インボイス制度に伴う事務作業が顧問先と税理士事務所の双方で負担となっています。会計事務所がコスト増加をカバーするためには、顧問料の引上げをすすめる必要があります。
本記事ではインボイス制度対応を含めた顧問料引上げを顧問先へ説明する留意点を解説します。
目次
インボイス制度における対応状況と違反した場合の罰則
インボイス制度における対応は、適格請求書発行事業者登録だけではありません。特にインボイス制度に対応した経理事務や領収書などの管理や保存については未対応の顧問先も多いといわれています。
インボイス制度への違反には罰則があるとともに、顧問先の信用を低下させる危険性もあります。またこれから繁忙期を迎える会計事務所としても、顧問先におけるインボイス対応の体制を早急に整える必要があります。
インボイス制度における対応済は3割!?
2023年9月末時点でのインボイス発行事業者登録件数は、申請件数で約425万件、登録件数で約378万件となりました。
2023年9月15日時点での申請件数約403万件のうち課税事業者は約292万件であり、課税事業者約300万社のほぼすべてが申請済です。また免税事業者の申請件数は約111万件です。免税事業者約460万社のうちインボイス対応が必要とみられる約160万社の多くが申請済です。
【引用】登録申請等の状況|内閣官房
一方、インボイス制度開始後の事務作業については遅れがある企業は約35%とみられています。
2023年10月13日に民間信用調査会社の帝国データバンクが発表したアンケートでは、『順調に対応できている』65.1%(うち中小企業では64.2%)、『対応がやや遅れている』28.5%(うち中小企業29.1%)などとなっています。
【引用】インボイス制度に対する企業の対応状況アンケート|帝国データバンク
インボイス違反には罰則
インボイス制度における違反は罰則と処分があります。また事後処理も負担となります。
- 消費税法違反による1年以下の懲役または50万円以下の罰金
- インボイス発行事業者登録の取り消し処分
- 修正申告、追加納付
罰金は消費税法違反として課されます。報道などで公知となった場合、顧問先の信用低下につながる危険があります。
インボイスで顧問先も会計事務所もコスト増
インボイス対応制度開始後に増加する主な事務作業は次のとおりです。
- 発行したインボイスの保存
- 3万円未満の支払いに関する領収書の保存
- 受領したインボイス番号、必須記載事項の確認
- インボイスとインボイスではない書類との分別
- 経過措置を踏まえた税区分の選択
- インボイス制度に適合した記帳の徹底 etc…
インボイス制度開始後の事務負担の増加はこれからです。顧問先における会計システムなどで対応できる部分はあるものの、最後は人手に依存する部分が残ります。
会計事務所においても、顧問先からの問い合わせ、申告時の書類チェックなどの事務が増します。顧問先も会計事務所も人手不足が懸念事項となっている状況において、事務負担をどのように分担するかが課題となります。
会計事務所は業務報酬全般の見直しを検討しましょう
インボイス制度の導入に伴い、月額顧問料を引上げた事務所が多いとみられます。さまざまな会計事務所向けのアンケートでは、値上げ幅は数万円から10万円未満が多いといわれています。顧問料だけでなく、記帳代行業務や確定申告業務の報酬についても引き上げています。
顧問料
顧問料引上げは、すべての顧問先で一定額を値上げする、顧問先ごとに引上げ幅を変えるなどの方法があります。
顧問先によっては顧問料の範囲内で付帯業務として扱っていた事務が負担となっていることもあります。顧問先ごとの事務所における工数を参考として、顧問料と比較して工数がかかっている顧問先から見直しをすすめることがおすすめです。
記帳代行
仕訳数が多い顧問先は事務所の負担が重くなるため、仕訳数に応じた従量制の加算なども検討します。
仕訳数が少ないが紙の領収書が多い顧問先については、紙の領収書のまま記帳代行が可能となる会計事務所向け記帳代行サービスの導入を検討可能です。
確定申告業務報酬
顧問料契約とのバランスに留意します。顧問料の値上げ幅を少額として、消費税の申告報酬を引き上げる方法などが考えられます。
新規の顧問契約
人手不足とコスト上昇の中で、新規の顧問契約を受け入れるか悩ましい事務所もあると思われます。新規の顧問先については、顧問契約後に予期しない業務量が発生することもあるため、事務所がおこなう業務の内容・量と顧問料とのバランスに留意しましょう。
顧問料引上げは事務所のサービスとのバランス
会計事務所が顧問料などの引上げを顧問先と交渉する際は、顧問先から受注できる業務全体を俯瞰し、顧問先の客単価と事務所からのサービスのバランスをとることに注意します。
顧問料引上げ理由を顧問先へ明確に説明
人手不足と人件費の上昇、加えてインボイス制度における対応は、顧問料を見直す理由として説明しやすくなります。顧問料報酬の相場は顧問先ではわからないため、自事務所でおこなう業務のメニュー表を作成しておく、ホームページで公開している事務所の例と比較するなど、顧問先における納得感を高める方法も検討します。
同時に本来は有償でおこなうべき作業を顧問料の範囲内に含めていないかなども確認しましょう。
コスト重視の顧問先に対してはサービスを限定的に
顧問料の低さを重視する顧問先もあります。顧問料の引き上げが難しい場合は、領収書の記載確認を顧問先の作業とする、巡回監査をオンラインに切り替えるなど、事務所の工数を軽減することを顧問先と交渉しましょう。
付加価値業務との組み合わせで顧問先単価を上げる
報酬の引き上げは顧問先にとってはコスト増加のみ、とネガティブに思われる可能性があります。
事務所からのさまざまなサービスを提示し、顧問先が必要とするサービスを選択してもらうと同時に、事務所のサービス内容をアピールすることも必要です。顧問先から受注する業務を増やすことで、顧問先ごとの客単価を引き上げることも可能となります。
高付加価値サービスの拡充は事務所の効率化から始めましょう
従来の税務・会計業務の受注のみでは、今後も続く会計業務のDX化による需要縮小に対応することが難しくなります。税務・会計を切り口に顧問先における内部課題の解決を支援することで、顧問先から選ばれつづける事務所となることにつながります。
人手不足やインボイス対応などで繁忙感が増す会計事務所が顧問先への支援業務を拡充するためには、事務所の生産性向上が欠かせません。
定型化とアウトソースによる生産性向上
会計事務所における生産性向上の観点は、定型化による効率の向上、定型業務のアウトソーシングなどが考えられます。例えば次の例があります。
- 事務所内の業務フローを標準化、共有化することで、担当以外のスタッフであっても顧問先対応が可能な体制を整える
- 紙の領収書が多い顧問先について、紙の領収書でも対応可能な記帳代行サービスを導入する
- 会計事務所向け財務分析ツールを導入し、キャリアが浅いスタッフの提案レベルを底上げする
- 顧問先へのチラシや情報提供リーフレットの作成サービスを利用する
- 事務所スタッフ向けの研修サービスを導入し、所内研修をアウトソーシングする
スタッフのスキルアップで付加価値業務を拡充
定型業務の削減によって生まれた時間を活かして、顧問先への支援業務など付加価値が高い業務を拡充します。
財務分析業務に付加する資金調達コンサルティング、事業計画書の作成支援にあわせての補助金申請支援などをおこなうためにはスタッフのスキルアップが欠かせません。事務所内での研修のみでは研修準備などに時間がかかるため、会計事務所向けの研修サービスの導入が有効です。
【参考】経営革新等支援機関の認定(更新)基準について|近畿経済産業局
まとめ
インボイス制度開始後の会計事務所における事務コスト増加は不可避であり、顧問料への転嫁が必要です。顧問料の引上げとともに顧問先への本業支援業務の拡充を検討しましょう。
会計事務所の生産性向上と本業支援業務の推進は、経営革新等支援機関推進協議会へご相談ください。
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