マル経融資とは小規模事業者向けの制度融資であり、無担保・無保証人などの特長をもち、税理士から顧問先へ提案しやすい資金調達方法です。
また商工会議所などと連携した顧問先への支援体制ができるなどのメリットもあります。
本記事では、マル経融資の概要と手続き、税理士が提案に取り組むメリットや注意点について解説します。
目次
無担保・無保証!マル経融資3種類の制度概要
マル経融資とは、従業員数が20名以下など比較的小規模な個人事業主・中小企業向けの国の制度融資のひとつであり、正式名称は小規模事業者経営改善資金です。
通称の「マル経」とは、経営改善の経の字をマルで囲っていた略号に由来します。
マル経融資は商工会議所などの経営指導を原則6か月以上受けることを条件に、日本政策金融公庫から無担保・無保証人、低利率、最大3,000万円の融資を受けることができます。
マル経融資は小規模企業にとって好条件となることが多いため、制度創設から50年間で累計約526万件、2023年度のみでも、29,118件 が利用されています。
マル経融資4 種類の概要
マル経融資は次の2つの制度とそれぞれに組み合わせる特例措置の合計4種類があります。(災害対策の特例を除く)
- マル経融資制度(小規模事業者経営改善資金)
通常のマル経融資であり、「一般マル経」と略されます。 - コロナマル経(特例措置)
コロナ対策として、マル経融資の融資限度額、融資期間が優遇される特例のことです。 - 生衛マル経制度(生活衛生改善貸付)
生活衛生業種のみが対象となるマル経融資のことです。略称として「衛経」と呼ばれています。
なお生活衛生業種とは理美容業、宿泊業、飲食店などです。 - コロナ衛経(特例措置)
生衛マル経について、コロナ対策による融資限度額と融資期間を優遇した特例のことです。
上記のマル経融資4種類の主な内容は次の表のとおりです。
一般マル経 | 生衛マル経 | コロナマル経 コロナ衛経 | |
融資対象 | 6か月以上の経営指導を受けた商工業者 | 生活衛生関係事業を営む企業 | コロナ禍の影響により5%以上の売上減少または債務負担が重くなっている企業 |
融資限度額 | 2,000万円 | 2,000万円 | 3,000万円 (左記の2,000万円に別枠として1,000万円を加算) |
対象使途 | 運転資金 設備資金 | 運転資金 設備資金 | 運転資金のみ |
融資期間 | (運転資金) 7年以内 (設備資金) 10年以内 | (運転資金) 7年以内 (設備資金) 10年以内 | (運転資金) 20年以内 |
利率 | 特別利率F | 特別利率F | 特別利率F |
担保 | 無担保 | 無担保 | 無担保 |
保証人 | 無保証人 | 無保証人 | 無保証人 |
【引用】マル経融資(小規模事業者経営改善資金)|日本政策金融公庫国民生活事業
マル経融資の対象となる条件
マル経融資の対象要件は、制度共通の5つの基本要件と制度ごとの要件があります。
基本要件 | 基本要件の内容 |
業種要件 (共通) | 商工業者かつ日本政策金融公庫国民生活事業の融資対象業種 |
規模要件 (共通) | 主たる事業の業種により、従業員数が下記の範囲内 ・製造業の場合、20名以下 ・商業・サービス業の場合、5名以下 ・宿泊業・娯楽業の場合、20名以下 |
指導要件 | 商工会議所などから原則6か月以上の経営指導 |
居住要件 | 同一管内(商工会議所などの管轄区域)で1年以上経営 |
納税要件 | 税金を原則としてすべて完納している |
【参考】マル経融資|日本商工会議所
上記の基本要件に加えて、下記のとおり制度ごとの条件があります。
一般マル経 コロナマル経 | 生衛マル経 コロナ衛経 | |
業種要件 (制度ごと) | 基本要件と同じ | 生活衛生関係事業を経営 |
推薦者 (制度ごと) | 商工会議所、商工会、 商工会連合会など | 生活衛生関係の同業組合など |
【参考】マル経融資(小規模事業者経営改善資金)|日本政策金融公庫国民生活事業
最大3,000万円まで無担保・保証人なしの融資
マル経融資の主な借入条件は次の3つです。
- 無担保・無保証人
- 借入利率が比較的低利(2024年8月1日現在1.45%(固定金利))
- 融資限度額は通常2,000万円、コロナ特例に該当する場合は最大3,000万円
マル経融資の5つのメリット
マル経融資には次の5つのメリットがあります。
無担保・無保証
担保と連帯保証人が不要であり、信用保証協会の保証や、顧問先が法人である場合の経営者保証なども不要です。
固定金利で全事業者が一律の利率設定
金利は期間を問わず固定金利となります。
マル経融資の利率は、利用者の業績にかかわらず一律の利率であるため、財務面が課題となっている顧問先にとっては条件がよい可能性があります。
マル経融資は借換・追加融資が可能
マル経融資は追加融資や借換が可能です。
審査が早い
マル経融資は日本政策金融公庫への推薦書到着後、審査結果が出るまではおよそ1週間です。
日本政策金融公庫によると、融資の審査結果が出るまでの平均審査期間は約2週間と発表されているため、マル経融資は審査が早いといえます。
地方公共団体により利子補給制度がある
都道府県や市区町村において、マル経融資の利用者向けに独自の利子補給制度を設けていることがあります。コロナ融資に関する利子補給とは別の制度です。
詳しくは顧問先が加入している商工会議所などへ確認してみましょう。
【参考】小規模事業者経営改善資金(マル経融資)に対する利子補給|東京都中野区
マル経融資の6つのデメリット・注意点
マル経融資はメリットが多い制度融資ですが、顧問先が利用するときのデメリット、顧問先へ提案するときの注意点などがあります。
融資対象は商工業者・生活衛生関係営業者に限定
マル経融資は、農業など一次産業の事業者は利用できません。
また、生衛マル経は生活衛生業種の事業者のみが利用できます。
商工会議所・商工会への加入が必要
マル経融資は経営指導を受けるために、商工会議所などの会員となることが必要です。
経営指導(原則6か月以上)が必要
商工会議所、商工会、商工会連合会などから、原則として6か月以上の経営指導を受けていることが推薦要件です。
このため創業時の資金調達や創業間もない顧問先は利用できません。
事業所の移転直後は利用できない可能性がある
同一地域(商工会議所などの管内で判断されます)で1年以上の経営実績が必要です。
移転直後は対象外ですが、例外として移転前の経営指導期間を加算できる場合があります。
許認可と税金の完納が前提条件
マル経融資は税金の完納が条件です。
また飲食店など許認可が必要な事業の場合、許認可があることが条件です。
推薦を受けられるタイミングが限られる
マル経融資を受けるためには、商工会議所などから日本政策金融公庫へ融資を推薦してもらう必要があります。
推薦にあたっては商工会議所などが審査会をおこないますが、開催日が月1回などに限られていることがあるため、経営指導期間や審査会のスケジュールを踏まえて計画的に準備しましょう。
マル経融資で審査落ちするパターン
マル経融資の審査は甘いと言われることがありますが、審査で否決される(審査に落ちる)こともあります。マル経融資は審査の前段階である推薦が審査の一部となっているため、推薦前の段階から、審査落ちする主なパターンに該当しないよう準備しておきましょう。
業種が融資対象外
マル経融資を利用できない業種の基準は2つです。
マル経融資の対象外となる業種または日本政策金融公庫国民生活事業が融資できない業種のいずれかに該当する場合は、マル経融資を借入することができません。
- マル経融資の対象外となる業種の例
農林水産業などの一次産業(商工業に該当しないため) - 日本政策金融公庫国民生活事業の融資対象外となる業種の例
金融業、保険業など
税金の滞納
マル経融資は税金の完納が借入条件であるため、納税が遅れている場合は審査落ちの可能性が高くなります。
確認対象となる税金は所得税、法人税、事業税、都道府県民税のほか、市町村民税の均等割についても確認され、税金の納付状況はマル経融資の推薦前に確認されます。
延滞回数が多い
マル経融資の審査において重要な点のひとつが返済実績です。過去の借入金の返済に遅れが目立つ場合は推薦されない、または推薦を受けても審査落ちすることがあります。
マル経融資の手続きの流れ
マル経融資を受けるまでの主な手続きの流れは次のとおりです。
- 経営相談
- 経営指導
- マル経融資の推薦
- 日本政策金融公庫による審査
- 融資の決定と実行
商工会議所・商工会などへ経営相談
会員となっている商工会議所や商工会、同業組合などへ経営相談をおこないます。
6か月以上の経営指導を受ける
原則として6か月以上、加入している商工会議所などの経営指導員から経営指導を受けます。
マル経融資の推薦を受ける
商工会議所などへマル経融資の推薦を申込みます。
推薦依頼の受付後に推薦するための審査会が開催され、推薦が可決された企業だけが日本政策金融公庫へ推薦されます。
日本政策金融公庫(国民生活事業)における融資の審査
商工会議所などからの推薦を日本政策金融公庫国民生活事業が受け付けた後、公庫が融資の審査をおこないます。
融資の決定と実行
日本政策金融公庫での審査に通過すると、推薦を受けた商工会議所などを経由して融資決定の連絡が入ります。
その後、融資の契約手続きを経て顧問先の口座へ融資金が送金されます。
マル経融資には税理士が取り組むべきメリットが豊富!
マル経融資は顧問先にとって好条件の融資であるだけでなく、提案する税理士にとってもメリットがあります。
顧問先に対する経営指導の充実
経営指導員による経営指導によって、記帳指導、営業・事業承継など幅広い分野におけるサポートが期待できます。
税理士の指導・助言に加えて経営指導員からのサポートを受けられるため、顧問先に対するフォロー体制を充実させることができます。
商工会議所・商工会との関係強化
商工会議所などへの新規加入の紹介やマル経融資の推薦依頼などを通じて、商工会議所などとの連携の強化に役立ちます。連携を強化することで、顧問先の紹介やセミナー講師の依頼などの営業につながります。
日本政策金融公庫(国民生活事業)との連携
日本政策金融公庫との連携のきっかけとなります。公庫との連携をすすめることで、国の制度融資に関するノウハウの蓄積や顧問先を紹介しやすいなどのメリットがあります。
顧問先へ賃上げ促進税制+低利融資を提案できる
マル経融資は比較的低利ですが、同時に賃上げ利率特例制度を併用できる場合はさらに低利となります。
公庫の賃上げ貸付利率特例制度とは、雇用者給与等支給総額が前期比2.5%以上増加する場合、借入当初2年間の利率が0.5%引き下げられる特例です。なお直近の申告において既に増加済の場合も対象となります。
顧問税理士として賃上げ促進税制の適用を検討するときに、人件費が2.5%以上増加したあるいは増加予定であれば、同時に低利の制度融資を提案する好機となります。
【参考】賃上げ貸付利率特例制度|日本政策金融公庫国民生活事業
顧問先における資金調達への支援は協議会がトータルでサポート
マル経融資は経営指導を受けることを条件に無担保・無保証人、低利で融資を受けられる制度です。顧問先へ提案しやすい制度であるだけでなく、税理士として取り組むメリットもあるため、積極的に提案を検討しましょう。
顧問先に対する資金調達相談や財務改善のアドバイスなど、財務コンサルと資金調達支援の拡充をお考えの事務所様は、約1,730の事務所様の収益化・効率化をトータルでサポートしている経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。