「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」(大規模成長投資補助金)は2025年も継続されます。本補助金は工場新設など大型投資が対象となり、補助率は3分の1以内、補助上限額は50億円と高額です。
大規模成長投資補助金は採択率が約15%と審査のハードルが高く、事前にしっかりと準備したうえで申請する必要があります。
本記事では、大規模成長投資補助金で採択された案件の特徴と税理士が顧問先へ説明するときのポイントについて解説します。
目次
大規模成長投資補助金は2025年も継続
「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」(以下、大規模成長投資補助金)は2024年に創設され、最大50億円の補助上限額で話題となりました。
本補助金は工場の新設など投資金額10億円以上の大型投資が補助対象となり、2024年は2回の公募により194件が採択されました。
この大規模成長投資補助金は2025年も継続されることが、経済産業省から発表されています。
大規模成長投資補助金とは
大規模成長投資補助金とは、中堅・中小企業がおこなう工場の新設や生産性向上を図るための大型投資を通じた事業の拡大と持続的な賃上げへの支援が目的の補助金です。
本補助金の2025年公募は、2024年と同様に補助率は3分の1以内、補助上限額50億円でおこなわれる予定です。
2025年の公募要領は今後発表される予定であり、参考として前回公募における補助率などをまとめると次のとおりです。
【大規模成長投資補助金の補助対象・補助率・補助上限額】
補助対象企業 | 中堅・中小企業 (常時使用する従業員数が2,000名以下) |
補助対象事業 | 【一般枠】 (投資額要件) 投資金額10億円以上(専門家経費・外注費を除く補助対象経費分) (賃上げ要件) 補助事業終了後3年間、対象事業の従業員および役員1名あたり給与支給総額の年平均上昇率が、地域別最低賃金の直近5年間の年平均上昇率以上 |
補助率 | 3分の1以内 |
補助上限額 | 50億円 |
補助対象経費 | 建物費(建物、建物附属設備、土地造成を含む付帯工事) 機械装置費(機械装置、工具・器具) ソフトウェア費 外注費 専門家経費 |
大規模成長投資補助金は採択率約15%・採択倍率約7倍
大規模成長投資補助金の過去2回の公募における採択率は14.5%、採択倍率は6.9倍です。本補助金は補助上限額が50億円と高額であり、ほかの補助金に比べ、審査のハードルが高くなっているといえます。
【大規模成長投資補助金の採択件数・採択率・採択倍率】
1次公募 | 2次公募 (追加採択含む) | 合計 | |
申請件数 | 736件 | 605件 | 1,341件 |
1次審査通過件数 | 254件 | 218件 | 472件 |
1次審査通過率 | 34.5% | 36.0% | 35.2% |
採択件数 (2次審査通過件数) | 109件 | 85件 | 194件 |
1次審査通過案件のうち 2次審査通過率 | 42.9% | 39.0% | 41.1% |
採択率 | 14.8% | 14.0% | 14.5% |
採択倍率 | 6.8倍 | 7.1倍 | 6.9倍 |
【参考】2次公募の追加採択を含めた採択者について|中堅・中小企業成長投資補助金事務局より作成
大規模成長投資補助金で採択される計画の特徴
大規模成長投資補助金で採択された案件の主な特徴は「製造業が多い」「工場新設などが目立つ」「(売上高などの)増加額が大きい」の3つです。
大規模成長投資補助金は業種別では製造業が最多
大規模成長投資補助金で採択後、交付決定された企業を業種別でみると、製造業が約9割を占めています。
【大規模成長投資補助金 交付決定件数(業種別)】(本記事作成時点)
業種 | 交付決定件数 | 構成比 |
建設業 | 2 件 | 2.1% |
製造業 | 83件 | 85.6% |
運輸業・郵便業 | 3件 | 3.1% |
卸売業・小売業 | 3件 | 3.1% |
不動産業・物品賃貸業 | 1件 | 1.0% |
学術研究・専門・技術サービス業 | 2件 | 2.1% |
そのほかのサービス業 | 3件 | 3.1% |
合計 | 97件 | 100.0% |
採択で目立つ投資内容は工場新設
大規模成長投資補助金の採択案件一覧をみると、成長投資計画名の中で目立つ主なキーワードは「工場新設」「生産性向上」「能力増強」です。
ただし、顧問先にとって過大投資とならないよう注意も必要です。採択案件の平均投資予定金額をみると、全社売上高に対して約半分の投資予定金額となっています。
【大規模成長投資補助金 採択案件の特徴(売上高に対する投資金額の割合)】

【参考】(参考)2次公募における各種指標の中央値(採択者、申請者全体)|中堅・中小企業成長投資補助金事務局|
採択案件は売上や賃上げの「増加額」が大きい
大規模成長投資補助金で採択された案件の特徴として、指標の増加「額」が大きいことがあげられます。
売上高でみると、採択案件の全社売上高年平均成長率は10%、申請全体からみると、1.4倍ですが、増加額は申請全体の約2倍から約3倍となっています。
また付加価値増加額や給与支給総額の増加額についても、採択案件は申請全体に対して約2倍から約3倍の水準の案件が採択されています。
【大規模成長投資補助金 採択案件の特徴的な指標】

【参考】(参考)2次公募における各種指標の中央値(採択者、申請者全体)|中堅・中小企業成長投資補助金事務局
大規模成長投資補助金を申請予定の顧問先に対する税理士からの説明ポイント5つ
大規模成長投資補助金における採択案件は、投資金額は年間売上高の半分以下など過大投資とならない投資規模で、売上高・付加価値・給与支給総額の増額が高い水準の計画が採択されているとみられます。
大規模成長投資補助金の申請や再申請を検討している顧問先に対して、税理士から説明しておきたいポイントは次の5つです。
過去の採択案件をみておく
大規模成長投資補助金は交付決定となった計画の概要が事務局のホームページ上に公開されています。
自社の業種や投資内容と類似する採択案件があれば、より効率的に計画書を作成できるでしょう。
投資効果と成長のストーリー
大規模成長投資補助金は省⼒化など⽣産性の抜本的な向上と事業拡⼤を支援することが狙いです。
次のように、投資の必要性があり、投資効果が高く、市場成長率以上に事業が拡大し、持続的に企業が成長していくことが可能であるかなどについて、審査されるとみられています。
- 外発的動機・内発的動機と今後の事業戦略が合理的
- 投資により他社と差別化できる製品・サービスを供給しシェア拡大が可能
- 生産性の向上、売上高の増加、これらを通じた賃上げなど投資効果が大きい
- 事業計画を遂行できる組織体制、資金調達となっている
- 計画内容が整合的
計画の練り込み
大規模成長投資補助金は申請資料(公募様式)が整っており、記載テクニックによる差がつきにくい構成です。このため本補助金の審査基準をしっかりと踏まえた内容とすることが求められます。本補助金の審査基準として次の5項目があげられています。
- 経営力
- 先進性・成長性
- 地域への波及効果
- 大規模投資・費用対効果
- 実現可能性
【引用】中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金 公募要領(2次公募)|中堅・中小企業成長投資補助金事務局
上記のとおり大規模成長投資補助金は、申請書類に記載する事項が多く、顧問先の申請準備が拙速とならないよう事前に時間を確保しておく必要があります。
大規模成長投資補助金は公募している期間が約2か月間と短めであり、早めに申請準備を開始することがおすすめです。
【大規模成長投資補助金の過去の公募スケジュール】
1次公募 | 2次公募 | |
---|---|---|
公募開始 | 2024年3月6日 | 2024年6月26日 |
公募締め切り | 2024年4月30日 | 2024年8月9日 |
公募期間日数 (開始日を含む) | 56日間 | 45日間 |
【参考】大規模成長投資補助金 概要資料(1次公募)|中堅・中小企業成長投資補助金事務局
【参考】大規模成長投資補助金 概要資料(2次公募)|中堅・中小企業成長投資補助金事務局
プレゼンテーション
大規模成長投資補助金で採択されるためには、1次審査(書面審査)だけでなく2次審査(プレゼンテーション審査)対策も重要です。
大規模成長投資補助金の1次審査通過率は35.2%、1次審査通過案件のうち2次審査通過率は同水準の41.1%となっています。
大規模成長投資補助金の2次審査では、経営者が事業計画を説明し、審査員の質問へ回答することが求められるため、事前の準備が欠かせません。
税制優遇制度、ほかの補助金制度の検討
大規模成長投資補助金は採択率が14.5%と審査のハードルが高く、残念ながら不採択となる顧問先もあるでしょう。
準備した事業計画を活かすために、大規模成長投資補助金以外の補助金制度について活用できるか検討しておくことがおすすめです。
また中小企業経営強化税制による税制優遇制度との併用など、税理士だからこそできる提案をおこなえるよう準備しておきましょう。
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大規模成長投資補助金は作成する書類が多い、高いレベルの合理性・納得性が求められる、高水準の投資効果が必要である、など審査のハードルが高いといえます。
税理士から顧問先に対しては、社内で作成が難しい場合は外部専門家を活用する、税務面や資金調達・返済計画についてもしっかりと検討する、ほかの補助金についても目を向けるなど、多面的な助言や提案が可能です。
2025年は大規模成長投資補助金以外についても、有名補助金の改正、新たな補助金の創設、中小企業経営強化税制の拡充などが予定されています。
これらのテーマは経営者の関心が高いため、会計事務所から情報発信し、顧問先支援業務の受注につなげる好機といえるでしょう。
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