「税理士として開業したものの後悔している」という声は決して珍しくありません。税理士は独占業務があり独立に向いた職業です。しかし、開業すれば必ず成功するとは限らず、準備不足のまま独立して後悔するケースもあります。
実際、税理士の68.4%が開業税理士(日本税理士会連合会・2024年3月末時点、登録81,280名中55,578名)であり、独立は一般的な選択肢です。だからこそ、後悔する人の共通点を知り、対策しておくことが欠かせません。本記事では、税理士が開業して後悔する主な理由と失敗事例、後悔しないための準備を解説します。
【出典】日本税理士会連合会|国税庁
税理士が開業して後悔する主な理由7つ

結論として、後悔の多くは「収入の不安定さ」と「顧問先を獲得できないこと」に集約されます。開業前後に「こんなはずではなかった」と後悔につながりやすいポイントは、次の7つです。
1. 独立後の収入(年収)が安定しない
最も多い後悔が収入面です。中小企業数の減少と税理士数の増加、低価格事務所の増加や顧問料の下落により、思うように売上が伸びないことがあります。勤務時代は固定給で安定していた収入が、軌道に乗るまでは前職より下がることも珍しくありません。
特に開業1〜2年目は顧問先が少なく、生活費と事務所経費の二重の負担に直面しやすい時期です。価格競争に巻き込まれて単価を下げると、件数を増やしても利益が残らない悪循環に陥ります。
2. 顧問先を獲得できない
勤務税理士と異なり、開業税理士は自ら顧問先を獲得しなければなりません。開業当初は人脈が少なく、安定した受注につながらず後悔するケースが目立ちます。「資格を取れば顧客は自然に集まる」と考えていた人ほど、開業後のギャップに後悔しがちです。実際には、ホームページや紹介ルートを整えていないと問い合わせはほとんど発生しません。前職の顧問先をそのまま引き継げるとは限らない点も、見落とされやすい落とし穴です。
3. 経験不足で相談に対応できない
経験のない業務を単独で遂行できるか、顧問先からの相談に十分応えられるか、という不安が後悔につながることがあります。勤務時代は先輩や所長に相談できましたが、独立後は最終判断を自分一人で下さなければなりません。判断を誤れば顧問先の信頼を損ない、損害賠償リスクにつながることもあるため、相談できるネットワークを持っておくことが重要です。
4. スタッフ(監査担当者)を確保できない
入力・事務のパート人材は確保できても、監査担当者の採用は難しく、人手不足に陥りやすい点が後悔の一因です。採用にコストや時間をかけても定着しないと、結局は所長が現場業務を抱え込み、本来注力すべき営業や経営に手が回らなくなります。
5. 退所時のトラブル
在籍事務所を円満に退職できるか、顧問先を自分の事務所へ移せるか、といった独立時のトラブルも後悔の種になります。
6. ワーク・ライフバランスの崩れ
独立後は営業・事務・知識のアップデートまで自分でこなす必要があります。結果、「想定以上に多忙になった」という後悔も多いのです。特に繁忙期は、実務に追われて新規営業や事務所運営の改善に時間を割けなくなります。これが長引くと、忙しいのに売上が伸びないという悪循環に陥ることも増えてしまうのです。
7. 税理士業界の将来への不安
記帳・集計作業の自動化やAIの浸透で「活躍できる場が縮小するのでは」という漠然とした不安を抱える人もいます。ただし、こうした不安は付加価値業務へのシフトで解消が可能です。漠然とした不安のまま開業するのではなく、自分の強みを明確にしておくことが大切です。
年齢・体力・介護も見落としがちな後悔
7つの理由に加えて、見落とされがちなのが「年齢・体力・介護」に関わる後悔です。税理士の独立は何歳でも思い立てば実現できます。しかし、年齢を重ねてからの開業では、体力面の負担や、親の介護と事務所運営の両立といった課題が重なりかねません。
特に、軌道に乗るまでの数年間は長時間労働になりがちです。「もっと体力のあるうちに準備しておけばよかった」という声も聞かれます。開業のタイミングを考えるうえでは、収入や顧問先だけでなく、自分や家族のライフステージも含めて見通しておくことが、後悔を防ぐポイントです。
開業して後悔した税理士の体験談
実際の後悔は、データよりも具体的なエピソードに表れます。たとえば、ある税理士は「実務には自信があったが、営業経験がまったくなく、開業後は顧問先がなかなか増えなかった。価格を下げて受注したものの、利益が出ずに資金繰りが苦しくなった」と振り返ります。
別のケースでは、「紹介に頼り切っていたところ、紹介元の担当者が異動になり、新規の相談が一気に途絶えた。集客の仕組みを自分で持っていなかったことを後悔した」という声もあります。
こうした体験談に共通するのは、税務の実力ではなく「営業・集客・資金計画」の準備不足が後悔につながっている点です。逆に言えば、これらを開業前に整えておけば、同じ失敗は避けられます。
税理士事務所が淘汰される!?休廃業率は全業種ワーストの5.6%

税理士として独立しても、必ず成功するとは限りません。税理士業界は競争と淘汰の時代に入っています。
帝国データバンクの調査によると、2024年における税理士事務所の休廃業・解散発生率は5.61%となり、全業種ワーストです。また2023年の休廃業率は5.24%であり、2年連続して5%を超えました。税理士事務所の休廃業が増加している背景は、次の3つであるといわれています
- 税理士の高齢化
- 税理士間の競争激化
- 顧問料の低下と人手不足に対し、インボイス制度の導入による事務の増加
【参考】全国企業「休廃業・解散」動向調査(2024 年)|帝国データバンク
上記の状況を踏まえると、独立しても苦戦する税理士事務所の特徴として次の3つがあげられます。
- 定型業務や事務作業が効率化されていない
- スタッフの長時間労働が常態化している
- 顧問先が求めるサービスを提供できず、顧問料の引き上げが進んでいない
税理士が開業して後悔した失敗事例
具体的にどのような状況で後悔が生じるのか、代表的な失敗パターンを紹介します。
- 顧問料を安く設定しすぎた:競合と差をつけようと低価格にした結果、件数をこなしても利益が残らず疲弊した。
- 営業未経験で受注できなかった:税理士法人で実務だけを担当し、営業を経験しないまま独立。集客の手段が分からず顧問先が増えなかった。
- 紹介に依存しすぎた:紹介元の担当者交代で案件が途絶え、収入が不安定になった。
- 資金計画が甘かった:収入が安定する前に運転資金が尽きそうになった。
- 一人で抱え込みすぎた:相談できる相手がおらず、税務判断や経営の悩みを一人で抱え、精神的に疲弊した。
- 値上げを切り出せなかった:付き合いの長い顧問先に遠慮し、コストが上がっても顧問料を据え置いてしまった。
帝国データバンクの調査では、2024年の税理士事務所の休廃業・解散発生率は5.61%で全業種ワースト。2023年の5.24%に続き2年連続で5%を超えており、開業後の経営は決して楽観できません。
【出典】全国企業「休廃業・解散」動向調査(2024年)|帝国データバンク
開業後に後悔しやすい税理士の共通点
開業して後悔する事務所には、次のような共通点があります。
- 定型業務や事務作業が効率化されていない
- スタッフの長時間労働が常態化している
- 顧問先が求めるサービスを提供できず、顧問料を引き上げられていない
いずれも「事前の検討・準備不足」が根底にあります。逆に言えば、準備次第で後悔の多くは防げます。
勤務を続けるか開業するか|後悔しないための判断軸
開業して後悔しないためには、「なぜ開業するのか」を明確にしておくことが大切です。収入を増やしたいのか、働き方の自由を得たいのか、特定分野で専門性を発揮したいのかなど目的によって必要な準備は変わります。
勤務税理士は収入が安定し、実務に集中できる一方、収入の上限や働き方の自由度には限界があります。開業税理士は努力次第で収入も裁量も大きく広げられる働き方です。とはいえ、税務だけでなく経営・営業・労務まで自分で担う覚悟が求められます。焦って独立するのではなく、勤務しながら副業的に小さく実績を積み、見込みが立ってから独立するという選択肢もあります。
税理士が開業後に後悔しないための準備
結論として、後悔を防ぐ準備は「方針・集客・営業・IT・運転資金・相談相手」の6つに整理できます。それぞれを独立前に押さえておきましょう。
事務所の方針・特色を決めておく
顧問先からみると、税理士は経理や会計のプロであると同時に、最も身近な相談相手です。
中小企業庁の調べによると、中小企業経営者が社外へ相談したい経営課題のうち『財務』の相談相手は税理士が43.1%を占めています。そのほか『生産・製造』や『ICT活用』など多岐にわたり、税理士を相談相手として考えています。
特に近年は、中小企業の多くが人手不足における対応としてバックオフィス業務のIT化・DX化を考えています。『中小企業白書』によると、中小企業の約1/4はIT化における相談相手として税理士をあげています。

これらを踏まえて「価格重視か手厚いサービスか」「特化型か総合型か」など、差別化の軸を独立前に固めます。方針や特色がブレると、新サービスの展開や料金設定などで迷うことが増えるのです。
集客・マーケティングを検討しておく
税理士紹介会社や士業向けマーケティングツールを比較してみましょう。事前に、顧問先獲得の導線を準備しておくことがポイントです。具体的手法は税理士の集客方法10選で解説しています。
営業力を磨いておく
金融機関や商工会との連携など、紹介につながる人脈形成を進めましょう。営業力は自分自身のスキルを磨くだけでなく、人と人とのつながりも重要です。
IT・DXに強くなっておく
自所の業務効率化に加え、顧問先のIT化支援は新たな受注機会にもなります。まずは自所で積極的に利用し、実体験を持って顧問先へ展開できると理想的です。
運転資金を確保しておく
収入が安定するまで時間がかかるため、経費の半年分程度を手元資金として準備します。運転資金に余裕がないと、焦った経営判断が増えかねません。結果、目先の売上にとらわれるなど、自分で首を絞めることになってしまいます。
開業に向いている人・慎重に判断すべき人
開業の向き不向きを知っておくことも、後悔を避けるポイントです。一般に、次のような人は開業に向いているといえます。
- 特定分野の専門性や得意領域がある
- 人脈づくりや営業に前向きに取り組める
- 数字にもとづいて自分で意思決定したい
一方で、以下の場合は独立の前に準備期間を設けましょう。
- 営業や集客に強い苦手意識がある
- 運転資金の準備が十分でない
- 実務経験が浅く一人で判断するのが不安
向いていないからとあきらめるのではなく、足りない部分を補ってから独立すれば、後悔のリスクは大きく下げられます。
よくある質問(FAQ)
Q. 税理士の開業で一番多い後悔は何ですか?
A. 収入面(顧問先を獲得できず売上が安定しない)と、顧問料を安く設定しすぎたことによる利益不足が代表的です。
Q. 開業した税理士のどのくらいが廃業していますか?
A. 税理士事務所の休廃業・解散発生率は2024年で5.61%と全業種ワーストです。ただし高齢化や統廃合による自然なものも多く含まれます。
Q. 開業前に最低限そろえるべき準備は?
A. 事務所の方針・差別化、集客手段、営業力、IT対応、運転資金(経費の半年分目安)、相談相手の6点です。
Q. 後悔して勤務に戻る税理士はいますか?
A. 一定数います。多くは準備不足が原因のため、事前検討と入念な準備で防げる可能性が高いです。
Q. 開業して後悔しないために最も重要なことは何ですか?
A. 開業前に「強み・価格・集客手段」を固めておくことです。準備不足のまま勢いで開業すると、収入や顧問先獲得の面で後悔につながりやすくなります。
Q. 何歳くらいで開業するのが後悔しにくいですか?
A. 年齢よりも、実務経験・人脈・運転資金がそろっているかが重要です。経験が浅いうちは、勤務しながら専門分野と顧客基盤を育ててから独立すると後悔を減らせます。
Q. 開業資金はどのくらい用意すればよいですか?
A. 事務所の規模によりますが、開業費用に加えて、収入が安定するまでの運転資金として生活費・経費の半年分程度を確保しておくと安心です。資金不足は後悔の大きな原因になります。
Q. 顧問先がゼロからのスタートでも大丈夫ですか?
A. 多くの開業税理士はゼロから顧問先を増やしています。紹介ルートの確保、ホームページやセミナーでの発信など、開業前から集客の準備を進めておけば、立ち上がりをスムーズにできます。
まとめ:後悔しない開業のために
税理士の開業は、収入や顧問先獲得への不安がつきものです。しかし顧問先ニーズに対応できる事務所は選ばれ、成長できる時代でもあります。後悔を防ぐ最大のポイントは「事前検討」と「入念な準備」です。
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