会計事務所(税理士事務所)の多くでは、採用難と長時間労働規制により人手不足が続いています。限られた職員数で顧問先の多様なニーズに応えるためには、事務所の生産性向上が欠かせません。
本記事では、これからの時代の会計事務所として求められるために必要な生産性改善策について解説します。
会計事務所の生産性とは
生産性とは投入資源量に対する成果量です。会計事務所は労働集約型であるため、生産性は職員の労働時間に対する売上または付加価値として表すことができます。
近年は人手不足と同時に労働時間の削減が求められるため、限られた職員数でより多くの売上高を獲得し職員へ還元する事務所、あるいは一定の売上高をより少ない時間で処理する働きやすい事務所などが評価されやすくなっています。
つまり、生産性が高い事務所に人が集まり、そのような事務所が生き残る時代が到来しているといえます。
会計事務所における生産性
会計事務所における生産性を表す代表的な指標は次の2つです。
- 1名あたり売上高 = 売上高 ÷ 職員数
- 1人時(1名1時間)あたり売上高 = 売上高 ÷ 総労働時間数
会計事務所の1人あたり売上高は936万円
事務所としての売上高は職員数によって異なりますが、職員1名あたりの売上高の差はそれほど大きくありません。2021年経済センサス によると、税理士事務所の職員1名あたり平均売上高は936万円となります。
| 税理士事務所 従業員規模別 | 従業員1名あたり 売上(収入)金額 |
|---|---|
| 平均 | 936万円 |
| 1名から4名 | 888万円 |
| 5名から9名 | 871万円 |
| 10名から19名 | 1,008万円 |
| 20名から29名 | 957万円 |
| 30名から49名 | (データなし) |
| 50名以上 | 1,266万円 |
会計事務所の人時生産性は5,000円?
税理士事務所の生産性を示す人時あたり売上高は平均で3,500円から5,000円といわれています。人時あたり売上高は、売上高を労働時間で割ることで求められます。試算例は下記のとおりです。
- 職員1名あたり売上高(経済センサス)9,360,000円
- 年総労働時間2,148時間
(2023年賃金構造基本統計調査第1表)より
- (=①÷②)人時生産性 4,358円
年総労働時間がより長時間であれば人時あたり売上高が減少(生産性が低い)し、より短時間である場合は人時あたり売上高が上昇(生産性が高い)します。
人時生産性は業種によって異なりますが、大企業(学術研究、専門・技術サービス業)の人時生産性(付加価値÷時間)は6,000円を超えているといわれています。

会計事務所の生産性が低くなる理由
会計事務所の生産性が伸び悩む背景には、業界特有の構造や慣習が深く関わっています。主な理由は以下の3点です。
労働集約型のビジネスモデル
会計事務所の業務は「人」の作業に依存する部分が大きく、売上を増やすために労働時間を増やして対応するという構図になりがちです。特に記帳代行や申告書作成などのルーチンワークに追われると、付加価値の高い業務に時間を割けず、人時生産性が停滞します。
業務の属人化とブラックボックス化
「この顧問先は〇〇さんしか分からない」といった担当者への依存が強いのも特徴です。作業手順が標準化されていないため、担当者ごとにやり方が異なり、事務所全体としての効率が上がらない原因となります。
アナログな対応とIT活用の遅れ
顧問先からの資料回収が紙媒体であったり、事務所内の進捗管理をエクセルや手書きで行っていたりする場合、転記や確認作業に膨大な工数が発生します。最新のクラウドツールやAIを使いこなせていないことが、生産性を下げる大きな要因です。
会計事務所が生産性を向上させるメリット
会計事務所が生産性を向上させるメリットは次の3つです。
- 事務所の利益率の改善
- 離職率の低下など人材不足の解消
- より付加価値が高い業務の強化
職員の労働時間を増やすことなく売上を増加させることで、事務所の収益性が向上し、売上高を維持しながら職員の労働時間を削減することでワークライフ・バランスの改善、離職率の低下などが期待できます。
あるいは生産性向上によって生まれた時間を活かし、付加価値業務を強化することで、収益性の改善と職員のモチベーション向上につなげることができるでしょう。
上記のように、生産性を向上させることで利益率や職員の定着率が改善されるようになり、質の良い人材採用が促進され、事務所がより成長しやすいサイクルが生まれます。
税理士事務所が生産性を向上させるための方向性として次の3つがあげられます。それぞれについて以下で解説します。
- 労働時間を増やさずに売上を増やす
- 作業を減らす、作業にかかる時間を削減する
- 職員のモチベーションを高める
会計事務所の生産性向上策~売上アップ編~
売上高を増やす施策として次の3つがあげられます。
顧問料を見直す
税理士事務所の月額顧問料は顧問先の事業規模(売上高、従業員数など)や仕訳数に応じて決めていることが多いため、顧問先ごとの作業量に見合った顧問料となっているか再確認しておきましょう。
顧問料の範囲となる業務を適正化する
顧問料の範囲内として、本来は有料とすべき作業を無料で提供していないかなどを確認します。例えば、顧問先が融資を受ける際の資料作成への協力などです。
また、月次監査のオンライン化や訪問する回数を減らすなどについても検討しましょう。
顧問料の範囲内となるサービスであるか、顧問先と認識が異なる場合があるため、顧問料に含まれる作業内容を明確化する、顧問料外の有料メニューを作成する、などにより、トラブル防止に役立ちます。
付加価値業務を強化する
記帳代行や申告書作成以外の業務を受注することで、顧問先あたりの単価を上げることが可能です。主な例は、資金繰り表の作成や補助金申請時の書類作成のサポートなどです。
付加価値業務を推進するためには職員のスキルアップが必要となるため、業務を効率化させて研修時間を確保できるようにしましょう。
会計事務所の生産性向上策~業務効率アップ編~
既にIT化やAI活用により効率化している税理士事務所が増えています。加えて税理士業務において活用可能なAIツールが相次いで登場しており、今後は事務所間で生産性格差が広がると予測されています。会計事務所が求められる効率化のキーワードは次の3つです。
- 作業の標準化
- 分業(または製販分離)
- 情報の共有化
事務所内の業務を標準化する
作業を標準化し明確にすることで、作業の停滞や抜け漏れを防ぎ、担当者が不在となった場合の代理作業や引き継ぎが円滑化されやすくなるでしょう。業務標準化は次の流れでおこないます。
- 業務フローを洗い出し、無駄な作業を廃止
- 作業時の細かなルールを決定
- 決めたルールを作業指示書、作業手順書、チェックリストとして整備
細かなルール決めの代表例は次のとおりです。
- 端数処理の方法
- データファイルの保存場所、ファイル名の付け方
- 書類回収は領収書よりレシートを優先
- 顧問先に協力してもらい、書類回収をデータのみなどに絞り込む
- 支払書類と仕訳を番号で紐付け
製販分離を進める
会計事務所における製販分離とは、顧問先対応や提案をおこなう担当者と、記帳・申告書作成をおこなう担当者を分ける体制のことを指します。
職員数に限りがある事務所においては、書類作成・確認担当・入力担当・顧問先担当に分けるなど、職員数や職員の経験値などに応じて対応しましょう。
担当業務を絞り込むことで作業効率化が進み、顧問先への提案時間を確保しやすくなるなどのメリットがあります。
顧客管理、進捗管理、タスク管理を共有
会計事務所の業務管理における悩み事として、『情報ごとに管理が異なる』『ほかの職員や前の担当者の作業状況が分からない』『エクセル管理で管理手法・データが属人化している』などがあげられます。
顧問先の情報や提案予定、書類回収状況などを共有することで、事務所全体のチームプレーを円滑に進めることができます。
主な取り組み策としては、外出先であっても作業でき、複数の職員が編集可能であるなどの利点がある「システムの導入」があげられます。
例えば、経営革新等支援機関推進協議会が紹介する『会計事務所の業務 with kintone』のように、顧客管理・書類回収状況・イベントなどを一元管理でき、誰もが見やすいシステムを導入することで、組織全体の作業最適化に役立ちます。

会計事務所の生産性向上策~モチベーションアップ編~
事務所の生産性を向上させるには、職員のモチベーションが重要であり、職員のモチベーションを高める主な取り組み例は以下のとおりです。
税務・会計以外のサービスに取り組む
税務・会計以外の業務に力を入れることで、収益性向上と同時に顧問先と職員の成長を図ることができます。また職員が顧問先から直接感謝される機会が増えることで、職員の自信となり、やりがいをもって業務に臨むことが期待されます。
研修制度を整える
税制改正に加えて、財務分析や補助金・助成金申請などのノウハウを職員が身に付けるためには、繁忙期においても学習しやすい動画視聴型研修プログラムの導入がおすすめです。
税理士事務所向けの研修プログラムが各社から提供されており、職員ごとのキャリアアップに応じた育成が可能です。
時間管理、データ分析で人時生産性を見える化
タスク管理や作業にかかった時間などのデータを分析することで、どの職員がどのような業務を、どこまで進めているか、業務が特定の職員に集中していないか、などを把握しやすくなります。
業務の“見える化”は職員の負担を軽減し、職員の満足度につなげるためにも、体制を整えましょう。
事務所の方向性を明確とする
生産性向上に向けた「事務所の方針」は職員に明確に伝えましょう。例えば『1年以内に人時生産性7,000円を超え、賃上げで還元する』、『職員が働きやすい会計事務所を目指す』などです。
事務所の目指す姿を伝えることで、職員が望むライフスタイルとのギャップを擦り合わせることができます。
面接、目標管理制度などの導入
職員が努力している過程とその成果を正しく評価する「評価制度の導入」も職員のモチベーションを高める方法のひとつといわれています。
事務所としての目標を達成するために必要な項目を定め、その項目を評価項目とする方法が主流です。努力しても成果に結びつかないことがあるため、その過程を評価するための面接や評価指標への組み込みを併用し、職員を適切に評価していることが伝わるような運用が大切です。
会計事務所の生産性向上は協議会がトータルでサポート
人材不足に加え、AIの浸透により、今後も変革が予測されている会計事務所が生き残るためには「生産性の向上」が必要です。生産性を向上させることで事務所の利益率が改善され、職員への還元と定着率の改善を通じて、“人が集まる事務所”となることにつながります。
「職員を効率的にスキルアップさせたい」
「作業状況をエクセルで管理すると不便、属人化してしまう」
「顧客管理・タスク管理が複数のシステムに分かれて使いにくい」
「求人に応募がないので人手不足が解消しない」 などのお悩み事は経営革新等支援機関推進協議会のサービスをご検討ください。
補助金申請書の作成サポートから財務分析ツールの提供、事務所の業務を俯瞰できるクラウドシステムの紹介や人材採用・育成パッケージなど、会計事務所の効率化と付加価値化をトータルでサポートするサービスを月額30,000円(税抜)で利用できます。
会計事務所の生産性向上についてよくある質問
会計事務所の運営や事務部門の効率化に関して、よくある質問をまとめました。
業務の生産性とはどういう意味ですか?
生産性とは、投入した資源(インプット)に対して、どれだけの成果(アウトプット)が得られたかという比率を指します。 会計事務所におけるインプットは主に「職員数」や「労働時間」であり、アウトプットは「売上高」や「付加価値(利益)」です。
つまり、同じ売上をより短い時間で達成するか、同じ労働時間でより高い単価の業務を行うことが「生産性が高い」状態といえます。
事務職の生産性向上にはどうしたらよいですか?
事務職や補助スタッフの生産性を高めるには、徹底した「標準化」と「IT化」が有効です。
- マニュアルの整備:
誰が担当しても同じ品質・スピードで作業できるよう、業務フローを可視化し、判断基準を明確にします。
- RPAやクラウドソフトの活用:
データの転記作業や定型メールの送信などを自動化し、単純作業を機械に置き換えます。
- コミュニケーションの集約:
チャットツールなどを導入し、電話や対面での細かな確認時間を削減します。
- 製販分離の徹底:
入力作業に特化するチームと、顧客対応を行うチームを分けることで、各担当者が自身の業務に集中できる環境を整えます。
会計事務所は産業分類で何に分類されますか?
日本標準産業分類において、会計事務所(税理士事務所、公認会計士事務所)は以下の分類に属します。
- 大分類: L 学術研究,専門・技術サービス業
- 中分類: 72 専門サービス業(他に分類されないもの)
- 小分類: 724 公認会計士事務所,税理士事務所
この「専門・技術サービス業」は、専門的な知識やスキルを提供することで対価を得る業種です。同分類の他業種(コンサルティング業など)と比較して、自事務所の生産性がどの水準にあるかを知ることは、改善の第一歩となります。
まとめ
会計事務所を取り巻く環境は、慢性的な人手不足やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、大きな転換期を迎えています。これからの時代、事務所が持続的に成長し、質の高い人材を確保し続けるためには、「生産性の向上」は避けて通れない最優先課題です。
生産性向上は一朝一夕に成し遂げられるものではありませんが、一歩ずつ取り組むことで、事務所の収益性改善と職員のワークライフバランスの両立が可能になります。
まずは、自事務所の業務フローの中で「どこに無駄があるか」を洗い出すことから始めてみてはいかがでしょうか。
















