会計事務所・税理士事務所は人手不足に悩まされているため、新卒入社スタッフなど、経験が浅いスタッフを早期に戦力とする必要があります。スタッフの着実な成長のためには、スタッフのスキルアップを助ける研修などによるサポートが重要です。
本記事では会計事務所・税理士事務所におけるスタッフ向け研修のポイントについて解説します。
目次
研修の目的はスタッフの成長とやりがいの実感
スタッフ向けの研修をおこなう目的は、スタッフのスキルアップだけではありません。
スタッフが対応できる業務の幅が広がることで、スタッフ定着率の向上や、事務所の差別化につながるなどの効果があります。スタッフ向けの研修における主なメリットは次のとおりです。
- 業務の質が上がり、顧問先とのトラブルが減る
- 顧問先へ提供できる業務の幅が広がる
- 税務・会計以外の業務による事務所の収入がアップする
- 顧問先へのアドバイスなどスタッフが仕事にやりがいを感じる機会が増える
- 仕事にやりがいを感じるスタッフが事務所に定着し、離職が減る
- 離職率が低い事務所として採用しやすくなる
税理士事務所における研修の3つの内容
専門性が高い税理士事務所の品質・サービスを維持するためには、採用後の研修による教育が重要です。
税理士事務所のスタッフが、習得すべき主な内容は次の3つです。
業務の基礎スキルを身につける
本業である税務会計についての幅広い知識、スキルを指導します。税制改正にあわせた最新情報とともに、顧問先へわかりやすく説明できるスキルも大切です。
実務で実践できる力を養う
現場で経験を積むことで、税制上の解釈に関する理解や顧問先対応時におけるスタッフの判断力、提案力などを磨きます。
付加価値支援スキルを磨く
税務会計のみで会計事務所を差別化することは難しくなっており、多くの会計事務所が財務コンサルなどに力をいれています。
そのため、スタッフへの研修に税務・会計以外の業務を含める必要があり、例えば、顧問先への財務分析や資金繰り改善の提案、事業計画の策定支援などです。
また、顧問先への支援サービスを拡充することで、スタッフへより幅広いキャリアプランを示すことができ、スタッフの離職の防止にもつながります。
未経験者向け研修の内容とモデル例
4月入所の新卒者については、社会人としての基本的なビジネスマナーから丁寧に指導する必要があります。会計事務所未経験者については、税務・会計のプロとして求められる役割や具体的な作業内容などから指導します。
社会人マナー
電話応対やメモの取り方、報連相、挨拶や顧問先とのコミュニケーションなど、社会人の基本マナーを早期に指導します。
指導者側においても、新人が気軽に質問できる体制を整えておくことが大切です。
会計ソフト
会計ソフトは必須ツールであるものの、一般的にはなじみが薄いため、会計事務所経験者であっても異なるソフトには戸惑いを感じることがあります。入所後、早い段階から操作に慣れてもらいましょう。
月次処理の流れ
業務の基本となる月次監査、申告までの流れなどを早い段階で理解してもらいましょう。未経験者や経験の浅いスタッフへ指導するときのポイントは以下のとおりです。
- 戸惑いやすい仕訳のパターン
- 仕訳入力とともに帳簿をチェックする方法
- 業種ごとの注意点
- 顧問先ごとの決まり事、証憑類を回収するときの注意点
- 申告に備えて情報を収集しておくコツ
- 事務所内でのスケジュールや締め切りを共有、期限の遵守
作業内容をスムーズに理解してもらうとともに、事務所内で習熟状況を共有するためには、マニュアルの整備、作業工程と習熟状況などを可視化するスキルマップの導入などがおすすめです。
未経験者育成のモデル例
未経験者、新卒者への研修のイメージは次のとおりです。
入所後 | 主な研修内容 | 事務所がおこなうアクションの例 |
2週間から 1か月間程度 | ・職業倫理 ・事務所のビジョン、方向性 ・挨拶、電話などのマナー ・スケジュールの共有 ・PCやシステムの操作方法 ・書類、データの整理整頓 | ・所長のビジョン伝達 ・トレーナー、チューターなど新人の相談相手の指名・指導 ・マニュアルの整備 ・システム操作方法の指導 ・証憑類の整理方法について指導 |
1か月から3か月間程度 | ・出納帳入力 ・平易な仕訳入力 ・月次監査の基本 ・税務の基本 | ・作業内容の明確な指示 ・Off-JTの進捗確認 ・作業やOJTにおける課題の抽出と指導 |
1年間程度 | ・月次処理から申告までの基本 ・給与計算 ・年末調整 ・簡易な所得税申告書の作成 ・国税4法の基本的な実務 | ・Off-JTの進捗確認 ・スタッフの性格、スキル習得にあわせた指導 |
研修方法別のポイント
経営革新等支援機関推進協議会がおこなった税理士事務所における社員研修実施状況のアンケートによると、主な研修方法は次のとおりです。
- 先輩スタッフによる研修 20%
- 外部コンテンツの視聴 33%
- 事務所外の研修(オンライン)への参加 22%
- 事務所外の研修(オフライン)への参加 21%
研修内容・時期や方法によってはスタッフの希望とミスマッチが生じてしまい十分な成果が出ない、事務所にとって負担がかかる、などのメリットデメリットがあるため、以下のポイントに注意しましょう。
事務所内研修は負担とリスクが大きい
事務所内で実施する研修は、開催時期などの自由度が高いものの、指導側における負担が重くなります。また、指導内容や研修の質にばらつきが生じるリスクもあります。
研修テーマや内容に応じて、税理士事務所スタッフ向けに提供されている研修サービスとの併用がおすすめです。
OJTはOff-JTとの組み合わせが重要
会計事務所によっては教育・研修制度が確立できていないため、入所後すぐにOJT中心となることがあります。
OJTは実務を効率よく吸収できる即効性があるものの、指導するスタッフの負担が大きい、知識や経験が偏ってしまうなどのおそれがあるほか、業務が属人化するリスクがあります。
幅広い知識を習得可能なOff-JTを組み合わせた、多面的な研修が望ましいです。
座学は隙間時間を活用
税理士事務所は人手不足に加えて繁忙期が長いため、研修にかける時間の捻出が難しくなります。
経営革新等支援機関推進協議会がおこなった会計事務所における研修についてのアンケートにおいても、38%が「時間の確保」が課題であるとしています。
場所にこだわらず、隙間時間を活用できる動画視聴型の研修の導入が効率的です。
顧問先への付加サービスを組み込む
経験が浅いスタッフが本業に慣れてくると、さまざまな業務へチャレンジしてもらう必要が生じてきます。
経験年数が少ないスタッフが将来のキャリアを描きやすいよう、「入所2年目からは資金繰り改善提案を身につける」など、税務・会計以外の業務についても研修カリキュラムに含めておきましょう。
スタッフ研修の計画と実施のポイント
スタッフ向け研修のポイントは次の3点です。
- スタッフの希望や不得意な点などスタッフに応じた研修プランの作成
- 繁忙期を想定した育成スケジュール
- 最新の税制改正や公的支援策、会計業界の動きなど情報のアップデート
スタッフに応じたカリキュラム
スタッフを着実に育成するためには、各スタッフに応じた育成カリキュラムが必要です。スタッフの研修項目や水準を測定し、定期的にフィードバックする仕組みを構築しましょう。
研修期間、頻度の最適化
繁忙期に戦力となるよう、閑散期を中心に研修スケジュールを立てておきましょう。
研修の頻度が多すぎる、時間が長すぎる場合は業務に支障が生じ、短時間では効果が不十分となることがあります。スタッフの習熟水準に応じて、研修内容やスピードを柔軟に見直しします。
研修内容は常にアップデートしておく
税制改正などに対応して、研修内容も常に最新としておく必要があります。また実務面におけるテクニックを含めた内容とすることも大切です。
事務所内で研修内容を準備することが負担である場合は、外部の研修サービスを活用することで、一定の品質を保ったコンテンツによる研修が可能となります。
成功している事務所の実践例は協議会のセミナーでご紹介
成長している事務所における研修方法やスタッフ育成方法は取得しにくい情報であるため、実践例を共有している団体への参加などが効率的です。
全国で1,700を超える会計事務所が参加する経営革新等支援機関推進協議会は、事務所経営の実践例から税制・公的支援策の改正情報、補助金申請のノウハウなどを、数々のセミナーで共有しています。
【セミナー開催情報】https://fm-suishinkyogikai.jp/seminar/
会計事務所の付加価値業務をトータルでサポートする経営革新等支援機関推進協議会では、セミナーの開催だけでなく、事務所の人材育成と実務実践をまるごとサポートするサービスも提供しています。
- 『ACADEMY』
補助金・財務支援が未経験でも3か月で即戦力となる動画研修プログラムです。 - 『講座動画』
いつでも視聴可能で、必要なところだけにフォーカスしたWEB研修を配信しています。 - 『F+prus』(エフプラス)
新人スタッフを即戦力化する財務分析・計画策定ツールです。顧問先がわかりやすい分析結果と資金繰りシミュレーション、財務分析提案メニューがワンパッケージで整います。
まとめ
会計事務所におけるスタッフ向けの研修は、スタッフのスキルアップや、仕事への自信とやりがいをもつことにつながる重要なアクションです。
また、スタッフの成長により、顧問先へ税務会計以外のサービスを提供できるため、仕事にやりがいを感じるスタッフの定着、顧問先あたりの収入の増加などにつながります。
ほかの事務所では「どのような研修をおこなっているのか」、スタッフを着実に成長させるノウハウなどについてお悩みの事務所経営者さまは、経営革新等支援機関推進協議会のセミナーで実践例を聞いてみてください。