インボイス制度による業務負担増加や賃金上昇の波もあり、高収益を出せる強い会計事務所を目指している方も多いのではないでしょうか。
しかし「まず何から始めるべきなのか分からない」という声をよく耳にします。
この記事では、2023年9月に開催した当協議会フォーラムの御堂筋税理士法人の才木正之氏と税理士法人アクセスの鈴木浩文氏による対談から、高収益型経営を実現した会計事務所の取り組みや戦略をご紹介します。
目次
業界をリードする事務所が考える高単価サービスのトレンドとは?
まずは、会計業界における高単価サービスのトレンドについてお二人にうかがいました。
才木氏;
最近伸びているサービスとしては、事業承継やM&Aが挙げられます。
昨今の高齢化によって、後継者不足の会社が増えていることが要因だと考えられる。
鈴木氏:
自社をショールーム化(商品化)したサービスだと思います。
税理士法人アクセスは、開業10年目に当時の社員20名中19名が退職し非常に苦しい時代がありました。
現在はその経験をバネに、当時の苦労や乗り越えた手法をセミナー等でお話していると、顧問先から「アクセスでやっている人事評価・教育制度をそのまま取り入れてみたい」と言っていただくことがあります。
人事評価や教育制度のプロフェッショナルではないが、自社が成功している事例として説得力があるからこそ、事務所やサービスを選んでいただけていると感じている。
高単価サービス提供で意識するべきは定量的な検討とシビアな判断
才木氏:
弊社では、社員のレベルごとに顧問先へのサービス提供時間、顧問料、およびコンサル費について社員のレベル別に基準値を設定しています。
新規の案件を受ける場合は、必ず数字に置き換えて、時間単価がこの基準値を下回る案件は受けないようにしています。
経営者としては、サービス提供により売上が上がると嬉しいが、スタッフにとって業務は一定の負担がかかるものです。
生産性の高い業務であればスタッフにとってやりがいもあるが、定型業務の増加は自身の成長も感じることができず、やりがいを感じないでしょう。
今までもよりも、質の高いサービスを提供することを突き詰める方法で売上を伸ばすことを意識してみてください。
高単価なサービスを展開していくためには何から始めたらいいのか?
高単価サービスの提供を始めるにあたり、何の検討からはじめるべきなのかをお二人の経験からうかがいました。
高単価サービスを検討する基準は時間単価である
才木氏:
必ず時間単価でサービスを検討し、より高単価なものを選択する。
これに尽きると思います。
また、会計事務所ごとに顧問料の請求方式が違いますが、私としては、時間単価がわかりやすいように記帳サービスやコンサルなど、サービス別で単価を分けることをおすすめします。
例えば弊社の場合、顧問料(毎月)と決算料(顧問料5ヶ月分)をいただいているが、決算時のサービスは5カ月分の時間をかけていないので、生産性は決算料の方がいいと言えます。
新しく着手するサービスは、今よりも5000円でも時間単価が高いものを選んでいけば、売上を着実に伸ばすことができます。
また、世間的に難しいといわれているサービスを選ぶことも1つの手です。
業務の標準化が推奨されているなか、高付加価値サービスとして難易度が高いことを選ぶのは矛盾していると考える方もいるかもしれません。
しかし、将来的に定型業務をAIがサポートできることを考慮すれば、最終決定など考える(世間的に難しい)業務に人間が従事するため、今からチャレンジする姿勢が大切です。
さらに、他の事務所での対応が難しい高単価サービスに挑戦することで、事務所の独自性を高めることができるため、寧ろチャンスと捉えましょう。
成功体験(実績)から自己肯定感を高める
鈴木氏:
まず「はじめの一歩をどうするか」だと思います。
例えば、月30万円のコンサルを新しく始めるとしましょう。
みなさんは税理士として仕事を受ける自信がありますか?
月額30万、年間360万円を顧問先から受け取り、その対価に見合うサービスを提供できるかどうかは、みなさんの自己肯定感にかかっています。
では、どのように自己肯定感を生み出すのか。この答えは簡単です。
自己肯定感は成功体験から生まれます。
弊社だけでなく、御堂筋税理士法人さんでも、一度挑戦してみて喜んでいただけたという成功体験が自信につながったと思います。
はじめの一歩といいましたが、サービスの自己開発をゼロから始めることは困難です。
そのため、既存のサービスから始め、誠実に対応し、成功体験を積み上げていきましょう。
高収益型経営を目指すにあたり、どのようにサービスを取捨選択するべきか?
高単価サービスの提供を始めたいと思っているが、事務所スタッフが疲弊していてなかなか厳しいという方も多いと思います。
そこで、単価や業務負担、事務所のビジョンなどを考慮した、両事務所でのサービス取捨選択方法についてうかがいました。
事務所を成長させてくれる顧問先とサービス提供を検討する
才木氏:
弊社は、創業当時から記帳代行をおこなわないと決めていました。
また、現在は新規案件として個人事業主様の確定申告は受け付けていません。
これは、弊社のサービスを確立するにあたり、弊社サービスを効果的に利用してくださる企業様の規模を見極めた結果、数億円規模の企業様であるということが判明したからです。
会計事務所は「顧問先と長いスパンで関係性を築きながら、パートナーとして互いに成功する」というアプローチで経営をおこないます。
そのため、経営戦略として、弊社が提供するサービスの価値を最大限に引き出してくれる顧問先を選ぶことこそが、事務所の成長につながるのです。
定型業務でも単価が見合えば受けて、+αの価値提供から単価引き上げを狙う
鈴木氏:
弊社では、時間単価をクリアすれば、定型業務も受けています。
弊社は「理と利の統合」を掲げ、理想と利益のバランスを探求しています。
理想を追求すれば利益が得られず、逆に利益を追求すればスタッフが疲弊してしまうでしょう。
また、定型業務に対しても+αの価値提供を検討し「自社であればここまで対応できます」と自信を持って伝えることで、単価を引き上げることにつながるでしょう。
付加価値提供にともない発生するスタッフの不満はどう対応する?
高単価サービスを提供するにあたり、スタッフの負担は少なからず増加します。
事務所の成長を促すにはサービスのレベルを上げていく必要がありますが、スタッフからの不満を減らすにはどうしたらいいのでしょうか。
スタッフの不満は減らそうとせずに、事務所の成長を第一に考える
鈴木氏:
スタッフからの不満や不平を遮らないことが重要なことです。
なぜなら、不満の発生元はスタッフ側にあり、コントロールできるものではないからです。
事務所の経営者が主導権を持てることは、事務所をどう魅力的に成長させていくかということです。
その思いに共感して、事務所やあなた自身についてきてくれるスタッフと成長していきましょう。
また、定型業務を好むスタッフや高単価サービスに意欲的なスタッフがいるように、会計事務所の業務は多種多様です。
スタッフ1人1人にあわせて業務を割り振り、事務所全体の効率と業績を最大化させましょう。
社員と経営者のギャップをなくす
才木氏:
私も、スタッフの不満はコントロールできないため、不満を減らすことに注力するべきではないと考えています。
ただし、その不満を解消することはできると思います。
弊社では、面談をおこない社員から聞き出した不満に対して、解決策をともに考えるようにしています。
社員と経営者の間には、どうしてもギャップが生まれるものなので、目線を合わせることで不満の解決につなげることができます。
まとめ
本記事では、高収益型の会計事務所経営者として、才木氏と鈴木氏がどのようにサービスを検討し、取りいれているのかについて紹介しました。
高収益型の事務所となるための主なコツは下記4点です。
- 提供サービスは時間単価を基準に判断する
- まずは既存のサービスを真似してみる
- 難しいサービスも挑戦して自社の成功体験をつくる
- スタッフからの不満は減らそうとしない
高収益型の事務所を目指すにあたり、アウトソーシングや社員教育などに悩んでいる場合は、経営革新等支援機関推進協議会がサポートします。