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インボイスで複雑化する顧問先への仕訳入力と書類仕分けの説明ポイント

インボイスで複雑化する顧問先への仕訳入力と書類仕分けの説明ポイント

2023年10月1日のインボイス制度開始後は、顧問先における適正な仕訳と書類の保存が重要であり、税理士から顧問先へ細かな点についてのサポートが望まれます。

この記事ではインボイス制度開始後の仕訳と書類の仕分け(分別)について解説します。

顧問先(買い手側)における仕訳入力についての説明ポイント

インボイスの買い手側の場合、顧問先の経理担当者が戸惑いやうすいポイントは『端数処理』『消費税区分』そして『仕入税額控除されない消費税額』です。

インボイスと区分記載請求書の分別作業

まず請求書や領収書などがインボイスに該当するかを確認します。顧問先へ注意喚起しておくとよい事項は次の3点です。

  1. 登録番号を確認するタイミング、頻度
  2. 消費税額の計算は『1インボイスについて、税率ごとに1回』
  3. インボイスに不備がある場合、修正インボイスが必要

上記①登録番号の確認は受領の都度が理想的ですが膨大な作業となります。取引の金額や取引先に応じて、確認するタイミング(初回の契約時のみなど)と頻度(取引先ごとに1年に1回など)を決めておくとよいでしょう。
また顧問先が利用する会計システムを『適格請求書発行事業者公表サイト』のWEB-API機能と連携させると便利です。

上記②消費税の計算方法は商品ごとではなく、1インボイスにつき税率ごとの合計に対して1回計算する方法となります。

上記③受領したインボイスに不備がある場合、発行者へ依頼して修正インボイスを発行してもらいます。インボイス制度開始後は受領側でインボイスへ補記や修正することが認められないためです。

消費税の端数処理についての社内ルール作り

インボイス制度導入後の消費税の計算は『1インボイスにつき、税率ごとに1回』が原則です。このため1インボイスの仕入を複数仕訳する時に、消費税の端数処理で誤差が生じることがあります。

(例)

<インボイス>

A商品(原材料費) 税抜10,501円 

B商品(消耗品費) 税抜10,289円 

合計 税率10%   税抜20,790円 税込22,869円

<起票>

原材料費 税抜10,501円 税込11,551円

消耗品費 税抜10,289円 税込11,317円

合計   税抜20,790円 税込22,868円

インボイスと仕訳の合計金額とが一致しない場合、仮払消費税等の科目で誤差を調整するなど、顧問先におけるルールを明確化しておきます。

消費税区分を判断する社内の仕組み

インボイス開始後の消費税区分の基本は次のとおりです。

  1. 仕入税額控除対象の課税仕入10%
  2. 控除対象外の課税仕入10%
  3. 仕入税額控除対象の課税仕入8%
  4. 控除対象対外の課税仕入8%

経過措置として免税事業者からの仕入について、仕入税額相当額の一部を仕入税額とできることとなるため、次の区分が追加されます。

  1. 経過措置80%控除対象の課税仕入10%
  2. 経過措置80%控除対象の課税仕入8%
  3. 経過措置50%控除対象の課税仕入10%
  4. 経過措置50%控除対象の課税仕入8%

顧問先において消費税区分を確認する作業を設ける、会計システムにおける設定を再確認するなどのミス防止策を講じておきましょう。

控除対象外の消費税額の仕訳

免税事業者からの購入など、仕入税額控除されない消費税額は取得価格とすることが原則となります。税抜経理方式を採用している顧問先に対しては、インボイスの有無や税率により取得価額を変えることを注意喚起しましょう。

インボイス制度開始前の仕訳例

(借方)建物     1,000 / 現金 1,100

    仮払消費税等  100 /

免税事業者から購入した場合の仕訳例

(借方)建物     1,100 / 現金 1,100

インボイス制度開始後(経過措置期間中)の仕訳例1

(借方)建物     1,020 / 現金 1,100

    仮払消費税等  80 /

インボイス制度開始後(従前と同様の仕訳をおこなう場合)の仕訳例2

(借方)建物     1,000 / 現金 1,100

    仮払消費税等  100 /

    雑損失     100 / 仮払消費税等 100

上記の仕訳例2のように仕入税額控除されない金額を雑損失などの科目で経費処理した場合、法人税の申告で調整します。具体的には、償却資産の場合は雑損失とした金額のうち減価償却費を超える額を償却超過額として別表調整する、期末の棚卸資産については別表で所得金額に加算するなどです。

【参考】令和3年改正消費税経理通達関係Q&A|国税庁

顧問先(買い手側)における書類の仕分け作業に対する説明ポイント

インボイスを受領した場合、登録番号やインボイス記載事項などの確認作業が必要です。受領後も保存が必要です。

インボイスの保存義務

仕入税額控除を受けるための請求書や領収書は、7年間の保存義務があります。
ただし2018年4月以降に発生した欠損金の繰越控除の適用を受ける法人は10年間の保存が必要です。

インボイスの保存が不要となる取引を顧問先に説明しておきましょう。
帳簿のみの保存の場合は、『3万円未満の鉄道料金』などを帳簿へ記載する必要があります。

(インボイスが不要のケース)

  • 簡易課税制度を適用
  • 2割特例を選択
  • 1万円未満の少額取引
  • 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる下記の取引

【引用】消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁

領収書の保存方法

受領した領収書はインボイスに該当するものとそうでないものに区分する必要があります。紙のインボイスをデータで保存する場合や、電子インボイスをデータ保存する場合は電子帳簿保存法にあわせた対応が必要です。

顧問先に対しては、事務所からIT導入補助金などを活用した電子化を提案しましょう。
また紙の資料が多い、デジタル化に消極的などの顧問先に対しては、事務所が記帳代行サービスを利用するなどの事務の軽減を検討することができます。

顧問先(売り手側)における仕訳入力の説明ポイント

売り手側となる場合における仕訳のポイントは「請求書の消費税計算は税率ごとに1回」「売上税額の計算は2種類」です。

消費税の計算は『1インボイスにつき、税率ごとに1回』

インボイス制度開始後、消費税額の端数処理方法が『1インボイスにつき、税率ごとに1回』に統一されます。商品ごとに端数処理をおこなうことはできないため、売上の詳細を仕訳する場合は消費税額の誤差に注意が必要です。

消費税(売上税額)の計算方法は「割戻し計算」と「積上げ計算」

消費税の計算方法として、従来の割戻し計算に加えて、積上げ計算が可能となりました。
売上税額を積上げ計算とする場合の注意点は次の3点です。

  • 売上税額の計算方法として割戻し計算と積上げ計算の併用が可能
  • 売上税額を割戻し計算とする場合は、仕入税額は割戻し計算、積上げ計算のいずれでも選択可能
  • 売上税額を積上げ計算方式とできるのはインボイス発行事業者のみで、仕入税額も積上げ計算方式とすることが必要

振込手数料の処理は3種類

売り手側が負担する振込手数料については3種類の方法があります。

  1. 売上の値引き(対価の返還)
  2. 売り手側が買い手側に対して振込を依頼した役務提供
  3. 買い手側が売り手側のためにおこなう立替払

①売上の値引きとする場合
売上時の税率に応じた値引きの仕訳をおこないます。振込手数料の税率10%ではない点に注意が必要です。
なお金額が税込1万円未満であれば返還インボイスが不要です。

仕訳例
(借方)現金預金 972円 / 売掛金 1,080円

    売上値引き108円 /

【参考】少額な返還インボイスの交付義務免除の概要|国税庁

②買い手へ振込を依頼したとする場合
振込手数料を支払手数料勘定などで経費処理する方法は2つあります。

仕訳例
(借方)現金預金 780円 / 売掛金 1,000円

    支払手数料220円 /

②-1 支払手数料(課税仕入)
振込手数料に関するインボイスが必要です。

②-2 支払手数料(売上返還)
勘定科目にかかわらず、消費税上の取扱いを対価の返還として扱うことが可能です。税率は売上取引の税率を用いること、帳簿へ売上対価の返還に関する事項を記載することが必要です。

③買い手による立替払い
仕入税額控除のため、買い手からインボイスや立替金精算書などをもらう必要があります。買い手がATMを利用した場合は自動販売機特例の対象となり、インボイスの保存は不要です。

【引用】消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(2023年4月改訂)|国税庁

顧問先(売り手側)での書類の仕分けの説明ポイント

顧問先(売り手側)での書類の仕分けの説明ポイント

顧問先における適正なインボイスの発行と保存のポイントは次のとおりです。

『写しの保存』が必要

インボイスを発行する事業者は、発行したインボイスの写しを7年間保存する義務があります。保存期間の計算は、インボイス発行日が属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日を起算日として7年間です。

保存対象となるインボイスは、電子インボイス、修正インボイス、返還インボイス(1万円未満を除く)を含みます。軽減税率対象品目の販売がない場合に買い手の求めに応じて発行したインボイスについても写しの保存が必要です。

インボイスの写しとは、発行したインボイスのコピーあるいは電子帳簿保存法に基づいて記載事項が確認できるデータなどでも問題ありません。

紙による保存はスペースが必要となるため、2024年1月に開始する電子帳簿保存法に対応できる電子保存が効率的です。

電子データの保存方法についてのルール作り

インボイスを電子的に保存する場合は、データの保存場所、保存方法について顧問先内で統一しておく必要があります。また長期間のデータが保存できるだけの容量の確保が必要です。

インボイスにおける対応で「顧問先へ提案」を検討したいこと5点

インボイスにおける対応で「顧問先へ提案」を検討したいこと5点

インボイス制度開始により会計事務所においてもコストが増加します。顧問先への顧問料の見直しは単なる値上げと受け取られないよう、提供するサービスの見直しとセットで交渉することがおすすめです。

事務所と顧問先とにおける作業範囲の見直し

インボイスとなる証憑の確認作業などに事務作業については、事務所と顧問先で確認する範囲をよく話し合っておきましょう。

顧問料の見直し

事務所におけるコストを考慮すると、顧問料の引上げを検討したい顧問先が見つかる可能性があります。
単なる顧問料の引上げであると顧問先に受け取られないよう、事務所において増加するコストの説明や提供するサービスの拡充を含めた引上げが望ましいです。

顧問先における自計化

顧問先に応じて、会計システムの導入にあわせて自計化を促すことも検討できます。
業務の範囲と顧問料とのバランスをとりつつ、顧問先や事務所における負担が増加しないよう顧問先の自計化をサポートしましょう。

記帳代行業務のアウトソース

紙の資料が多い顧問先については、顧問先が領収書を郵送するだけで記帳代行してもらえるサービスの利用により、顧問先の業務量削減を提案できます。

顧問先へのサービスを拡充

インボイスにおける対応として顧問先へ提案可能な内容の例示は次のとおりです。

  • IT導入補助金
  • 小規模事業者持続化補助金
  • 電子帳簿保存法における対応のサポート
  • 顧問先における経理業務のフロー改善の助言

仕訳入力も書類の仕分けも不要!『おくるダケ記帳』の特長

インボイス制度は受け取る場合における仕訳と書類の確認、保管作業が負担となります。
また2024年1月1日に義務化される改正電帳法における電子取引データ保存を考慮する必要があります。

紙の領収書が多い顧問先は負担が増えるため、税理士事務所向けに記帳代行を受託するアウトソーシングの活用が検討できます。

記帳代行サービスの中でも、紙の領収書を送るだけなど「丸投げ型」がおすすめです。
一般的な記帳代行サービスに比べて事務所の負担を大幅に軽減可能です。

 一般的な記帳代行サービス丸投げ型のサービス
『おくるダケ記帳』
料金体系仕訳数に応じた従量制仕訳数にかかわらず定額制
対応証憑一部すべて対応可能
資料送付電子データ紙の領収書の郵送も可
顧問先対応対象外対応可能
サービス対象送信データの入力のみ試算表作成まで可能
納期1~3営業日5営業日
おくるダケ記帳

『おくるダケ記帳』は85,000件の記帳代行実績があるエフアンドエムが運営しているため、「スタッフと遜色ない精度」「納期が確実」などの評価があるサービスです。

会計事務所の生産性向上・付加価値化は協議会がサポートします

インボイスにおける対応で顧問先における経理事務は複雑化し、作業負担も増大します。
仕分けや消費税区分の誤りは消費税の申告に影響するため、顧問先が間違いやすいポイントは会計事務所から細かなサポートが求められています。


インボイス制度開始に伴う事務の増加に加えて人手不足が続く会計事務所においては、生産性の向上が必要です。定型業務の削減やアウトソーシングの活用でスタッフの時間を確保し、より付加価値が高い業務を増やしましょう。

会計事務所における生産性向上と付加価値業務の収益化は、経営革新等支援機関推進協議会がサポートします。

協議会のサービスのうち、インボイス対応で事務量が増加する顧問先と事務所の業務を大幅に削減するサービス『おくるダケ記帳』を紹介します。

「紙の領収書に対応」「顧問先への対応を代行」「帳票書類の7年間保管」など顧問先と会計事務所の業務量を大きく削減できます

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顧問先への本業支援やスタッフの育成サポートまで、会計事務所経営のお悩みは協議会へお気軽にご相談ください。

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経営革新等支援機関推進協議会
経営革新等支援機関推進協議会は、株式会社エフアンドエムが運営する会計事務所向けの支援団体です。2014年4月に設立し現在では、全国1700以上の会計事務所が正会員として参画しており、中小企業支援制度についての勉強会・システム提供を通じて全面的にバックアップしている。