他業種で見られる人手不足という課題は、会計事務所業界にも顕著に現れてきました。
慢性的な人手不足で日々の会計事務所業務の生産性が低下しているといった悩みや、新たな分野に進出しようにも人手不足が重石となって阻害要因となっているケースもあるようです。
会計事務所の発展を考えると、安定的な会計事務所経営は避けてとおれません。
本記事では会計事務所の人手不足の原因となる根本的な要因をあげながら、主に3つの解決策を紹介していきます。
目次
会計事務所の人手不足の主な要因
会計事務所経営において人手不足の問題は難題といえますが、その課題解決は根本から見直す必要があります。
欠員から生じることが多い会計事務所における人手不足は、様々なものに起因しており、大きく以下の3つに分けられます。
会計事務所就職希望者の減少
日本公認会計士協会のデータによると、会員・準会員の数は2010年からの10年間で約1万人増えており、毎年1000人前後が登録しています。
登録者数は増加傾向に転じ始めてはいるものの、伸び悩んでいることもあり、会計事務所への就職希望者は少ないと考えられます。
会計事務所のスタッフとなりうる人材の総数が伸び悩んでいれば、人材獲得競争の激化は避けられません。
また、全ての業界における人手不足の影響は、会計事務所業界の人材確保面に少なからず影響を与えています。
かつて公認会計士や税理士を目指す人にとって会計事務所への就職は、雇用確保の受け皿となっている側面がありました。
しかしながら好景気における良好な雇用環境は、公認会計士や税理士志望者の就職先の選択肢を広げる結果となっており、人材確保で会計事務所業界に厳しくなっているといえるでしょう。
会計事務所、税理士法人間による人材獲得競争の激化
平成28年度の経済センサス活動調査では、公認会計士事務所は2,272事務所、税理士事務所が24,461事務所あり、両者の総数は26,733にのぼり、全国のコンビニエンスストアの約半分を占めており、人材獲得競争が激化していることがわかります。
スキルの高いスタッフの確保は、人手不足における最大の特効薬であることから、どのように人材確保していくかが課題です。
求職者に対し会計事務所の魅力をどのようにアピールしていくかが、今後さらに重要なポイントになります。
労働環境や職場環境による離職率の高さ
会計事務所業界は離職率が高い業種だといわれています。
たった一人のスタッフの離職は人手不足を誘引しかねません。
他のスタッフの負担増を招いて労働環境の悪化に発展していく可能性があります。
負担が多いスタッフへのフォローを怠り続ければ、退職の連鎖に発生しえます。
また離職要因として職場における人間関係のトラブルも見過ごせません。
常日頃からスタッフに対するきめ細やかなフォローと心遣いが必要となり、悩みを打ち明けられる風通しの良い職場環境作りが大切です。
人手不足の解消の前提として、スタッフが辞めない環境作りが必要になります。
その環境作りはスタッフと共に進めていくことが重要です。
会計事務所の人手不足を解決する3つの手段
人手不足の問題を抱える会計事務所にとって、解決策として考えられる方策は大きく分けて以下の3つです。
柔軟な採用基準や雇用形態を設ける
人手不足の解消として最も効果的なものは、良い人材を採用し長く勤めてもらうことです。
会計事務所の業務効率化をすすめていく中で、中心的な役割を担える人材の確保は、多くの会計事務所にとって非常に大きな課題といえます。
また、経験豊富な人材や将来の幹部候補、繁忙期などに応じた業務を任す人材を役割分担に応じて柔軟に採用活動を展開していくことが大切です。
そのためには採用基準や雇用形態を柔軟にした上で、必要な人材を積極的に採用することも検討しましょう。
- 業界経験豊富なシニア採用
- ポテンシャルのある未経験者の採用
- 復職者採用
柔軟な採用は管理面での難しさもありますが、会計事務所の発展に寄与することも大いに考えられます。
閑散期に採用計画を立ててみましょう。
スタッフ教育の充実化を図る
スタッフのスキルアップは、業務効率化や生産性だけにとどまりません。
スタッフ教育の充実は、業務におけるスタッフの自信を深めることにつながり、結果的に離職率を下げる効果も期待できます。
また、職場における自身の居場所の確保や仕事に対する充実感を得ることにもつながり、会計事務所にとって不可欠な存在としての自覚や責任が芽生え、会計事務所内での貴重な戦力となります。
スタッフ教育は安定した会計事務所経営のための基礎体力作りと位置付け、長期的な展望による人手不足の解消策として、スタッフ教育からはじめることは効果的な方策のひとつです。
潜在的人手不足を顕在化させる
会計事務所の業務は処理する範囲も量も多く、煩雑です。
昨今、IT化や業務支援ソフトの導入によって業務量は軽減されてきたとはいえ、まだまだすべての面で軽減しきれているとはいえません。
繁忙期は人手不足が増す傾向にあるため、繁忙期を迎える前に担当業務の役割分担や仕事内容の整理をおこないましょう。
業務効率化の見直しは、人手不足がどこで生じているかを割り出せ、今後の採用方針や業務コスト削減に直結するため、事務所経営には欠かせない作業です。
定期的な業務効率化の見直しを運用に組み込んでいきましょう。
人手不足を補うスタッフ採用のポイント
新たなスタッフを迎え入れるにあたっては、どのような業務を任せるかの役割分担の整備が必要です。
専門分野に特化したスタッフの採用と教育体制の構築
昨今の会計事務所業務は決算や税務、集計のほか、補助金・公的制度支援や事業承継など多岐にわたります。
そのため、各分野の専門知識を有するスタッフの他、新規顧問先の開拓に必要なマーケティングや会計システムの知識を有したフタッフも必要です。
そのため、現在おこなっている業務のほか、将来的に展開する事業を想定した上でスタッフの採用に動かなければなりません。
また、補助金や公的制度は毎年予算や対象企業の条件が変更されます。
定期的な勉強会の開催など社内教育プログラムの導入を検討しなければなりません。
体制の整備が不十分なままだと、採用したスタッフがすぐに退職してしまい、結果として時間と労力とコストだけが失われる結果となります。
未経験、シニア、復職者を対象とした採用の実施
採用では、幅広い年齢層を対象に実施すると効果的です。
社内教育を前提とした未経験採用やシニア採用のほか、復職者採用も検討しましょう。
少子高齢化社会への対策としてシニア層の就労機会を促す取り組みが日本政府主導でおこなわれています。
また、結婚や出産、育児、介護による離職してしまったスタッフを再雇用する復職者採用は事務所の事情や業務の進め方も把握しているため、即戦力として活躍してくれます。
時短勤務など復職者が仕事と生活のバランスを取りやすいように人事制度の見直しや新制度の導入を検討しましょう。
業務効率化も同時に進める
採用と教育だけでなく、業務効率化も人手不足を解決するための重要な方法です。
実務に必要な申請書のサンプルやフォーマットの準備のほか、チェックリスト、業務マニュアルの整備、顧問先からの想定質問・解答集を準備しておくことで、業務時間を短縮できます。
また、スタッフが作成した書類をチェック、添削するスタッフの配備などフォロー体制も確立しておくことが大切です。
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会計事務所スタッフのレベルアップツールとしても活用できますので、ご相談承ります。
まとめ
会計事務所における人手不足は、繁忙期によるものばかりではありません。
人手不足回避のために、まずは可能な限り欠員を出さない体制作りが重要です。
スタッフに対するレベルアップやフォローアップ体制の充実そして会計事務所のビジョンや魅力作りも不可欠です。
スタッフが主体性をもって取り組み、共有していくことでより効果的なものになるはずです。
繁忙期の人手不足対策は、欠員回避の前提の上に成り立ちます。
日ごろにおけるスタッフへのフォローアップこそが人手不足を回避させる手段なのかもしれません。