会計事務所に「人がいない、(採用に)人がこない」という人手不足が課題となっています。採用が順調に進みにくい会計事務所は、将来の業務縮小につながる可能性があるため、早めの対策が必要です。
本記事では、会計事務所に人がいない背景と対策、採用が順調に進む会計事務所の取り組み例について解説します。
目次
会計事務所における人手不足の状況

会計事務所における人手不足の状況を職種別にみると次のとおりです。
有資格者がいない|税理士の有効求人倍率は2.36倍
有資格者の有効求人倍率は高止まりしています。
厚生労働省が公表している「job tag」によると、2023年における税理士の有効求人倍率は2.36倍となっています。
また国税庁の発表によると、税理士登録者のうち開業税理士は67.8%(2025年3月末時点)を占めており、所属税理士として勤務を希望する人の数は限られていることが現実です。
監査担当者がいない|税理士試験受験者数は長期減少傾向
監査担当者の候補となる税理士試験の実受験者数をみると、長期的に減少しています。
2024年(第74回)税理士試験の実受験者数は34,757名、前年から5.7%増加していますが、10年前(2014年)の41,031名からみると15.3%の減少です。
税理士試験実施年(実施回) | 実受験者数 |
2024年(第74回) | 34,757名 |
2023年(第73回) | 32,893名 |
2022年(第72回) | 28,853名 |
2021年(第71回) | 27,299名 |
… | … |
2014年(第64回) | 41,031名 |
パートタイムがいない|有効求人倍率は0.82倍、一般事務職の約2倍
入力・事務を担うことが多いパートタイムについても、人手不足が続いているといわれています。
厚生労働省の統計によれば、「会計事務従事者」の有効求人倍率は「一般事務従事者」の約2倍の水準が3年連続で続いています。
職業別有効求人倍率(常用的パートタイム) | 会計事務従事者 | 一般事務従事者 |
2024年 | 0.82倍 | 0.39倍 |
2023年 | 0.87倍 | 0.41倍 |
2022年 | 0.83倍 | 0.43倍 |
会計事務所の悩み『人がいない』は大きく4つの意味

会計事務所における『人がいない』という課題は、大きく次の4つです。
事務所が求める人材がいない
事務所が求める条件に合った人材からの応募がないケースがあります。
たとえば、「経験者を探しているが、未経験者からの応募のみ」「応募自体が少なく、事務所に合う人を選べない」「簿記等の知識をもつ人がいない」などです。
採用募集に応募する人がいない
採用募集をおこなっても、応募者が集まらないケースがあります。
待遇面への不満に加え、「専門知識が必要で、仕事が難しそう」「会計事務所はブラックな職場環境であることが多い」など、ネガティブなイメージをもたれていることが一因とされています。
事務所に定着する人がいない
採用した人が事務所に定着しないケースがあります。
「忙しくて試験勉強の時間を確保できない」「事務所の方針と合わない」などが主な理由であるといわれています。
若手税理士がいない、事務所を後継する人がいない
開業税理士の約8割が後継者不在のケースであるといわれています。
税理士登録者数のうち39歳以下はわずか6.6%(第7回税理士実態調査報告書)となっており、後継者となる若手税理士の採用競争は厳しいといえるでしょう。
【関連記事】税理士事務所に向いている人を採用・定着する方法を解説
人がいない会計事務所は顧問先が離れてしまう可能性
人材採用に課題をもつ会計事務所は、採用への応募自体が少なく、事務所に合う人材を確保しにくくなります。また、人材の育成に課題をもつ会計事務所も人材が定着しにくく、採用しても再び人手不足となってしまうでしょう。
人がいない会計事務所は、将来、顧問先が減少するリスクもあります。人手不足から顧問先が離れてしまう流れは次のとおりです。
- 採用募集しても応募者がいない、急な欠員募集で採用しても長続きしない
- 在籍スタッフの業務負荷が高まる
- 在籍スタッフの離職が発生する、サービス品質が低下する
- 顧問先の満足度が低下し、顧問先離れが発生する
人材採用が順調に進む!人材が定着する!人が集まる会計事務所の6つのポイント
人材採用が円滑な会計事務所は、「採用」と「定着(育成)」の両面に取り組んでいます。主な取り組み内容をまとめると次の6つです。
人材採用が順調に進むポイント「採用したい人物像を明確とする」
事務所が採用したい職種、人物像を明確とします。
現在、事務所で活躍しているスタッフについての適性診断などをおこなうことで、求める人材を具体的に把握できます。
人材採用が順調に進むポイント「採用への応募数を増やす」
採用応募を増やす主なテクニックは次のとおりです。即戦力となる経験者がタイミングよく見つかると限らないため、経験者の採用が難しい事務所においては、未経験者を採用し、事務所が求める人材へ育成することを検討しましょう。
- 欠員が出る前から採用募集の準備を進めておく
- 求人条件を見直し、現状に合った内容に調整する
- 未経験者も応募対象に含める
- 求人票の内容を充実させ、魅力を明確に伝える
- 採用したい人材がよく見る求人媒体を活用する
人材採用が順調に進むポイント「事務所に合う人材を選ぶ」
選考する側においても、事務所に合う人材を選ぶ“面接スキル”が必要となります。
応募者の多くは面接対策を行っているため、事務所に本当に合う人材かどうかを見極めるのが難しいのが現状です。さらに、複数回の面接を行うための時間を確保するのも容易ではありません。
人材採用が順調に進むポイント「応募者から自事務所が選ばれる」
応募者に「ここで働きたい」と感じてもらうためには、事務所の魅力を伝えるとともに、入所後の働き方を具体的にイメージできるような説明を行うことが重要です。これは、入所後に「思っていた環境と違った」と感じて早期離職につながるのを防ぐためでもあります。
また、経験者、税理士試験の受験生、パートタイム希望者など、求職者の属性によって重視するポイントは異なるため、事務所が求める人材に合わせて、効果的にアピールする工夫を磨くことが、採用成功の鍵となります。
人材定着が順調に進むポイント「未経験者の育成体制を整える」
人材育成には時間とコストがかかるうえ、現有スタッフにとっても指導が負担となることがあります。
そのため、繁忙期や税理士試験の受験を控えたスタッフでも受講しやすい、動画視聴型の研修を導入することで、効率的な育成が可能となります。
人材定着が順調に進むポイント「指導する人材を育成する」
現有スタッフに後輩スタッフを指導するスキルを身につけてもらいましょう。指導するスキルは研修によって身につけることができます。若い世代や未経験者の考え方に合わせた指導方法などを理解しておくことが必要です。
人材採用・育成が円滑な会計事務所の取り組み例
人材採用が円滑である会計事務所の主な取り組み例は次のとおりです。
毎年新卒採用2名から6名、8年連続3年以内離職率ゼロ【L事務所】
スタッフが働きやすい環境の整備と教育制度の充実に力を入れている事務所の例です。本事務所は新卒を毎年採用し、3年以内離職率は8年連続でゼロとなっています。
- 転勤なし
- 有給休暇取得率80%超
- 入所1年目のスタッフは、毎月、テーマ設定と上司や周囲からの振り返りをおこなう
選考プロセス・採用基準を明確化【I事務所、I税理士法人】
スタッフの採用が属人的とならないよう基準を設けている事務所の例です。
複数の事務所経営者に共通するポイントは次のとおりです。
- 事務所として求める人物像が明確
- 選考プロセスが整備されている
- 適性検査を採用している
- 採用後の教育制度が整備されている
会計事務所の人材採用・育成は経営革新等支援機関推進協議会がサポート
会計事務所のスタッフ求人から育成まで、経営革新等支援機関推進協議会が一気通貫にサポートします。全国約1,700事務所が参加する本協議会へお気軽にご相談ください。
求人募集のサポート
会計事務所の求人募集をサポートするサービスを利用できます。
- 「求人票サンプル」:求人のプロが作成した、会計事務所の求人を念頭においたサンプルを提供しています。
- 「求人条件分析レポート」:事務所にあった求人条件のアドバイスを利用できます。
- 「求人票添削」:より応募につながりやすい求人票となるための、添削サービスです。
- 「応募課金型求人媒体」:求人応募数に応じた課金で通年採用をサポートします。
面接のサポート
- 「ACADEMY面接力向上講座」:面接者に求められる面接スキルを動画で習得できます。
選別・採用のサポート
- 「パーソナリティ診断」:応募者の資質を客観的に把握できます。
- 「基礎能力診断」:業務処理能力を可視化できます。
スタッフ育成のサポート
- 「デイリースキルチェック」:毎日数分間で1つずつ、会計事務所に必要なノウハウを身につけることができます。
- 「新人向け研修」:社会人マナーから身に付く動画研修です。
監査担当者養成のサポート
- 「ACADEMY監査担当者養成プログラム」:ビジネスの基本から税務実務までを身につけることができるカリキュラムを配信しています。
- 「ACADEMY実務体験型プログラム」:財務改善提案や補助金申請支援など顧問先支援業務において求められるスキルを身につける実務体験型プログラムを提供しています。
同業事務所の人材戦略の紹介
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