紙の約束手形・小切手の流通が2027年3月(2026年度末)で廃止されます。また2024年11月から、企業が発行する約束手形のサイト(決済までの期間)を業種問わず60日以内とする、下請法運用基準が適用されています。
「手形」という長年続いた支払慣行が大きく変わることとなり、手形を発行する企業と受け取る企業の双方で、事前の準備が必要です。
本記事では、約束手形廃止の概要と中小企業における影響、税理士から顧問先へ説明しておきたい5つのポイントについて解説します。
目次
約束手形とは
約束手形は決済方法のひとつです。将来の金銭支払を約束する書面であり、有価証券として広く流通しています。
約束手形は支払期日に支払・現金化
約束手形は、支払のために手形を発行する企業(振出人)が、当座預金口座を開設している取引金融機関から発行された手形の券面に決済金額などを記入し、受取人へ渡すことで代金支払とします。
受取人は受け取った手形を取引金融機関へ持ち込み、手形の支払期日に現金化してもらいます。
振出人は発行した手形の支払期日までに当座預金口座へ入金しておき、支払期日に当座預金口座で決済します。
約束手形のサイトとは
約束手形のサイトとは、約束手形の振出日から支払期日までの期間のことです。
サイトは1か月以内から120日以内が多く、30日、60日、90日など約1か月を目安に設定されることが一般的です。
約束手形の決済は支払期日におこなわれるため、振出人は支払期日まで現金を用意する必要がないというメリットがあります。
一方、受取人は約束手形の支払期日まで現金化できない、支払期日前の現金化(手形割引)は手数料が必要、などのデメリットがあります。
約束手形と小切手の違い
小切手は受取人が即座に現金化できます。
このため小切手を発行する企業(振出人)は、小切手を振り出す時点で当座預金に残高がある、あるいはすぐに口座へ入金しておく必要があります。
約束手形は支払期日に振出人の当座預金口座で決済されます。
振出人は支払期日までに決済資金を準備しておけばよいこととなります。
約束手形と為替手形の違い
(他人宛)為替手形とは、手形の振出人ではなく、別の支払人が受取人へ支払う手形のことです。
振出人は自ら支払う必要がないなどのメリットがあります。
約束手形を受け取ったら「取立」「割引」「裏書譲渡」
約束手形の受取人が手形を換金する方法は次の3つです。
- 取立
手形の受取人が取引銀行へ換金を依頼し、支払期日に現金化される方法です。 - 割引(手形割引)
手形の支払期日前に現金化するため、受取人が取引銀行に手形を買い取ってもらう方法です。
支払期日までの期間や振出人・受取人の信用状態に応じた手数料(割引料)が差し引かれます。 - 裏書譲渡
受取人が取引先への支払手段として、受け取った手形を支払先へ交付することで支払に替える決済方法です。廻し(回し)手形とも呼ばれます。
紙の約束手形・小切手は2026年度末で廃止
全国銀行協会が自主行動計画を策定し、2027年3月(2026年度末)で紙の約束手形・小切手の流通(決済)が廃止される予定です。
政府が2021年6月に「5年後の約束手形の利用廃止」「小切手の全面的な電子化」方針を発表したためです。
メガバンクは新規の約束手形・小切手の発行終了など手形廃止に向けた対応を発表しています。例として、三井住友銀行が発表している約束手形・小切手の廃止までのスケジュールは次のとおりです。
- 2025年9月30日
手形・小切手帳の新規発行受付終了 - 2026年9月30日
手形・小切手の振出期限(2026年10月1日以降に振り出した手形・小切手は決済されません) - 2027年3月下旬
取立受付の終了
【引用】手形・小切手の発行終了等に関するお知らせ|三井住友銀行
紙の約束手形・小切手廃止はいつ?
全国銀行協会が定めた自主行動計画によると、2027年3月末(2026年度末)に紙の手形・小切手の交換(決済)をゼロとする予定となっています。
【参考】手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画(2024年7月19日改定)|全国銀行協会
約束手形の廃止対象は紙のみ・電子記録債権(でんさい)は対象外
上記の自主行動計画により廃止される対象は「紙の手形と小切手」です。
紙の手形と小切手の代替手段となっている電子記録債権(でんさい)は継続されます。
約束手形・でんさいのサイト(決済期限)は60日以内(2024年11月以降)
政府は2024年2月28日に、約束手形と電子記録債権(でんさい)の支払サイトを60日以内とする下請法の新運用基準を発表しました。2024年11月1日以降に発行される手形・小切手が対象です。政府が発表した運用基準の見直し内容は次の通りです。
- 下請法第4条2項2号により禁止されている支払方法である『割引困難な手形』の基準を決済期間が60日超の手形とする
- 手形サイトについて業種による差異を設けない
- 決済期間(手形サイト)が60日を超える手形を振り出す企業に対して、公正取引員会が指導をおこなう
手形サイト短縮は電子記録債権も対象
手形サイトを60日以内とする新運用基準は、電子記録債権(でんさい)や一括決済方式についても対象となります。
約束手形の決済期間60日超は下請法など違法の可能性
2024年11月1日以降に発行する約束手形、電子記録債権、一括決済方式のサイトが60日を超える場合、公正取引委員会から下請法に基づく指導対象となる可能性があります。
建設業界においては建設業法違反となる可能性があります。
建設業法令遵守ガイドラインにおいても同様の改正がなされており、サイト60日超の手形による支払は建設業法第24条の6第3項違反となることが明記されました。
約束手形廃止における顧問先への説明ポイント5つ
約束手形の廃止は支払側(振出人)だけでなく、受取人となる企業においても影響があります。顧問先が手形廃止における準備をおこなうために顧問税理士から説明しておきたいポイントは次の5つです。
約束手形が廃止されたときの影響
手形廃止に伴う主な影響は次のとおりです。
- 決済までの期間短縮に伴う運転資金の確保
- 現金支払、電子記録債権への切り替えなど支払条件の見直し
- 振込手数料などのコスト増加
- 取引先にあわせた電子記録債権や一括決済方式の導入
- 売上債権の回収期間の短縮にあわせた支払条件の見直し
- 裏書譲渡手形に代わる支払手段の確保
裏書譲渡手形(廻し手形)の代替手段の検討
顧問先が支払手段として手形の裏書譲渡(廻し手形)を利用している場合、支払方法の見直しが必要となることがあります。
電子記録債権であっても裏書譲渡が可能ですが、相手側が電子記録債権を利用できることが前提となります。
資金繰り、必要となる運転資金の予測
約束手形の廃止に伴い必要となる運転資金の量は顧問先により異なります。必要な運転資金を計算することが不慣れな経営者も多くいるため、顧問税理士から試算を伝えることが望ましいです。
手形割引に替わる借入など運転資金の調達
手形廃止に伴い運転資金が必要となる場合は、顧問先から取引金融機関へ追加融資や借入枠の増枠を交渉する必要があります。顧問先の財務状態を客観的に分析可能な立場である税理士から提案を検討したい内容は次のとおりです。
- 支払条件の見直し内容の検討
- 電子手形、電子記録債権などを導入する際の会計システムとの連携などのアドバイス
- 顧問先における売上債権、支払債務の管理体制の整備
- 顧問先に最適な運転資金の調達方法の助言(短期借入、長期借入、短期借入枠の増枠、当座貸越の利用など)
顧問先における資金繰り管理能力の向上
約束手形廃止に伴う影響について、経営者がわかりやすく理解するためには、資金繰り表の作成・活用などが有効です。顧問先自身で資金繰り表を作成できるように、顧問税理士からサポートすることで、顧問先における資金管理能力向上につながります。
顧問税理士への資金繰り改善提案はサービス拡充のチャンスです
約束手形の廃止は顧問先の資金繰りへおよぼす影響が大きいため、経営者の良き相談相手である顧問税理士の出番です。
顧問先の売上債権の回収条件・経費などの支払条件・資金調達など財務面全体を俯瞰した検討が求められます。
経営者の多くが課題と考える「資金繰りの見直し」を通じて、顧問先から財務改善策を提案することで、事務所からの財務支援サービスの受注を増やすことが可能です。主な提案の流れは次のイメージです。
- 顧問先における支払サイト短縮の方針、回収サイトを確認
- 顧問先における約束手形廃止の影響を予測
- 事業見通しの数値化、資金繰り表作成のサポート
- 財務改善の提案
- 電子記録債権などの導入サポート
効果的な顧問先への提案は協議会がフルサポート
顧問税理士から顧問先への財務分析と改善策の提案は、経営革新等支援機関推進協議会がフルサポートします。
経営革新等支援機関推進協議会は、会計事務所による顧問先支援業務を拡充するサービスを月額30,000円(税別)で利用でき、全国約1,700事務所が参加しています。
新人スタッフ育成に役立つ顧問先への提案ツールや、実務で使える研修プログラムの提供などを通じて、顧問先への本業支援業務の収益化から事務所の差別化までサポートしています。
- 税制・補助金などの改正情報に関わる『販促ツールの提供』
- 財務分析や事業計画の生成が簡単にできる分析・提案ツール!『F+prus』(エフプラス)
- 補助金・財務支援を短期間で身に付ける研修プログラム『ACADEMY』
など
顧問先への支援業務の拡大を通して「税務・会計だけではない事務所」としての差別化を強化したい会計事務所さまは、ぜひ経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。
[ad4]