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【2025年改正】金融所得課税の引き上げ「ミニマムタックス」とは?税理士から提案したい2つの施策もあわせて解説

【2025年改正】金融所得課税の引き上げ「ミニマムタックス」とは?税理士から提案したい2つの施策もあわせて解説

2025 年(令和7年)から、高所得者に一定の所得税を負担させる「ミニマムタックス」と呼ばれる特例が導入されます。この特例は中小企業においても事業承継やM&Aなどの場面で該当する可能性があります。
本記事では、「ミニマムタックス」の概要と、中小企業における影響、税理士から活用を提案したい2つの公的支援策について解説します。

金融所得課税「ミニマムタックス」とは?いつから?

「ミニマムタックス」(本特例)の正式名称は「特定の基準所得金額の課税の特例」(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)です。「富裕層ミニマム課税」とも呼ばれます。

本特例は所得税率が22.5%となるまで課税額を上乗せする仕組みです。年間約30億円以上(金融所得のみの場合は約10億円以上)の所得がある富裕層が主な対象となります。
【参考】租税特別措置法等(所得税関係)の改正|財務省[AF1] 

「ミニマムタックス」とは税率22.5%までの上乗せ課税

本特例は、合計所得金額から特別控除額3.3億円を引いた金額に税率22.5%を掛けた金額が通常の所得税額を超えた場合、その差額を申告納税する仕組みです。計算式は次のとおりです。

特定の基準所得金額の課税の特例(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)
  • 通常の所得税額
  • (合計所得金額※―特別控除額3.3億円)×税率22.5%
  • ②-①を追加納税

※給与所得、事業所得、株式や不動産の譲渡所得などを合算した「基準所得金額」

【参考】2023年度税制改正(2023年3月)

「ミニマムタックス」の対象となる所得

本特例は、ほとんどの所得を合算した「基準所得金額」が課税標準であり、いわゆる合計所得金額(所得税法第2条第1項第30号の合計所得金額)と異なります。


「基準所得金額」は次の所得を含めた合計所得金額(措置法第41条の19第2項第1号から第9号の合計額)とされます。

  • 総合課税や申告分離課税の対象となる所得
  • 申告不要制度を適用しないで計算した上場株式の配当所得や譲渡所得
  • 特定口座・源泉徴収ありの証券口座内で発生する所得
  • 源泉分離課税対象の退職所得

【参考】租税特別措置法等(所得税関係)の改正(2023年度税制改正)|財務省

金融所得課税の「基準所得金額」はNISAなどを含めない

本特例の「基準所得金額」は、次の所得を含めないこととされています。

  • 利子所得など源泉分離課税対象となる所得
  • NISA口座で投資した金融商品の譲渡所得(上限1,800万円)
  • エンジェル税制による非課税所得(上限20億円)

「ミニマムタックス」は2025年分所得から

本特例は2025年(令和7年)分の所得税から適用されます。

「ミニマムタックス」の計算例

本特例の簡易な計算例は次のとおりです。

ミニマムタックスの計算例①

金融所得のみで合計所得金額10億円の場合

  • 通常の所得税額
    10億円×15%=1億5,000万円
  • ミニマムタックス適用後
    (10億円-3.3億円)×22.5%=1億5,075万円
  • 追加納税額
    1億5,075万円-1億5,000万円=75万円
ミニマムタックスの計算例②

総合課税所得 2 億円、非上場株式譲渡所得 15 億円、上場株式の譲渡所得(申告不要)3 億円の場合

  • 通常の所得税額
    (2億円×45%)+(15億円+3億円)×15%=3億6,000万円
  • ミニマムタックス適用後
    (2億円+15億円+3億円)-3.3億円=16億7,000万円×22.5%=3億7,575万円
  • 追加納税額
    3億7,575万円-3億6,000万円=1,575万円

金融所得課税改正による課税引き上げはなぜか

金融所得課税の改正により導入された「ミニマムタックス」特例は、所得税負担率の不公平性を緩和することが目的です。

給与所得など総合課税対象となる所得の税率は5%から45%の累進課税である一方、金融所得の税率は一律20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)で固定されます。
上記の税率の違いにより、金融所得が多い高所得者は所得税負担率が低くなる傾向があり、本特例が導入されることとなりました。

【引用】説明資料(個人所得税)(2022年10月4日)|財務省

金融資産が多いほど税負担が低い「1億円の壁」

「ミニマムタックス」が導入された理由として「1億円の壁」があげられます。
「1億円の壁」とは、所得金額が1億円を超えると金融所得が多くなり、所得税負担率が低下する傾向のことです。

金融所得課税が中小企業経営者へ影響する可能性がある4つの場面

金融所得課税の改正による「ミニマムタックス」の導入は中小企業の経営者に影響する可能性があります。非上場企業の株式や不動産の譲渡所得が「基準所得金額」に含まれるためです。

財務省の資料によると、2022年(令和2年)における所得1億円以上の納税者の所得総額は約5.6兆円、うち27.4%を占める約1.5兆円が非上場株式の譲渡所得などです。


非上場企業である顧問先の経営者が、本特例に該当する可能性がある主な場面は次の4つです。

事業承継

顧問先である非上場企業の大株主が、その保有株式を事業承継のため後継者や資産管理企業へ譲渡する場面が考えられます。
譲渡所得が約10 億円以上の場合、本特例の対象となる可能性があります。

M&Aによる株式や不動産の売却

顧問先におけるM&Aに伴い、大株主が多額の株式や不動産を譲渡する場面が考えられます。
「ミニマムタックス」の課税標準である「基準所得金額」は、非上場企業の株式や不動産の譲渡所得(特別控除がある場合は控除後の所得)を含むためです。

相続株式の発行企業への売却

顧問先の経営者の相続人が、相続税を納税するために相続した非上場株式を発行企業へ譲渡する場面が考えられます。

相続発生後3年10か月以内に相続した株式をその発行企業へ譲渡した場合の所得税率は15%に軽減されているためです。

ベンチャー企業への投資の回収

顧問先の経営者がベンチャー企業などへ投資した株式を売却する場面があげられます。

税理士から顧問先へ提案を検討したい2つの支援策

上記のとおり、中小企業の経営者やその相続人がミニマムタックスに該当する可能性がある主な場面は、「事業承継・M&A」「相続した株式の発行企業への売却」「ベンチャー企業へ投資した株式の譲渡」の3つです。
これらについては公的な支援策が講じられており、税理士から活用を提案することを検討できます。

法人版事業承継税制

顧問先の経営者が事業承継のため後継者へ株式を譲渡する場合は、法人版事業承継税制の活用を検討できます。
法人版事業承継税制とは、非上場企業の経営者が株式を贈与する場合、その贈与税の猶予や免除を受けられる制度です。事業承継時における税負担を抑えることができます。

【参考】法人版事業承継税制|国税庁

エンジェル税制

ベンチャー企業やスタートアップ企業へ投資する場合は、エンジェル税制の活用を検討できます。

エンジェル税制とは、次のとおり投資時と株式譲渡時(売却損失が発生する場合)に税制優遇措置が講じられている制度です。

  • 投資時:投資金額を総所得金額または株式譲渡益から控除可能
  • 株式譲渡時:売却損失を最大3年にわたって損益通算可能

【参考】エンジェル税制|経済産業省

税理士からの提案は経営革新等支援機関推進協議会がサポート

金融所得課税が改正され、2025年(令和7年)分の所得税から「ミニマムタックス」と呼ばれる特例が導入されました。本特例は年間所得金額約30億円以上または金融所得約10億円以上の富裕層に追加課税を求める制度です。
富裕層だけでなく、中小企業における事業承継やM&Aなどの場面で本特例の対象となる可能性があるため、税理士から顧問先へ情報提供を検討しましょう。

また事業承継やM&Aは税理士が活躍する好機です。
「事業承継税制」「事業承継・M&A補助金」「経営者個人の納税対策」など、税理士は顧問先へ幅広いサービスを提供できます。


税理士から顧問先への情報発信、顧問先が利用できる可能性がある公的支援策のチェックなどは、経営革新等支援機関推進協議会がサポートします。

税務・会計以外のサービス拡充をお考えの会計事務所様は、経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。

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