会計事務所支援ブログ

借入なのに自己資本?資本性劣後ローンの概要と税理士からの提案ポイントとは

借入なのに自己資本?資本性劣後ローンの概要と税理士からの提案ポイントとは

資本性劣後ローンには期間中の返済がなく、金融機関からみると借入であるものの、「自己資本とみなせる」などのメリットがあります。顧問先の格付向上や、資金繰りの改善における効果などが期待できますが、注意点などもあるため、慎重に運用すべきです。

本記事では、資本性劣後ローンの概要と、税理士が提案するときの注意点、提案を検討したい顧問先の例について解説します。

目次

資本性劣後ローンとは

資本性劣後ローンとは、借入金の一種類であるものの、金融機関が融資先を格付するときは自己資本とみなしてよい融資のことです。

金融庁によると『貸出条件が資本に準じた十分な資本的性質が認められる借入金のことであり、債務者の評価において、資本とみなして取り扱うことが可能なもの』と定義されており、次の3つの要件が必要です。

  • 資本に準じた性質:長期間にわたり償還が不要
  • 配当可能利益に応じた金利設定:債務者が赤字の場合は利率が低い
  • 法的破綻時の劣後性:債務者の法的破綻時に返済順位が下がる

【引用】資本性借入金関係FAQ目次|金融庁

上記の要件を満たす資本性劣後ローンは、次の3つの特徴を備えています。

期限一括返済型の融資

資本性劣後ローンは最終期限まで元金返済がない、「期限一括返済型」が原則です。最終期限に原則として一括返済する必要があるため、返さなくて良い融資というわけではありません。

借入の全てまたは一部を自己資本としてみなせる

金融機関が融資先の決算書に基づいた債務者区分をおこなう際、資本性劣後ローンの残高を借入金から減らし、その額を自己資本(純資産)に加算することができます。
自己資本としてみなせる額は、下記のとおり、最終期限までの残存期間に応じて5年間で毎年20%ずつ減少します。

最終期限までの残存期間資本とみなす割合借入とみなす割合
5年以上100%0%
4年以上5年未満80%20%
3年以上4年未満60%40%
2年以上3年未満40%60%
1年以上2年未満20%80%
1年未満0%100%
【引用】資本性借入金関係FAQ目次|金融庁

劣後とは法的破綻時の返済順位

債務者が法的に破綻した場合、資本性劣後ローンはほかの借入金などよりも返済順位が低い約定劣後的破産債権となります。

返済順位の劣後性は、法的破綻時における取り扱いであって、私的整理の場合はこの限りではありません。

破産時の返済順位債権の種類債権の例
1(高い)財団債権破産管財人の報酬など
2優先的破産債権税金や従業員の給料など
3一般的破産債権借入金、買掛金など
4劣後的破産債権破産後の利息、損害金、
延滞税など
5(低い)約定劣後的破産債権資本性劣後ローンなど

資本性劣後ローンとDDS(デッド・デッド・スワップ)との違い

資本性劣後ローンと類似している融資としてDDS(デッド・デッド・スワップ)があります。

DDSとは、既に借入している融資を返済順位が低い資本性劣後ローンへ変更するものであり、新たな借入ではありません。

資本性劣後ローンは融資時から劣後性がある新規融資であり、借入した現金を使うことができる、いわゆる”真水がある融資”である点がDDSと異なります。

資本性劣後ローンを利用するメリットをわかりやすく説明

資本性劣後ローンを利用する大きなメリットは次の2つです。

  • 金融機関からの格付が良くなる
  • 元金返済がないため資金繰りが改善する

顧問先への格付の良化(イメージ図)

資本性劣後ローンは顧問先に対する金融機関からの評価(格付)を引き上げる効果が期待できます。資本性劣後ローンの残高を自己資本へ転換した数値で金融機関が評価できるためです。
資本性劣後ローンを利用している場合の格付のイメージは次のとおりです。

資本性劣後ローンを利用している場合の格付のイメージ

資金繰り改善効果

資本性劣後ローンは借入期間中の元金返済がありません。
既に返済中の借入金を資本性劣後ローンによって借換することで、元金返済を軽減することが可能です。

資本性劣後ローンは日本政策金融公庫と商工中金が有名

資本性劣後ローンは、メガバンクだけでなく地方銀行においても取り扱っていることが多いですが、あまり宣伝されていません。

資本性劣後ローンの取り扱い件数が多い金融機関は、政府系金融機関であるといわれており、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などが代表例です。

このうち取り扱い件数が多いといわれている日本政策金融公庫においては、資本性劣後ローンのうち、新型コロナ対策資本性劣後ローン制度だけでも、累計9,911件、1.2兆円が利用されています。(2024年1月時点)

日本政策金融公庫の資本性劣後ローン2種類の概要

日本政策金融公庫が取り扱っている資本性劣後ローンは2種類あります。
事業再生などで利用される従来型の資本性劣後ローンと、新型コロナウイルス対策で設けられた新型コロナ対策資本性劣後ローンです。

2つの資本性劣後ローンの主な違いは融資対象のほか、借入期間・黒字の場合の利率・当初3年間における利率引き下げ措置の有無の3つです。

現時点では、新型コロナ対策資本性劣後ローンの取り扱い期限は2024年12月末日までとなっており、その後の取り扱いについては未定とされています。

日本政策金融公庫が扱う
2つの資本性劣後ローンの主な違い
従来型の
資本性劣後ローン
新型コロナ対策
資本性劣後ローン
借入期間5年1か月以上
20年以内
で1年ごとに設定可能
5年1か月、7年、
10年、15年、20年
のいずれかを選択
黒字の場合の利率3.60%から4.65%2.60%から2.70%
当初3年間の
利率引き下げ措置
無し当初3年間
一律0.50%

従来型の資本性ローン

日本政策金融公庫が取り扱っている従来型の資本性劣後ローンの概要は次のとおりです。

新型コロナ対策資本性劣後ローン

新型コロナ対策資本性劣後ローンの概要は次のとおりです。

資本性劣後ローンの5つのメリット

資本性劣後ローンを利用するメリットは次の5つです。

借入期間中の元金返済がない

資本性劣後ローンは借入期間中の元金返済がありません。
新たに資本性劣後ローンを借り入れてもが元金返済額が増えないため、資金繰りが悪化しにくいです。

固定金利で赤字のときは低利

資本性劣後ローンは1年ごとに借入利率を見直す方式が主流です。
利率見直し時期において、確定申告済の決算上の税引後当期純利益が赤字のときは、翌1年間の利率が低くなります。日本政策金融公庫の場合、赤字決算の翌1年間の借入利率は0.50%となります。

借入の一部を資本とみなした格付が可能

資本性劣後ローンは、金融機関が格付する際に、返済期限までの残存期間に応じて残高の全てまたは一部を自己資本とみなすことができます。

決算書上は債務超過であっても、債務超過額を上回る資本性劣後ローンを導入することで、債務超過ではない企業として評価されることが可能です。

借換に使える

資本性劣後ローンは運転資金だけでなく、設備資金として利用することができます。

また既存の借入金を借り換える目的で利用できます。

中小企業庁が発表した資料によると、日本政策金融公庫の新型コロナ対策資本性劣後ローン利用件数のうち約30%が借換目的で利用されています。

【参考】中小企業政策審議会金融小委員会 事務局説明資料|中小企業庁

当初3年間は利率0.5%が確定(コロナ資本性劣後ローンのみ)

日本政策金融公庫などの新型コロナ対策資本性劣後ローンは、借入から3年間は黒字・赤字のいずれであるかを問わず、一律0.50%の利率です。
このため、5年1か月間または10年間など中期間の借入であれば、4年目以降が黒字であっても期間全体でみたときの利率を低くおさえることが可能です。


例えば、期間10年間の新型コロナ対策資本性劣後ローンを利用する場合、借入後4年目以降が常に黒字であったとしても、借入全期間を通じた利率は1.97%です。
新型コロナ対策資本性劣後ローンの主な借入期間ごとの利率を試算(4年目以降は常に黒字の場合)すると下記のとおりとなります。

借入期間当初3年間の利率4年目以降の利率全期間での利率
5年1か月0.50%2.60%1.36%
10年0.50%2.60%1.97%
15年0.50%2.70%2.26%

資本性劣後ローンの5つのデメリット

資本性劣後ローンはメリットが大きい融資制度ですが、顧問先が利用する際は以下の点に注意が必要です。

審査のハードルが上がる

資本性劣後ローンの融資審査は、元金返済を伴う融資に比べ審査のハードルが上がるといわれています。融資する金融機関側からみると、長期間にわたって元金返済がないなどリスクが高い融資であるためです。

事業計画書が必要

資本性劣後ローンの申し込みにあたっては、今後の事業の見通しを説明する事業計画書の提出を求められます。

民間金融機関との協調または認定支援機関の関与が必要

資本性劣後ローンの融資条件として、原則として銀行など民間金融機関と日本政策金融公庫との協調が求められます。

新型コロナ対策資本性劣後ローンにおいては、認定経営革新等支援機関が事業計画の策定に関与することを条件として、民間金融機関との協調が不要となる拡充改正がなされています。

黒字のときは金利が高めとなる

既述のとおり、資本性劣後ローンは黒字決算の翌年はやや高めの金利水準での利払いが必要となります。

借入後5年間は返済できない

資本性劣後ローンは制度設計上、借入から5年間を経過するまでは繰上返済が認められていません。

資本性劣後ローンは借入?自己資本?会計処理と勘定科目の表示のコツ

資本性劣後ローンは借入金ですが自己資本とみなすことができるため、顧問先における会計処理について、事業者が悩む場合もあるでしょう。

資本性劣後ローンの会計処理は長期借入金

資本性劣後ローンはあくまでも借入であるため、会計上は長期借入金として扱います。

資本性借入金の勘定科目で金融機関の見落としを防ぐ

顧問先が資本性劣後ローンを利用している場合、勘定科目は長期借入金ではなく『資本性借入金』(固定負債)とすることがおすすめであるといわれています。
長期借入金勘定で処理した場合、顧問先が資本性劣後ローンを利用していることが決算書上では表示されないため、決算書の提出を受けた金融機関が資本性劣後ローンの利用を見落とすリスクがあるためです。

資本性劣後ローンを税理士が説明するときの注意点

資本性劣後ローンは、借入期間中の元金返済がないなどのメリットがありますが、利用にあたり、注意点があります。

決算粉飾は即アウト

資本性劣後ローンは契約上、表明保証条項が設定されることが主流です。このため、過去の申告において粉飾していた顧問先は審査で否決される可能性があります。

また借入後に決算書の粉飾が判明した場合は一括返済を求められる可能性があります。一括返済だけでなく、借入当初3年間についての利率低減が取消となり利息の追加支払いが発生する、多額の違約金が発生するなどのリスクがあることに注意が必要です。

経審などにおいては自己資本への加算は適用できない

資本性劣後ローンを自己資産として取り扱える場面は金融機関が融資先を格付評価するときに限られます。

このため、例えば建築業の「経営事項審査」(経審)の点数、産業廃棄物処理業における「優良産廃処理業者の認定制度」における自己資本比率の計算においては、資本性劣後ローンを自己資本とみなすことができません。

利払いで赤字となる場合は低い利率が適用(コロナ資本性劣後ローンのみ

新型コロナ対策資本性劣後ローンは、直近決算が黒字であっても金利負担により赤字になると見込まれる場合は赤字の場合の金利である0.50%を適用することとする改正が実施されています。

返済期限に一括返済できない場合の3つの対策

顧問先が気になる事項として、資本性劣後ローンの最終期限が到来するときの取り扱いがあげられます。資本性劣後ローンの最終期限到来時の取り扱いとしては次の3つの方法があります。

  1. 手元資金や民間金融機関からの借入で一括返済
  2. 元金返済条件付きの融資で借り換える
  3. 資本性劣後ローンで借換する

なお③については、期限到来時に資本性劣後ローンを新たな資本性劣後ローンで借り換えることが可能です、ただし、最終期限到来時において資本性劣後ローン制度があることが前提条件となります。

税理士から資本性劣後ローンの提案を検討したい顧問先のパターン

資本性劣後ローンの利用を検討したい顧問先の例は次のとおりです。

自己資本比率が低いまたは債務超過の企業

債務超過となっている顧問先あるいは自己資本比率が低いことで格付が低い顧問先があげられます。

特に債務超過解消年数が約3年から5年ほどの顧問先は、資本性劣後ローンの利用によって債務超過を解消または債務超過解消年数を大きく縮小できる可能性があります。

大型設備投資を予定している顧問先

大型の設備投資により利益を確保するまで資金繰りが厳しいまたは欠損が発生する企業についても資本性劣後ローンの利用を提案しやすくなります。資本性ローンは期間中の元金返済がないため、超長期の据置期間を設けることと同じ効果があるためです。

初期投資が大きいスタートアップ企業、ベンチャー企業

初期投資額が大きい企業も検討対象です。投資後または成長期における資金繰りの悪化を元金返済がない資本性劣後ローンでカバーできるためです。

借入返済が資金繰りの負担となっている顧問先

最も検討しやすい顧問先が過剰債務の顧問先です。返済中の借入金を資本性劣後ローンによって借換することで資金繰りを改善する効果が期待できます。
ただし資本性劣後ローンの融資審査はやや厳しくなる可能性が高いため、しっかりとした事業見通しを立てましょう。

なお日本政策金融公庫や商工中金は政府系金融機関としての性質を有しているため、単に民間金融機関からの借入を資本性劣後ローンで借換するなどの計画は否決される可能性が高いことに注意しましょう。

顧問先への支援業務は協議会がトータルでバックアップします

資本性劣後ローンは最終期限まで元金返済がないため資金繰りを改善させることが可能です。また債務超過である顧問先に対する金融機関の格付を引き上げ、資金調達が円滑となる効果が期待できます。

顧問税理士が顧問先へ資本性劣後ローンの利用を提案することで、一度に次の4つのサービスを提供することへつなげることが可能です。

  • 債務超過解消策の策定などの財務コンサルティング
  • 民間金融機関からの資金調達支援
  • 日本政策金融公庫からの資金調達支援
  • 認定支援機関としての事業計画書策定支援

税理士事務所がおこなう財務コンサル・計画書策定支援・資金調達支援など高付加価値サービスの提供は、全国約1,700超の事務所が参加する経営革新等支援機関推進協議会がトータルでサポートします。

事務所の収益化でお悩みの会計事務所様は協議会へお気軽にご相談ください。

ABOUT US

経営革新等支援機関推進協議会
経営革新等支援機関推進協議会は、株式会社エフアンドエムが運営する会計事務所向けの支援団体です。2014年4月に設立し現在では、全国1700以上の会計事務所が正会員として参画しており、中小企業支援制度についての勉強会・システム提供を通じて全面的にバックアップしている。