最低賃金の上昇や物価上昇によるあらゆるコストの高騰は、経営環境の悪化をまねいています。
会計士・税理士業界に限らず、各業態の企業経営をもひっ迫させ、多くの経営者の悩みの種になっています。
長期化リスクも視野に入れておくべき時期に差し掛かかっており、財務改善を図る意味でも顧問料の値上げ交渉は検討をしなくてはならない優先事項といえます。
本記事では顧問料の値上げ交渉する上での心得や顧問料値上げの提示における工夫について解説します。
目次
顧問料値上げが打開策?苦難が予想される税理士業界の今後
税理士には定年がありません。
しかし、ベテラン税理士が現役で長く活躍する一方で、新たな税理士登録も増えています。
そのため、税理士業務の絶対量を減少させている要因となっています。
【図表1】税理士登録者推移(単位:人)
平成27年(2015年) | 75,643 |
平成28年(2016年) | 76,493 |
平成29年(2018年) | 77,327 |
平成30年(2019年) | 78,028 |
令和元年(2019年) | 78,795 |
令和2年(2020年) | 79,404 |
また、企業はインボイス制度の対応を見越して、補助金を活用することで会計ソフト等を積極的に導入促進しはじめました。
コロナ禍の影響は多くの会社を廃業に追い込み、顧問先として取引のあった会計事務所も同様に業務が減り始めています。
そのため、減少する税理士業務を奪い合う構図は、今後もますます激化していくことが予想されます。
顧問先を増やすことが難しくなり、複雑化する業務や度重なる税制改正に対応したコスト高を考慮すると顧問料を上げることも検討していかなくてはなりません。
顧問料の値上げを顧問先に納得感をもって受け入れてもらうには、値上げ理由をどのような形で伝えるかがポイントになります。
顧問料の値上げの主な対応方法
漠然と顧問料を値上げするといわれても何をどのようにすればいいかがわかりません。
まずは顧問料値上げの趣旨を整理し、顧問先にも理解してもらえるかが重要になります。
税理士業界を取り巻く環境は厳しさを増すばかりで、顧問料の低単価化が懸念されています。
しかし、マーケティング手法を整備する機会ととらえることもできます。
短期的な視点にとらわれず、体制を整備することも可能です。
売上高・利益で顧問先を選別する
企業の売上高や利益に着目し、顧問先を選別することも業務効率や収益面の改善につながります。
顧問料が安価な企業と数多く取引する会計事務所も確かに存在します。
しかし、業務コストや負担の大きさの割には収益が上がらないという課題を克服しなければなりません。
小規模の会計事務所では、収益構造や業務効率の改善を見直すことで、時代にあった有望企業との取引拡大の体制強化を図れます。
企業の選別は勇気のいることですが、ときには有望な業種や企業との接点を作るための顧客整理の一環と位置づけることも事務所経営には必要です。
幅広い支援サービスを提供できることを前提として、発展見込みの高い業種や企業であるかの判断が重要になります。
柔軟な顧問契約や提供サービスの拡充
企業のあり方の多様化も加速度的に進んでいます。
勤務体系から人事制度にいたるまで、さまざまな改革をおこなうようになりました。
会計事務所も顧問先にあわせた柔軟な顧問契約の実施や、幅広いサービスを準備しなければ、複雑化する企業の要望に応えられなくなります。
複雑化する企業の要望をチャンスととらえ、付加価値の高いサービスを提示することで、顧問料の改訂につながります。
税制改正や複雑化する業務への対応
電子帳簿保存法やインボイス制度導入を控え、企業は対応するための業務コストが増えるタイミングに差し掛かっています。
法改正やあらたな制度の導入は、対応するための知識の補完が必要です。
調査や顧問先への説明に加えて、参考書籍や資料の取り寄せもコストがかかります。
企業が税制や制度改正に備えるこの時期だからこそ、最新情報や対応方法を提案し、企業の要望に応じた顧問料の再設定(値上げ)をおこない、理解していただけるようにしましょう。
最低賃金上昇への対応
2022年10月から物価上昇の影響もあり、過去最大の上げ幅となる最低賃金の上昇(平均約30円)が予定されています。
【図表2】
最低賃金の推移(全国加重平均)単位:円
年度 | 最低賃金 |
---|---|
2010 | 730 |
2011 | 737 |
2012 | 749 |
2013 | 764 |
2014 | 780 |
2015 | 798 |
2016 | 823 |
2017 | 848 |
2018 | 874 |
2019 | 901 |
2020 | 902 |
2021 | 930 |
最低賃金の上昇は経営コストに直結するため、顧問料に転嫁するか検討する必要があります。
しかし、最低賃金の上昇は税理士だけではなく、多くの経営者にとっても大きな課題となっています。
経営者だからこそ理解している反面、今後の顧問継続を考慮すれば、配慮も必要です。
顧問契約を結ぶ企業が税理士へ求める質の基準が、一段と高くなることも考えられます。
従来の税務業務以外にも付加価値の高い業務を提案するなどの工夫が必要です。
戦略なき顧問料値上げは事務所経営のリスクに!
唐突な顧問料の値上げの申し出や根拠の乏しい値上げは顧問先の不信感につながります。
日頃の満足度とも照らしあわせ、顧問料の値上げの妥当性について説明を求めらられることもあります。
行き当たりばったりの事務的な顧問料値上げ交渉は、コロナ禍で疲弊している経営者に追い打ちをかけかねません。
顧問料の値上げ交渉は、事前準備を整え値上げの根拠や想定質問に対する回答を用意したうえで行いましょう。
また、顧問料の値上げに成功したとしても「顧問契約が継続できた」と安心することは危険です。
顧問先の中には顧問料の値上げに対し、その後に過度な期待を寄せる傾向があり、顧問料の値上げ後もサービス面や質で変化が無ければ、顧問先の不信感につながる恐れがあります。
値上げに対する不信感を抱かれないためにも、付加価値支援の質を高めるだけでなく、スタッフの対応力も向上しなければなりません。
顧問料の値上げを申し出るタイミングとポイント
顧問料の値上げを申し出るタイミングは税制改正や法改正のほか、補助金・助成金の実施時期がおすすめです。
インボイス制度導入における企業リスクの指摘や解決策の提示は、リスク回避の相談役として企業が会計士や税理士に期待を寄せています。
顧問料値上げは事前に告知しておくことが重要になる
顧問料の値上げは今までの良好な関係性を考慮し、前もって少しずつ提案していきましょう。
唐突な値上げの告知は、恣意的な心証を抱かれかねません。
顧問契約を打ち切られないよう細心の注意が必要です。
補助金活用や特別融資制度など有益な情報提供とともに提案
補助金活用や特別融資の紹介や説明は、顧問先にとっては有益な情報となります。
顧問先における補助金や特別融資の活用の相談は、会計士や税理士が一番受けやすいといえます。
経営サポートにより、今までの信頼関係を構築できるだけでなく、顧問料の値上げの相談にもつなげやすくなります。
インターネットバンキング活用の提案
インターネットバンキングの普及に伴い、財務支援の業務効率がしやすくなっています。
顧問先がインターネットバンキングの使用可否で顧問料に違いを出せます。
また、導入支援サービスを取り入れることで経営に関する相談を受ける機会にもなり得ます。
インターネットバンキングは会計ソフトとも連携ができるため、高い業務効率化が期待できます。
経営革新等支援機関推進協議会が提供するF+prus(エフプラス)は全23種類の会計ソフトに対応しています。
決算データと返済データを取り込み、最適な財務支援が可能です。
まとめ
顧問料の値上げ交渉は今までの提供サービスを振り返ると共に、顧問先から今後も期待してもらえるかの重要な機会といえます。
インボイス制度の導入をひかえ、会計士や税理士に相談する機会が増えています。
付加価値の高いサービスの拡充も含めて、最適かつ適切な顧問料の交渉につなげましょう。