2024年の設備投資計画は前年度比8.3%増と高い水準が続いています。税理士は投資予定がある顧問先に対して補助金と優遇税制をあわせた提案が可能です。
本記事では、顧問先への提案を検討したい定番・新設の補助金とあわせて提案したい支援策を解説します。
目次
顧問先への提案の主要なテーマ『省力化・省人化投資』
中小企業の経営者が取り組んでいる投資のテーマの1つが『省力化・省人化投資』です。背景には人手不足、時間外労働の抑制、賃上げによる人件費の増加があるとみられています。
人手不足と賃上げが続く予測
人手不足が続き、中小企業においても賃上げがすすんでいます。日本商工会議所によると、2024年4月の中小企業の賃上げ幅は平均3.62%(正社員のみ)となりました。
2024年7月に経済同友会が実施したアンケ―ト調査によると、2025年に賃上げ予定の企業は67.6%、賃上げ率は4から5%が最多の30.3%となっており、今後も賃上げが続くと予測されます。
一方で2024年に賃上げした企業のうち59.1%は業績の改善がみられない中で賃上げを実施しており、人件費の上昇が経営に負担となっている可能性があります。
2024年も設備投資は高水準が続く計画
2024年7月に発表された日銀短観によると、2024年の設備投資計画は前年度比8.3%増加(全規模全産業)と高い水準を維持しています。
中小企業については、全産業でみるとマイナス0.8%と前年比同水準ですが、中小製造業においては13.0%増と高い水準で設備投資を実施する計画となっています。
顧問先の明暗を分ける?『省力化・省人化投資』
設備投資の目的でみると「需要増への対応」が半数を超える50.5%です。次に「人手不足への対応」が37.1%、「時間外労働、長時間労働の抑制」が31.6%と続いており、いずれも前回調査(2023年11月)より増加しています。
人手不足をカバーするための省人化・省力化投資をおこなっている企業は、投資をしていない企業に比べ売上高・経常利益ともに改善しています。今後は人手不足対応を目的とした投資の有無により、経営の差が拡大することが予測されます。
税理士が押さえておきたい定番・新設の補助金6選
人手不足や賃上げに対応するためには、顧問先における資金負担を軽減しつつ前向きな投資を実施できる公的支援策の活用が重要となります。
2024年に顧問税理士から顧問先へ提案を検討したい、6種類の補助金は次のとおりです。
商業・サービス業も使える『ものづくり補助金』
ものづくり補助金は新製品開発や生産プロセスの省力化などのための設備投資・システム構築が対象となる補助金です。また商業、サービス業も対象です。
ものづくり補助金は第17次公募から省力化(オーダーメイド)枠が新設されました。
ものづくり補助金第18次公募内容は次のとおりです。
補助枠 | 補助上限額 (大幅賃上げ特例適用時) | 補助率 |
省力化(オーダーメイド)枠 | 750万円から8,000万円 (1,000万円から1億円) | 中小企業: 1,500万円まで2分の1 1,500万円超の部分は3分の1 小規模・再生事業者: 3 分の2 |
製品・サービス高付加価値化枠 (通常類型) | 750万円から1,250万円 (850万円から2,250万円) | 中小企業: 2分の1(コロナ回復特例適用時は3分の2) 小規模・再生事業者: 3分の2 |
製品・サービス高付加価値化枠 (成長分野進出類型 (DX・GX)) | 1,000万円から2,500万円 (1,100万円から3,500万円) | 3分の2 |
グローバル枠 | 3,000万円 (3,100万円から4,000万円) | 中小企業: 2分の1 小規模事業者: 3分の2 |
18次公募の採択結果をみると、全体での採択率は35.8%です。申請件数では製品・サービス高付加価値枠が86.8%を占めています。
申請件数 | 採択件数 | 採択率 | |
総計 | 5,777件 | 2,070件 | 35.8% |
省力化 (オーダーメイド)枠 | 599件 | 204件 | 34.1% |
製品・サービス 高付加価値枠 | 5,015件 | 1,827件 | 36.4% |
グルーバル枠 | 163件 | 39件 | 23.9% |
ものづくり補助金の19次公募のスケジュールなどは公表されていないため、今後の発表に注意しましょう。
顧問先の省力化で使いやすい新補助金『中小企業省力化投資補助金(省力化投資補助枠(カタログ型))』
中小企業省力化投資補助枠(カタログ型)とは、人手不足対策として導入する省人化投資のうち事前に選定されたカタログの中から選択する方式の補助金です。補助対象のイメージとして、宿泊・飲食業における自動清掃ロボットの導入などがあげられています。補助率は2分の1、補助上限額は従業員数などによって異なり、最大1,500万円です。
2024年8月9日以降は公募期間を定めない随時受付方式へ変更されたため、顧問先の投資時期にあわせて申請できることとなりました。
顧問先の業績改善はバックオフィスからも可能『IT導入補助金』
IT導入補助金は会計ソフトだけでなく、PCやタブレットなどのハードウェアについても対象となります。補助率は最大5分の4、補助上限額は最大450万円(複数社連携IT導入枠を除く)です。
大型投資予定の顧問先へ提案を検討したい新補助金『大規模成長投資補助金』
大規模成長投資補助金とは、工場や物流センターなどの拠点の新設や大規模な投資による人手不足対応と生産性向上を支援する補助金です。
補助率は3分の1、補助上限額は50億円です。投資額10億円以上の大規模投資が対象となるほか、中堅企業についても補助対象者となります。
1次公募における採択結果をみると、採択率は14.8%でした。
申請件数 | 1次審査通過件数 | 採択件数 | 採択率 |
736件 | 254件 | 109件 | 14.8% |
1次公募で採択された内容では、売上高成長率や付加価値増加額、賃上げ率、そして補助金額に対して付加価値額増加が大きい案件が採択されています。
主な指標 | 採択案件 (中央値) | 申請案件全体 (中央値) |
全社年平均売上高成長率 | 年平均10% | 年平均7% |
補助事業付加価値額増加額 | 14.2憶円 | 5.1億円 |
年平均従業員目標賃上げ率 | 年4.3% | 年3.5% |
補助金額に対する 補助事業付加価値増加額割合 | 126% | 61% |
後継者不在、人手不足の顧問先で検討したい『事業承継・引継ぎ補助金』
事業の承継や統合などM&Aの際に必要となる専門家費用などが対象の補助金です。補助率は最大3分の2、補助上限額は最大800万円です。
定番の『持続化補助金』は2024年も継続
小規模事業者持続化補助金は2024年においても継続されており、補助率は最大3分の2(赤字の場合は4分の3)、補助上限額は250万円です。
会計事務所は『補助金+優遇税制』で提案を差別化
中小企業の補助金申請を支援するサービスが数多く提供されているため、税理士特有の提案が求められます。
補助金申請支援は民間コンサル会社、金融機関が多い
補助金申請支援の主なプレイヤーは民間コンサル会社、金融機関、税理士などで大半を占めています。参考として、申請件数が多い事業再構築補助金における認定支援機関別の内訳は次のとおりです。
税理士だからこそできる!補助金+優遇税制の提案
補助金申請支援をおこなう事業者が多い中、税理士ならではと顧問先が感じる提案が望ましいです。例えば補助金申請と同時に使える税制優遇制度をあわせて提案するなどです。
補助金と優遇税制の併用が可能な『経営力向上計画』を活用
補助金の申請を検討している顧問先へ提案を検討したい支援策として、経営力向上計画などがあります。経営力向上計画は、税理士がおこなう認定支援機関業務の中でもっとも取り組んでいる割合が高い(25.2%)施策であり、経営力向上計画は累計173,341件が認定されています。(2024年6月30日現在)
【引用】認定経営革新等支援機関に関する任意調査報告書(2023年度)|中小企業庁
経営力向上計画とは
経営力向上計画とは、人材育成や財務管理、設備投資などの取り組み内容を記載した経営力向上計画を作成し認定を受けることで、優遇税制や小規模事業者持続化補助金など一部補助金における加点措置を受けられる制度です。
経営力向上計画の承認のメリット
上記以外の経営力向上計画のメリッとして次の点があげられます。
- 優遇税制:法人税または所得税法上、即時償却または取得価額の10%税額控除(資本金3,000万円超1億円以下の法人の場合7%)が可能
- 金融支援:政府系金融機関の融資における利率優遇、民間金融機関の融資に対する信用保証優遇
- 法的支援: 事業承継時の業法許可の引継ぎなど
補助金・助成金・優遇税制の提案で『選ばれる事務所』となる
顧問先にとって税理士を活用する大きなメリットは次のとおりです。
- 自社を理解している税理士から、申請書類の作成をサポートしてもらえる
- 優遇税制など税制支援策との組み合わせのアドバイスが期待できる
- 確定申告時の事務が円滑となる
顧問先への提案は優遇税制などと絡めた税理士特有の提案がおすすめです。
補助金申請などにおける主なプレイヤー別に顧問先からみたメリットデメリットをまとめると次のとおりとなります。
プレイヤー | 顧問先におけるメリット | 顧問先におけるデメリット |
税理士 | ・信頼性が高い ・既に事業の内容を知っている ・申請書作成のサポートが受けられる ・同時に優遇税制などの助言を受けられる ・確定申告時に手間取ることがない | ・申請書類の作成や提出を委託することはできない |
金融機関 | ・補助金のつなぎ融資などで必要 ・既に事業の内容を知っている | ・採択されるノウハウが不足していることがある ・確定申告のために税理士へ説明が必要 |
民間コンサル会社 | ・申請書の作成などに慣れている | ・報酬額が会社により大きく異なる ・同業者が多く選定に時間がかかる ・会社の内容を知らないことがある ・確定申告のために税理士へ説明が必要 |
社会保険労務士 | ・助成金申請に強い ・労務管理の専門家 | ・付き合いがないケースがある |
行政書士 | ・申請書類の作成、提出の代行が可能 | ・付き合いがないケースがある |
顧問先の事業計画への関与は顧客満足度を高めます
補助金や助成金の申請において提出が必要となる書類として事業計画書があげられます。
事業計画書の作成を支援することで、事務所においても次のメリットがあります。
- 顧問先の事業内容、内部課題の対策をよく知ることができる
- 補助金申請や優遇税制を事前に把握することにより、確定申告時に事務が円滑となる
- 税務・会計以外の顧問先への本業支援業務の受注につながる
顧問先への提案で不満と解約を予防
顧問先が顧問税理士の解約を考える理由として、提案が少ないことがあげられます。
忙しい経営者は日常の相談相手である税理士からより多くの情報提供を望んでいるため、積極的な提案が顧問先の不満を縮減し、解約の防止策となります。
事業計画策定を資金繰り改善、低利融資などの受注へつなげる
補助金申請のための事業計画の策定支援は次のような別の業務へとつなげることが可能です。
- 別の投資に関する補助金や優遇税制の申請時に参考となる
- 金融機関への事業計画の説明に応用できる
- 事業計画の策定をつうじて発見した財務面の課題について、借り換えなどの提案が可能となる
顧問先への提案力の向上は協議会がフルサポートします
中小企業においても人手不足対応のための投資が続くと予測されています。ものづくり補助金やIT導入補助金の制度改正情報は経営者の関心が高く、会計事務所からの提案の好機です。
補助金申請への支援は、事業計画の策定や経営力向上計画など税制優遇制度のサポートの受注へとつなげることが可能であり、積極的に提案しましょう。
会計事務所における補助金申請支援などのサービスの拡充は認定支援機関推進協議会がフルサポートします。
協議会は全国トップレベルの申請件数・採択件数をもつエフアンドエムが運営する会計事務所をサポートする団体です。全国で約1,730事務所が参加する協議会が有する豊富なノウハウを月額30,000円(税抜)で利用可能です。
協議会は、スタッフの本業支援業務をレベルアップさせる研修プログラム『ACADEMY』、すぐに使える補助金改正情報などのDM・メルマガ文案を提供する『マーケティング支援』などを通じて、会計事務所を全面的にバックアップします。