コース」と「金融・財務コース」の2つがあり、修了期間はそれぞれ3か月間です。
顧問先支援を行うために必要な補助金や公的制度、金融・財務知識を、未経験者も初歩から学べるさまざまなカリキュラムが含まれています。
まとめ
顧問先におけるインボイス対応は、期限である2023年3月31日までの急務です。
インボイス対応への提案は、補助金申請の案内と同時におこないましょう。
補助金申請への支援は、申請に必要な計画作成支援とともにおこなうことで、顧問先へのサービス拡充や事務所売上の向上につなげることができます。
2022年9月8日に「中小企業活性化パッケージNEXT」が公表されました。
この中には、顧問先の資金調達に役立つ伴走支援型特別保証の拡充や、経営改善計画策定支援事業の強化が盛り込まれています。
いずれも、中小企業支援の専門家である皆さまの認定支援機関業務が期待されている施策です。
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