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約束手形の決済は60日へ短縮!顧問先への税理士説明ポイント5選

約束手形の決済は60日へ短縮!顧問先への税理士説明ポイント5選

政府は2024年11月から、企業が発行する約束手形の決済期間を60日以内とする新指導基準を発表しました。現行の120日(繊維業は90日)から、業種を問わず60日以内とする方針です。

本記事では、顧問先における手形サイト短縮の影響と税理士から説明しておきたいポイントについて解説します。

約束手形の決済期限は60日へ短縮

2024年2月28日に政府が発表した内容は次のとおりです。

  • 下請法第4条2項2号により禁止されている支払方法である『割引困難な手形』の基準を、決済期間が60日超の手形とする
  • 手形サイトについて業種による差異を設けない
  • 決済期間(手形サイト)が60日を超える手形を振り出す企業に対して公正取引員会が指導をおこなう

従来の『割引困難な手形』の基準は手形サイト120日超(繊維業は90日超)でした。これを60日以内とすることで、手形の受取人である中小企業の資金繰り負担を軽くすることがねらいです。

今回の新指導基準への改正は、2021年3月に見直しされた『手形通達』(関係事業者団体に対する要請)を踏まえたものです。2021年3月の手形通達の内容は次の通りです。

(親事業者による下請代金の支払いについて)

  • 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとする
  • 手形などにより下請代金を支払う場合は、手形の割引料などのコストについて下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること
  • 下請代金の支払にかかる手形などのサイトについては、60日以内とすること
  • 前記の要請内容については、(略)おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること

【参考】手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について(2024年2月)|公正取引委員会

手形サイト60日への短縮の概要

今回、公正取引委員会が発表した約束手形などのサイトを60日以内とする運用は、約束手形、一括決済方式、電子記録債権が下請代金の支払として用いられる場合における指導基準、指導方針を改正することによっておこなわれます。

改正内容の詳細は次のとおりです。

2024年11月から運用開始予定

約束手形のサイトを60日以内とする運用の開始は2024年11月1日以降に発行(振り出し)される手形から対象となります。運用開始までのスケジュールは次のとおりです。

  • 2024年3月28日まで:意見公募
  • 2024年4月:新指導基準を公表
  • 2024年11月1日:新基準による運用を開始

手形サイト短縮は電子記録債権も対象

手形サイトを60日以内とする基準は、電子記録債権、一括決済方式についても対象となります。

今回の約束手形に関する指導基準の新設にあわせて、電子記録債権と一括決済方式についての指導方針が改正される予定です。

手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について(2024年2月)|公正取引委員会

決済期間が60日を超えると下請法など違法の可能性

2024年11月1日以降に支払に用いる約束手形、一括決済方式、電子記録債権のサイトが60日を超える場合は、下請法に定める親事業者の禁止行為に該当するとして、公正取引委員会から下請法に基づく指導を受ける可能性があります。

また建設業法令遵守ガイドラインについても同様の基準に改正される予定です。手形サイト60日を超える手形による支払は、建設業法第24条の6第3項に違反することとなります。

【引用】建設業法令遵守ガイドライン(第9版)|国土交通省

紙の手形廃止は2027年3月末の予定

今回の手形サイト60日以内とする基準改正の後に、紙の手形・小切手を全廃することが予定されています。2027年3月末までに手形交換に出される紙の手形・小切手が対象です。

顧問先が紙の手形を利用している場合は事前に対策を検討する必要があります。

【引用】手形・小切手の廃止/電子化について|全国銀行協会

約束手形の60日への短縮における顧問先への説明ポイント5つ

約束手形のサイト短縮は、顧問先が支払側(振出側)の場合だけでなく、受取人である顧問先においても影響があります。
業種別にみると、建築業、化学産業、金属業などの業界で60日を超える手形が多用されおり、影響が大きいと予測されます。

経営者の経営に関するよき相談相手として、顧問税理士から説明しておきたいポイントは次の5点です。

振出手形のサイト短縮の顧問先における影響

顧問先が支払側の場合、次の影響が想定されます。

  • 手形サイトの短縮にともなう運転資金の確保
  • 現金支払、電子記録債権への切り替えなど取引条件の見直し
  • 仕入先などから、割引料を支払者(振出人)側が負担するよう求められる

下請法が適用される取引以外の取引についても同様にサイトを短縮するように努める必要も考えられます。下請法が適用されない取引であっても、90日や120日サイトの手形を嫌がられる、割引料などの負担を求められるなどの可能性があるためです。

顧問先が約束手形の受取人となる場合の主な影響は次のとおりです。

  • 取引先にあわせた電子記録債権や一括決済方式の導入
  • 売上債権の回収期間の短縮にあわせた支払条件の再検討
  • 裏書譲渡手形に代わる支払手段の確保

裏書譲渡手形(廻し手形)の代替手段の検討

顧問先が紙の約束手形を裏書譲渡する廻し手形を支払手段としている場合は、支払方法の見直しが必要となることがあります。

顧問先が電子記録債権を裏書譲渡することが可能ですが、顧問先の支払相手側が電子記録債権を利用できることが必要であるためです。

資金繰り、必要となる運転資金の予測

手形サイトの短縮に伴い必要となる運転資金の量は顧問先により異なります。必要な運転資金を計算することが不慣れな経営者も多くいるため、顧問税理士から試算を伝えることが望ましいです。

借入など運転資金の調達

手形支払のサイト短縮に伴い運転資金が必要となる場合は、顧問先から取引金融機関へ追加融資や借入枠の増枠を交渉する必要があります。顧問先の財務状態を客観的に分析可能な立場である税理士から提案を検討したい内容は次のとおりです。

  • 支払条件の見直し内容の検討
  • 電子手形、電子記録債権などを導入する際の会計システムとの連携などのアドバイス
  • 顧問先における売上債権、支払債務の管理体制の整備
  • 顧問先に最適な運転資金の調達方法の助言(短期借入、長期借入、短期借入枠の増枠、当座貸越の利用など)

顧問先における資金繰り管理能力の向上

手形サイト短縮に伴う影響を経営者がわかりやすく理解するためには、資金繰り表の作成などが有効です。顧問先自身で資金繰り表を作成できるように顧問税理士からサポートすることで、顧問先における資金管理能力を向上させることにつながります。

顧問税理士への資金繰り改善提案はサービス拡充のチャンスです

手形サイトの見直しは、経営者の良き相談相手である顧問税理士の出番です。

顧問先の売上債権の回収条件・経費などの支払条件・資金調達など財務面全体を俯瞰した検討が求められるためです。

経営者の多くが課題と考える資金繰りの見直しを通じて、顧問先から財務改善策を提案することで、事務所からの財務支援サービスの受注を増やすことが可能です。主な提案の流れは次のイメージです。

  • 顧問先における支払サイト短縮の方針、回収サイトを確認
  • 顧問先における支払サイト短縮の影響を予測
  • 事業見通しの数値化、資金繰り表作成のサポート
  • 財務改善の提案
  • 電子記録債権などの導入サポート

効果的な顧問先への提案は協議会がフルサポート

顧問税理士から顧問先への財務分析と改善策の提案は、経営革新等支援機関推進協議会がフルサポートします。

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