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令和6年度賃上げ促進税制の改正点と税理士からの提案方法を解説

令和6年度賃上げ促進税制の改正点と税理士からの提案方法を解説

令和6年度税制改正に伴い、賃上げ促進税制が変わります。
中堅企業向けの新設、『くるみん』『えるぼし』認定による上乗せ、繰越控除の導入などにより、中小企業は賃上げ幅の最大45%の税額控除を受けることができます。

本記事は、賃上げ促進税制の改正内容と税理士から顧問先への提案ポイントについて解説します。

中小企業向け賃上げ促進税制の概要(令和6年度税制改正)

賃上げ促進税制は、賃上げ幅に税額控除率を乗じた額について、法人税の20%を上限として税額控除が受けられる制度です。

令和6年度税制改正に伴う主な改正点は次のとおりです。

  • 中堅企業向けを新設
  • 中小企業の税額控除率を現行の40%から改正後は最大45%へ引き上げ
  • 改正前の制度適用期限を3年間延長
  • 控除しきれない控除額について繰越控除制度を導入

賃上げ促進税制の概要

賃上げ促進税制は企業規模別に3つにわかれており、必須要件による基本控除と上乗せ要件2種類による上乗せ控除が設けられています。

中小企業向けの税額控除率は、必須要件を満たす場合の基本控除率が15%または30%、上乗せ要件1を満たす場合は加えて10%、上乗せ要件2を満たす場合は加えて5%、最大で45%です。

中堅企業向けの税額控除率は、必須要件を満たす場合の基本控除率が10%または25%、上乗せ要件1を満たす場合は加えて5%、上乗せ要件2を満たす場合は加えて5%、最大で35%となります。

上乗せ措置

【引用】令和6年度税制改正(案)のポイント(2024年2月)|財務省

中小企業向け賃上げ促進税制の対象となる顧問先

賃上げ促進税制において中小企業向けの対象となる条件は次のとおりです。

(必須要件)

  • 青色申告

(そのほかの要件)

  • (法人の場合)資本金または出資金の額が1億円以下かつ大企業からの出資が2分の1未満
  • (個人事業主の場合)従業員数1,000名以下
  • 中小企業等協同組合、商工組合、左記の組合の連合会

法人で資本金が1億円超の場合は、従業員数2,000名以下であれば中堅企業となります。

【引用】令和6年度税制改正「賃上げ促進税制」パンフレット(2023年12月時点版)|経済産業省

賃上げ促進税制の開始時期

賃上げ促進税制の適用開始は2024年4月1日以降に開始する事業年度からです。

適用期限である2027年3月31日までに開始する各事業年度が対象となります。

個人事業主は2025年から2027年までの各年が対象です。

賃上げ促進税制の適用要件(令和6年度税制改正)

賃上げ促進税制の要件は、必須要件と上乗せ要件2つがあります。

必須要件

全雇用者の給与等支給額が前年比1.5%以上増加することが要件です。計算式は次のとおりです。

(適用事業年度の雇用者給与等支給額-適用事業年度の前事業年度の雇用者給与等支給額)

÷前事業年度の雇用者給与等支給額

【引用】タックスアンサーNo.5927-2|国税庁

増加額が1.5%以上である場合、税額控除率は15%です。
増加額が2.5%以上の場合は税額控除率が30%となります。

全雇用者とはパートタイム、アルバイトなどを含みます。法人の取締役や使用人兼務役員、個人事業主の親族などは除かれます。

雇用者給与等支給額とは、給料などの支給額(所得税法第28条第1項に規定する給与所得)であり次の支給が対象となります。退職手当は含まれず、また雇用調整助成金などは控除します。

・給料、俸給、賃金、歳費
・賞与(決算賞与を含む)
・通勤手当、残業手当、職務手当など

【引用】中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック(2022年12月27日更新版)|中小企業庁

【引用】中小企業向け賃上げ促進税制 よくあるご質問Q&A(2022年12月27日更新版)|中小企業庁

上乗せ要件1:教育訓練費の増加

教育訓練費とは、国内で従事する従業員が職務上必要な技術や知識、異動・配置転換先において必要となると認められる技術・知識を習得させるために支出する費用のことで、損金となるものを指します。
研修を外部に委託した際の費用や外部講師への謝金などが対象です。

【引用】中小企業向け賃上げ促進税制 よくあるご質問Q&A(2022年12月27日更新版)|中小企業庁

上乗せ要件1として上乗せ税額控除を受けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  • 必須要件を満たす
  • (当期の教育訓練費の額-前事業年度の教育訓練費の額)÷前事業年度の教育訓練費の額が5%以上の増加
  • 当期の教育訓練費の額が当期の雇用者給与等支給額の 0.05%以上

【参考】令和6年度税制改正の大綱|総務省

上乗せ要件2:くるみん、えるぼしの認定

必須要件を満たしたうえで、『くるみん』または『えるぼし(2段階目以上)』の認定を受けている企業は税額控除率が5%加算されます。

『くるみん』とは、次世代育成支援対策法に基づく一般事業主行動計画を策定した企業のうち、一定の基準を満たしている企業を認定する制度です。『トライくるみん』、『くるみん』、『プラチナくるみん』の種類があります。
賃上げ促進税制の対象となる認定は『くるみん』または『プラナチくるみん』です。

『えるぼし』認定は女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の届け出をおこなった企業のうち、一定の基準を満たす企業の認定制度です。『えるぼし(1段階目)』『えるぼし(2段階目)』『えるぼし(3段階目)』『プラチナえるぼし』の4種類があります。
賃上げ促進税制の対象は『えるぼし(2段階目)』から『プラチナえるぼし』までです。

賃上げ促進税制(令和6年度税制改正)のそのほかの改正点

令和6年度税制改正による賃上げ促進税制の改正点は上記以外にもあります。中堅企業向けの新設と繰越控除の導入です。

中堅企業向けが新設

従来の大企業(資本金1億円超)のうち従業員数2,000名以下の企業を中堅企業として区分し、大企業よりも要件が緩和されました。

必須要件となる賃上げ幅により基本控除率は10%または25%です。
上乗せ要件1は大企業と同じく、教育訓練費10%以上の増加が必要です。
上乗せ要件2については中小企業よりも厳しく、『プラチナくるみん』、『えるぼし(3段階目)』、『プラチナえるぼし』のいずれかの認定が必要です。

【引用】令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について|経済産業省

赤字や納税少額の顧問先は5年間の繰越控除が可能

中小企業については、賃上げ促進税制による税額控除額について当期の法人税で控除し切れない額がある場合、その繰越限度超過額を5年間繰り越すことができる制度が導入されました。

ただし、繰越税額控除の対象事業年度において雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超える場合に限られます。

【参考】令和6年度税制改正の大綱|総務省

【引用】令和6年度税制改正「賃上げ促進税制」パンフレット(2023年12月時点版)|経済産業省

顧問先へ説明したい、中小企業向け賃上げ促進税制のメリット

顧問先が賃上げ促進税制を活用するメリットは節税だけではありません。人手不足時代における人材採用などにも好影響を与えることが考えられます。

法人税の軽減

賃上げ促進税制のメリットは法人税と法人住民税の軽減です。税額控除により法人税が減額されることで、法人住民税を抑えるメリットもあります。

法人事業税付加価値割についても『控除対象雇用者給与等支給増加額を付加価値割の課税標準から控除できることとする』留意事項を総務省が発表しています。

【引用】令和6年度地方税制改正・地方税務行政の運営にあたっての留意事項などについて(2024年1月18日)|総務省

人材採用、人材育成におけるアピール

賃上げ促進税制の上乗せ要件2で求められている『くるみん』『えるぼし』認定は、子育て世代の若い従業員や女性が働きやすい職場環境を整えていることを表す認定です。

認定企業であることが公的なホームページで公開されるため、自社の取り組み状況を広く知ってもらうことができ、人材採用時のアピールにつながります。

顧問先へ賃上げ促進税制を提案するときのポイント

税理士が顧問先へ賃上げ促進税制を説明するときの注意点と説明ポイントは次のとおりです。

顧問先の従業員数の減少に注意

賃上げ促進税制の必須要件は全雇用者の雇用者給与等支給額です。賃上げしても従業員の離職によって総額が減少すると要件を満たさないこととなるため、顧問先への注意喚起が望ましいです。

教育訓練費の対象となる費用

教育訓練費については現行の賃上げ促進税制(適用期限は2024年3月31日まで)において細かく明示されています。

教育訓練費の対象とならない費用のついても列挙されており、主に以下の費用は対象外となります。

  • 教育訓練中の人件費、報奨金
  • 教育訓練に関する旅費、交通費、宿泊費など
  • 施設の取得などに要する費用
  • 教材の購入や制作費用

【参考】中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック(2022年4月1日以降開始の事業年度用)|中小企業庁

社会保険料の負担

賃上げに伴い、会社負担の社会保険料が増える可能性があります。
賃金だけでなく人件費全体について、顧問先と検討することが望ましいです。

資金繰りの確認

賃上げは従業員にとっては好ましいものの、毎月の固定的支出が増加するため、資金繰りを悪化させる要因となります。

また、一度引き上げた給与水準を下げることは困難を伴います。給与水準を引き下げた場合、離職の増加や従業員の働く意欲を下げる結果となる可能性があります。

賃上げの前に顧問先の収益見通しと資金繰りを検討し、顧問先が人件費の上昇をこなすことができる利益や資金繰りとなっているかを予測しておくことが望まれます。

人件費の上昇をこなす体質への転換

2024年春以降も人手不足が続くと予測されています。顧問先が継続的な人件費の上昇をこなして利益を確保するためには収益構造の改善が必要です。

税理士は賃上げ促進税制の活用における助言だけでなく、顧問先の生産性向上など本業改善をあわせて提案することが望まれます。

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賃上げ促進税制は節税メリットが大きい優遇税制であるため、顧問先の関心が強いテーマです。
賃上げ促進税制とともに収益改善策や資金繰りの安定化策など顧問先の期待を超えるサービスを提案することで、顧問先における満足度を高めることが可能です。

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