中小企業活性化・事業承継総合支援事業とは、中小企業活性化協議会や事業承継・引継ぎ支援センターなどを運営する公的支援策の総称です。コロナ禍やコスト高で経営が悪化している企業の再建を支援する活性化協議会、M&Aの売り手・買い手の両方を支援するマッチングサービスを提供する事業承継・引継ぎ支援センターともに、税理士がおこなう顧問先支援において効果がある連携機関となります。
本記事は、中小企業活性化協議会や事業承継・引継ぎ支援センターの概要と税理士が活用するときのポイントについて解説します。
目次
中小企業活性化・事業承継総合支援事業の2本柱「再生支援」「承継・M&A」
中小企業活性化・事業承継総合支援事業とは、財務面に課題がある中小企業の収益力改善や事業の再生、後継者不在企業の事業承継などを支援する公的支援策の総称です。
2024年12月17日に成立した令和6年度補正予算においては、61億円が計上されており、コスト高や人件費高騰、後継者不在などの状況にある中小企業を支援する各種の施策が講じられています。
この中小企業活性化・事業承継総合支援事業として、中小企業の事業再生や財務的な課題の解決を支援する「中小企業活性化事業」、事業の承継やM&Aを支援する「事業承継総合支援事業」の2つが実施されています。
再生支援(中小企業活性化事業)は中小企業活性化協議会
中小企業活性化事業の実施機関である中小企業活性化協議会が全国に設置されています。
中小企業活性化協議会がおこなっている主な事業は次の3つです。
- 中小企業が収益や財務改善をおこなうための相談と助言
- 外部専門家を含めた個別支援チームによる金融機関との調整、再生計画の策定支援
- 廃業や経営者保証の整理に関する相談と助言
- 弁護士など、専門家の紹介
事業承継・M&A(事業承継総合支援事業)は事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継総合支援事業の実施機関として事業承継・引継ぎ支援センターが各都道府県に設置されています。
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継やM&Aを支援する次の3つの事業をおこなっています。
- 中小企業の親族内・従業員への承継支援
- 中小企業のM&A(売り手・買い手)の相談と助言、M&Aのマッチング
- 後継者不在企業と創業希望者のマッチング
顧問先の財務立て直しで頼りとなる「中小企業活性化協議会」とは
中小企業活性化協議会は業績が悪化している、または悪化する可能性がある中小企業の再建を支援する公的な機関です。企業の状態と支援内容によって、以下に紹介する5種類のスキームがあります。
中小企業活性化協議会の5つの支援スキーム
中小企業活性化協議会の支援スキームは次の5つです。
活性化協議会の支援スキーム | 支援スキームの主な内容 |
収益力改善支援 | ・中小企業がおこなう収益力改善計画(収益力改善アクションプラン+簡易な収支・資金繰り計画)の作成支援 ・借入のリスケジュールをおこなう場合は期間1年間の収益力改善計画を策定・実施し、必要に応じてそのほかの支援スキームへ移行 |
早期経営改善計画策定支援 (ポストコロナ持続的発展計画事業)(ポスコロ事業) | ・中小企業の経営改善計画の策定支援 (借入金のリスケジュールに至らない状態を想定) ・中小企業が専門家へ支払う計画策定費用について2/3を補助 |
プレ再生支援・再生支援 | ・収益性はあるものの財務面に課題がある中小企業の再生計画策定を支援 ・中小企業活性化協議会が中小企業と金融機関との調整役となる ・計画策定費用の一部について補助 |
経営改善計画策定支援 (405事業) | ・認定経営革新等支援機関が関与する経営改善計画の策定を支援 ・中小企業が専門家へ支払う計画策定費用の2/3を補助 |
再チャレンジ支援 | ・再建困難な企業の廃業を支援 ・保証債務整理を支援 |
中小企業活性化協議会を活用するメリットと活用例
税理士が顧問先支援において中小企業活性化協議会を活用するメリットは次の4つです。
- 公的機関が関与することで、顧問先の安心感が高まる
- 金融機関からの策定した計画に対する信頼性が高くなる
- リスケジュールや金融債務整理に関する調整役となってもらえる
- スキームによっては計画策定費用が補助される
中小企業活性化協議会の活用が効果的な例は次のとおりです。
- リスケジュールを要請した金融機関から経営改善計画の提出を求められた
- 取引金融機関が多い、または借入残高が分散している顧問先がリスケジュールを要請する
- 顧問先にとって改善計画の策定費用の負担が重い
- 顧問先がDDSや債権カットなど抜本的な金融支援を必要とする状態にある
「ポスコロ事業」「405事業」は認定経営革新等支援機関が関与
中小企業活性化協議会の活用は、顧問税理士や経営革新等支援機関にとっても活躍の場となります。
「早期経営改善計画策定支援」(ポスコロ事業)と「経営改善計画策定支援」(405事業)は経営革新等支援機関の関与が求められますが、計画策定費用の2/3が補助されるため顧問先における負担が軽くなります。
早期経営改善計画策定支援(ポスコロ事業)は売上高1億円未満の企業が59.2%を占めており、年間754件(2023年度における支援決定件数)の利用があります。
リスケジュールなど金融支援を想定していないスキームであり、費用負担を軽減しながら計画策定をおこないたい顧問先の計画策定に向いています。
経営改善計画策定支援(405事業)は、売上高1億円以上の企業が64.6%を占め、年間2,162件の支援が決定されています。
複数の金融機関からリスケジュールの同意を取り付ける場合などに利用されています。
【参考】中小企業活性化協議会(収益力改善・再生支援・再チャレンジ支援)|中小企業庁
【参考】中小企業政策審議会金融小委員会事務局説明資料(2024年10月8日)|中小企業庁
親族内・従業員承継やM&Aをサポート「事業承継・引継ぎ支援センター」とは
事業承継・引継ぎ支援センターは事業承継やM&Aにおいて中小企業と税理士の強い味方となります。
事業承継・引継ぎ支援センターの概要
事業承継・引継ぎ支援センターの主な業務は、親族内・従業員への承継をおこなうための事業承継計画策定支援と、M&Aなど第三者承継のサポートの2つです。
親族内・従業員への承継支援次の流れで進みます。
- 中小企業からの相談または金融機関などから紹介
- エリアコーディネーターが相談を受けて、当該中小企業における課題を整理
- 税理士や中小企業診断士と連携し、事業承継計画の策定を支援
事業承継・引継ぎ支援センターの親族内承継支援は年間1,558 件(2023年度における完了件数)利用されています。
第三者承継における支援内容は次のとおりです。
- 事業譲渡や売却における売り手企業へのアドバイス
- 事業の譲受企業(買い手)へのアドバイス
- NNDB(ノンネームデータベース)による買い手探し
- 民間M&A仲介企業などへの紹介
事業承継・引継ぎ支援センターによるM&A仲介成約件数は年間2,023件(2023年度)です。
2022年度では、中小企業のM&A件数5,717件のうち29.4%が事業承継・引継ぎ支援センターを経由しています。(民間M&A支援機関を経由した実施件数4,036件、事業承継・引継ぎ支援センターを経由した実施件数1,681件)
【引用】事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について|中小企業庁
事業承継・引継ぎ支援センターを活用するときのポイント
最近は中小企業のM&Aにおいて高額な手数料や『悪質な買い手』が問題視されています。
事業承継・引継ぎ支援センターは公的な機関であるため信頼性が高く、税理士が連携するメリットが大きいです。
税理士が事業承継・引継ぎ支援センターと連携するメリットは、以下のとおりです。
- 公的機関が関与することで顧問先の安心感が高まる
- 相談は無料
- 第三者としての立場からの助言を受けられる
- M&Aの買い手側企業についても助言を得られる
- 民間のM&A案件であってもセカンドオピニオンとして利用可能
税理士が提案を検討したい事業承継+補助金+税制優遇制度
事業承継・引継ぎ支援センターは、事業の売却や親族内承継において顧問先と税理士にとって信頼できる相談相手となります。事業承継・引継ぎ支援センターから第三者的な意見を得ることで、税理士が顧問先に対しておこなう事業承継支援を補強することができます。
税理士が事業承継において顧問先へ提供できる支援は多数あり、主な例は次のとおりです。
- 株式や個人所有事業用資産の承継における助言
- 株価評価
- 事業承継税制の申請支援
- 事業承継計画の策定
- 事業承継・M&A補助金(旧 事業承継・引継ぎ補助金)の活用
- 中小企業経営強化税制の活用
税理士は顧問先に対して、事業承継・引継ぎ支援センターの活用・補助金申請支援・税制優遇制度の活用支援などをワンストップでサポートできる立場にあります。また、税理士は事業承継支援に積極的に取り組むことでさまざまな支援業務の受注が期待できます。
コロナ資金繰り支援策がなくなる⁉税理士の顧問先支援は外部機関連携が効果的
顧問先のなかにはコロナ禍で借入が増加している企業、最近のコスト高で収益が圧迫されている場合もあるでしょう。コロナ対応としての中小企業向け資金繰り支援策は、2025年1月から2月にかけて相次いで終了する予定であるため、中小企業は新しい資金繰り支援策を活用しつつ、独自に資金繰りを改善することが求められます。
資金繰りが厳しい顧問先への支援においては、客観的な目線や専門的なノウハウをもつ外部専門家を活用することで、税理士による顧問先支援に深みをもたせることができます。
税理士の外部専門家活用例として、以下の例があげられます。
- 取引金融機関へリスケジュールを要請する際に活性化協議会を活用する
- 親族や従業員への事業承継において、事業承継・引継ぎ支援センターから助言を得る
- 事業閉鎖や売却を検討する顧問先は事業承継・引継ぎ支援センターを利用する
- 販売政策に課題がある顧問先については、よろず支援拠点を活用する
- 他社の買収や新規事業の拡大に前向きな顧問先については、事業承継・引継ぎ支援センターを活用してM&Aによる事業拡大を支援する
また、外部機関同士の連携も強化されており、2024年に入ってから、中小企業活性協議会・事業承継・引継ぎ支援センター・よろず支援拠点の3機関連携が進んでいます。
例えば、活性化協議会が関与する改善計画の策定において課題となった売上拡大策を、よろず支援拠点へ相談する、など複合的な相談体制をとることが可能です。
複数の専門家の支援体制を構築することで、税理士による顧問先支援をより補強できます。
顧問先への提案は経営革新等支援機関推進協議会がサポート
中小企業活性化・事業承継総合支援事業は、業績が厳しい顧問先の改善や事業の売却だけでなく、M&Aによる成長を考えている顧問先においても活用できます。
令和6年度補正予算成立に伴い、2025年の新しい補助金や既存補助金の改正などが公開され始めており、関心をもっている顧問先も多いでしょう。
顧問先が公的支援策に対する高い関心をもっているときは、税理士からの情報発信と顧問先支援業務の拡充をアピールする好機です。
顧問先への提案や本業支援業務の推進は、経営革新等支援機関推進協議会がサポートします。
経営革新等支援機関推進協議会は、補助金や税制優遇制度の改正情報、販促チラシ素材の提供、事務所スタッフが効率的に公的支援策を学べる動画研修プログラムの配信など、会計事務所における顧問先支援業務をトータルでサポートしており、全国約1,700事務所が利用しています。
会計事務所の付加価値業務拡充は経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。