税理士が創業・起業の支援に力を入れることにより、顧問先の獲得などが期待できます。また事業計画書の作成や資金繰り管理、補助金申請などさまざまなサービスの提供へとつなげることが可能です。
本記事では、税理士事務所が創業者向けの支援に取り組むメリットや取り組み方法について解説します。
目次
税理士が創業支援に取り組むメリット
税理士事務所が創業支援に取り組むメリットは「顧問先の獲得」です。
また、創業前あるいは創業後の企業は経営資源が不足していることが多く、資金調達や補助金申請における支援など、高付加価値業務の推進を期待できるなどのメリットもあります。
創業者側にとっても、創業に関する複雑な申請・届出のサポート、事業計画書や創業時の資金調達について専門家の客観的な助言を得ることで「事業が成功する可能性を高めることができる」などのメリットがあります。
ご存じですか?日本の創業は変化しています
日本における創業・起業の状況はコロナ禍を経て変化しています。昨今における創業の特徴は次の4つです。
- 創業の小型化
- 20歳代・女性創業者の増加
- 創業する業種はIT業からサービス業へシフト
- 創業企業は労働生産性が高い
創業の小型化
日本政策金融公庫が発表した『2023年度新規開業実態調査』によると、創業費用の平均値は1,027万円、中央値は550万円 となり、平均値・中央値ともに少額化が続いています。
また創業時の従業員数についても減少傾向にあり、小規模の創業が増加しているとみられます。
20歳代・女性の起業が増加
中小企業庁が発表した『2024年版中小企業白書・小規模企業白書概要』によると、29歳以下の創業者数は11.3万人となり、2017年の7.7万人から急増しています。
2012 | 2017 | 2022 | |
29歳以下起業者数(万人) | 7.6 | 7.7 | 11.3 |
また最近は創業者の4人に1人が女性であり、ほぼ一貫して女性創業者の割合が増加しています。
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
女性創業者の割合(%) | 19.9 | 19.0 | 21.4 | 20.7 | 24.5 | 24.8 |
創業する業種はIT業からサービス業へ
創業が多い業種は、開業率・廃業率ともに高い宿泊業・飲食サービス業がトップです。
それ以外の業種では、情報通信業と生活関連サービス業が伸び悩み、かわって学術研究・専門・技術サービス業の創業が増加しています。
創業企業は労働生産性が高い
上記の中小企業白書・小規模企業白書概要によると、創業して間もない企業は既存事業よりも労働生産性が5.8%高いという調査結果が出ています。
税理士がおこなう創業支援とは
創業者が創業時に頼る専門家としては、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士などがあげられます。
なかでも税理士は、客観的な立場から数字に基づいて助言でき、経営者にとって最も身近な相談相手となるでしょう。
創業前後において税理士がおこなう主なサポートは次のとおりです。
創業前の支援
創業前の段階における主な支援内容は次のとおりです。
- 事業主体の決定(法人格または個人など)についての助言
- 事業計画書のブラッシュアップ
- 創業資金の調達についてのアドバイスやサポート
- 許認可申請や法人設立についてのほかの士業への取り次ぎ
創業時におけるサポート
事業立ち上げ時におけるサポートとして次の例があげられます。
- 青色申告承認申請書など税務署への提出書類の作成支援
- 事業計画書に基づいた融資申込みのサポート
- 営業届出や登記申請のための行政書士、司法書士などとの連携
創業後の支援
創業直後は経営が安定していないことが多いため、経営や資金繰り改善などの助言が多くなります。主なサポート内容は次のとおりです。
- 月次監査による顧問先の経理事務の確認
- 月次での業績把握
- 毎月の売上、原価、経費などの把握に関する助言
- 資金繰りについてのアドバイス
- 納税に備えた資金管理
創業予定者を見つける方法
将来の顧問先となる創業者を見つける方法はさまざまです。代表的な例は顧問先からの紹介、税理士サイト、関連業者からの紹介、中小企業支援専門機関からの紹介などです。
顧問先からの紹介
顧問先の知人や取引先から独立する従業員などの紹介が期待できますが、事務所が繁忙であっても顧問先との関係で断りにくいなどのデメリットもあります。
税理士紹介サイトへの登録
インターネット上で税理士を検索・紹介するサービスが提供されています。税理士との接点がなかった創業者にとっては、気軽に税理士を探すことができる方法として広まっています。
税理士紹介サイトは断りやすいため面談しやすい、広範な地域へ営業できるなどのメリットがある一方、相手方のニーズがわかりにくいなどのデメリットがあります。
不動産業者、機器販売業者などとの連携
不動産業者や店舗用什器の販売業者などから、店舗や事務所用の物件を探している創業計画者を紹介してもらうことがあります。
常に紹介が期待できるわけではないものの、具体的に創業に着手している創業者を紹介してもらえることがメリットです。
商工団体、専門支援機関などからの紹介
創業者が相談することが多い商工会議所・商工会などの商工団体、よろず支援拠点などの専門支援機関からの紹介があげられます。
また商工会議所や金融機関が主催する創業予定者向けのセミナー講師として登壇した場合、セミナー参加者が顧問先候補となる場合もあるでしょう。
創業を計画している段階にとどまる人が多いものの、創業計画を作成する初期段階から関与できるメリットがあります。
税理士が創業支援で差別化するための7つのスキル
創業支援に力を入れている税理士事務所は多くある中、自事務所が顧問先として獲得するために大切なスキルがあります。
事業計画書の作成スキル
まず、事業計画書の作成スキルがあげられます。
事業計画書は融資申込みなど重要な場面で必要となる一方、作成に不慣れな創業者が多いためです。
事業の実績がない創業者にとって、事業計画書の出来具合は資金調達を大きく左右することとなるため、税理士からのサポートが大切です。
創業時の資金調達に強くなる
創業前後における主な悩みが資金調達です。日本政策金融公庫の新規開業実態調査によると、開業時資金調達金金額の平均値は1,180万円であり、金融機関からの借入が768万円(65%)を占めています。
創業時における主な借入先は下記の3つです。これらについての知識やノウハウがある税理士は、創業者から信頼されやすい相談先となっています。
- 日本政策金融公庫国民生活事業の創業向け制度融資
- 信用保証協会の創業向け保証
- 地方公共団体の創業者向け制度融資や助成金制度
資金繰り改善の提案
創業後、経営が軌道に乗るまでの期間は資金繰りが厳しいことが多いです。
経営者が本業に専念できるよう、資金繰り改善を助言できるスキルがある税理士は経営者の頼れる相談相手となります。
月次監査を中心とする伴走支援
創業後は月次監査を中心に経理事務、納税に向けた資金管理などの助言が求められるといわれています。バックオフィス業務に手が回らない創業者が多いためです。
経営者の良き相談相手となる
創業後しばらくの期間、経営者は経営上のさまざまな課題に試行錯誤しています。
税金に関する相談だけでなく、業績や資金繰りについて適宜アドバイスをおこなうことで、経営者が長く付き合いたいと思う税理士として評価されることにつながるでしょう。
ほかの士業などとの連携
ほかの士業と連携することで、経営者が自事務所を頼りとしやすくなります。
創業時に連携する代表的な士業は行政書士、司法書士、社会保険労務士などです。また、よろず支援拠点などの専門支援機関とのパイプがあるとさまざまな専門家への取り次ぎが可能となります。
マーケティング
競争が激しい税理士業界においては、自事務所が提供できるサービスをアピールし、顧問先や見込み先へ自事務所の強みを伝えるマーケティングが必須です。
また、マーケティングに関するノウハウを身につけておくことで、創業者が悩むことが多い販路開拓やマーケティングに関して効果的にアドバイスできます。
まとめ
創業・起業は手続きが複雑なうえ、創業者にとってはわからないことが多くあるため、経営上の身近な相談相手となる税理士が活躍する場面が多くあります。
税理士事務所にとっても、創業者の事業開始と成功は長期的な顧問先の獲得につながるため、積極的に取り組みを検討したい分野です。
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