事業承継税制は、贈与税や相続税の納税猶予または免除が受けられる制度です。後継者がこの優遇制度を利用するためには認定支援機関の関与が必須です。
本記事ではメリットが大きい事業承継税制の概要と顧問先への提案方法について解説します。
目次
事業承継税制とは
事業承継税制は、経営承継円滑化法に基づく事業承継支援の枠組みの1つです。
事業承継税制を利用することで、事業承継時に贈与税、相続税を負担せずに会社の株式や事業用の資産を後継者に引き継ぐことができます。
法人版事業承継税制の概要
法人版事業承継税制は、後継者が非上場会社の株式または出資を贈与や相続などで取得した場合、贈与税、相続税の納税が猶予される制度です。
後継者の死亡など一定の要件に合致した場合、贈与税、相続税が免除されます。
【参考】非上場株式などについての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし|国税庁
対象となる承継資産は議決権がある株式または出資に限られます。
一般措置と特例措置の相違点
法人版事業承継税制は「特例措置」と「一般措置」があります。
【引用】非上場株式などについての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし|国税庁
特例措置の手続きの流れ
贈与税の納税猶予を受けるための条件は次のとおりです。
【引用】経営承継円滑化法申請マニュアル【相続税、贈与税の納税猶予制度の特例】2022年12月版|中小企業庁
贈与税、相続税猶予を受ける場合の主な手続きは以下のとおりです。
- 特例承継計画の作成
- 認定支援機関からの所見の記載
- 都道府県へ特例承継計画の提出
(2024年3月31日まで)
- (贈与または相続)贈与の実施または相続の発生
(2027年12月31日まで)
- (贈与)都道府県へ贈与の認定申請
(贈与年の10月15日から翌年1月15日まで)
(相続)都道府県へ相続にかかる認定申請
(相続発生日の翌日以降5か月を経過してから8か月以内)
- (贈与)税務署へ贈与税の申告書などの提出
(贈与年の翌年2月1日から3月15日まで)
(相続)税務署へ相続税の申告書などの提出
- 都道府県への年次報告書、税務署への継続届出書の提出
(申告期限後5年間、年1回)
- 5年経過後に実績報告(雇用維持80%以上)を提出
- 6年目以降は3年に1回、税務署へ継続届出書を提出
法人版事業承継税制のメリット
法人版事業承継税制(特例措置)の主なメリットは次のとおりです。
- 全株式が対象
- 後継者へ株式を譲る株主は親族以外も可
- 後継者は最大3名
- 贈与税、相続税の全額が納税猶予
- 雇用維持(80%)要件の未達時の弾力的な取り扱い
法人版事業承継税制のデメリット
特例措置はメリットが大きい一方、デメリットもあります。
- 特例承継計画の提出が必要
- 時限措置である
- 猶予申請手続きの書類が多く、煩雑
- 贈与税の免除基準は6種類で、長期間が必要
- 特例承継計画の取り消し(条件25種類)、贈与税の猶予措置が取り消しまたは一部納付(条件20種類)の可能性がある
贈与税の免除基準は次のとおりです。
【引用】非上場株式などについての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし|国税庁
計画の取り消しや納税が発生する条件は、顧問先がよく理解することが必要です。
取り消しなどの可能性がある顧問先については、相続時精算課税制度も検討します。
個人版事業承継税制の概要
個人事業を承継する後継者が、個人事業承継計画の認定を受けて事業用の資産を贈与や相続などにより取得した場合、贈与税・相続税の納税が猶予されます。
また後継者の死亡などによって、猶予されている贈与税・相続税が免除されます。
【参考】経営承継円滑化法【個人版事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の認定申請マニュアル】2022年4月改訂版|中小企業庁
贈与税の納税猶予
後継者が贈与によって取得した事業用資産に関する贈与税の納税が全額猶予されます。
対象となる資産は事業用の土地(借地権などを含む。400平方メートルまで)、建物(800平方メートルまで)、償却資産のすべてです。事業用資産の一部のみや第三者への貸地などは対象外です。
【引用】経営承継円滑化法【個人版事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の認定申請マニュアル】2022年4月改訂版|中小企業庁
相続税の納税猶予
後継者が相続・遺贈によって取得した事業用資産に関する相続税の納税が100%猶予されます。
相続税の猶予対象となる資産は贈与税の猶予と同じです。
【引用】経営承継円滑化法【個人版事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の認定申請マニュアル】2022年4月改訂版|中小企業庁
手続きの流れ
納税猶予を受けるための流れは次のとおりです。
- 個人事業承継計画の作成
- 認定支援機関からの所見の記載
- 都道府県への個人事業承継計画の確認申請
(2024年3月31日まで)
- (贈与)贈与の実施
(2028年12月31日まで)
(相続)相続発生後、都道府県への相続にかかる認定申請
(相続発生日の翌日から5か月を経過してから8か月以内)
- (贈与)都道府県への贈与にかかる認定申請
(贈与年の10月15日から翌年1月15日まで)
(相続)相続発生後、都道府県への相続にかかる認定申請
(相続発生日の翌日から5か月を経過してから8か月以内)
- (贈与)税務署への贈与税の申告書などの提出
(贈与年の翌年3月15日まで)
(相続)税務署へ相続税の申告書などの提出
(相続発生後10か月以内)
- 税務署へ継続届出書を提出
(3年に1回)
【参考】個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし|国税庁
個人版事業承継税制のメリット
メリットは次の2点です。
- 事業承継時の贈与税・相続税の負担を猶予できる
- 一定の条件を充たすと納税が免除される
個人版事業承継税制のデメリット
デメリットは次のとおりです。
- 個人事業承継計画の提出が必要
- 適用期限がある
(申請期限は2024年3月31日、贈与期限は2028年12月31日)
- 承継後の事業継続が必要
- 贈与税の免除は後継者の死亡などに限られる
法人版と個人版の相違点
事業承継税制の法人版と個人版との違いは次のとおりです。個人事業主の顧問先については、今後の事業承継とともに法人化するか否かの検討も必要です。
【引用】経営承継円滑化法【個人版事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の認定申請マニュアル】2022年4月改訂版|中小企業庁
法人版事業承継税制(特例措置)は認定支援機関の関与が必須
特例承継計画の提出を含めて、次の3つの場面において認定支援機関の関与が必須です。
- 特例承継計画を作成する時
- 実績報告時に雇用維持(80%以上)の要件を充たしていない場合
- 確認済の特例承継計画の後継者を変更する場合
特例承継計画と個人事業承継計画においては必須
法人版・個人版ともに要件が細かく定められており、外部の専門家からの確認が望ましいです。また特例承継計画と個人事業承継計画ともに、認定支援機関による指導および助言が必須とされているため、顧問先へ提案しやすい制度です。
提案が効果的な顧問先の特徴
法人版事業承継税制の提案が効果的な顧問先の特徴は次のとおりです。
- 現経営者が高齢
- 後継者の候補が概ね決定済
- 株式の評価額が高額
- 業績好調
効果を生む提案のタイミング
事業承継税制の提案は、現経営者と後継者の両方の意思が重要です。顧問先へ事業承継計画の策定を提案するタイミングは次の例です。
- 後継者候補となる人物が明確化
- 後継者が事業の承継を自覚
- 経営が安定
- 法人化を検討
- 後継者の年齢が約40歳
中小企業庁の調査によると、事業承継を実行する最もよい年齢は43.7歳です。現経営者が事業承継した平均年齢である50.9歳では遅いと経営者自身が認識しています。
活用できる提案ツール
事業承継は「今でなくともよい」と先延ばししやすいテーマであり、定期的な意識喚起が必要です。そのため、事務所通信や販促ツールなどの素材として定期的に情報発信します。
定期的に販促ツールを作成し発信することは手間がかかります。税理士事務所向けの販促ツールを提供するサービスの利用が効率的です。
以下のチラシ例であれば、事務所名などを変更するだけですぐに使えるテンプレートとなっています。
効果的に提案する方法
事業承継においては「今」という決まったタイミングがありません。
顧問先が動き出すためには、特例措置の申請期限などを強く意識させる提案も検討します。
また事業承継・引継ぎ補助金などの公的支援先の申請期限の説明も有効です。
法人版事業承継税制(特例措置)の申請期限が迫っています
法人版事業承継税制の特例措置は申請期限、事業承継の実施期限が定められており、現時点では延長は検討されていません。
申請期限は2024年3月31日
特例承継計画の確認申請期限は2024年3月31日です。なお株式の贈与後に特例承継計画を策定することも許容されています。
適用期限は2027年12月31日
贈与などの実施期限は2027年12月31日です。実施期限から逆算して、贈与などをおこなうタイミングを顧問先と検討しましょう。
事業承継への支援は経営革新等支援機関推進協議会がサポート
事業承継は計画の作成に留まらず、株価算定など多くの受注につながるため、積極的に提案します。
事務所のサービスの拡充は経営革新等支援機関推進協議会がサポートします。
経営革新等支援機関推進協議会は株式会社エフアンドエムが運営する、認定支援機関向けの支援団体です。月額30,000円(税抜)でノウハウ習得から収益化までをサポートしており、1,699事務所が利用しています。(2023年6月時点)
協議会が提供するサービス『ACADEMY』では、付加価値支援をおこなうために必要な「補助金・公的制度」「金融・財務」「事業承継」などの知識・ノウハウをまるごと学ぶことができます。
まとめ
事業承継税制は、顧問先にとって贈与税、相続税の納税猶予のメリットが大きい制度です。要件が細かいことに加えて手続きも多く、認定支援機関の関与が必須であるため、税理士から顧問先に提案しやすい制度となります。
事業承継税制のメリットと認定支援機関としての支援が可能であることを顧問先へ提案し、付加価値支援業務の拡充によって事務所を差別化しましょう。
事務所の販促ツールの充実や事務所スタッフの教育訓練は、経営革新等支援機関推進協議会にお気軽にご相談ください。