中小企業における時間外労働に対する割増賃金率が引き上げされました。
2023年4月1日から適用されています。この改正は、中小企業の範囲となる会計事務所においても適用されます。
本記事では、会計事務所における残業の削減、時短などの生産性向上について、わかりやすく解説します。
目次
時間外労働の割増賃金率が改正されています(2023年4月開始)
労働者が労働基準法に定められた時間を超えて労働した場合、通常の給料に一定の割増率を加算した給料の支払いが必要です。
労働基準法の改正に伴い、いままで中小企業では猶予されていた特例が廃止され、大企業と同じ割増率が適用されます。
割増賃金率の改正内容
1か月間の時間外労働時間が60時間を超える部分について、中小企業も大企業と同様に割増賃金率が50%となりました。この取り扱いは2023年4月1日から適用されています。
改正対象となる中小企業
割増賃金率の引き上げの対象となる中小企業の定義は次のとおりです。
業種 | ①資本金または出資の総額 | ②常時使用する労働者数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
上記以外の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
業種ごとに、上記の①または②のどちらかに当てはまる場合、中小企業者と判定されます。
なお、①②ともに企業全体で判断します。
会計事務所も対象です
税理士事務所や会計士事務所はサービス業に区分されます。上記の資本金や労働者数のいずれかの範囲内であれば、中小企業者として今回の改正の対象となります。
会計事務所はブラック企業?
ここ数年で「ブラック企業」という単語が急速に広まりました。「ブラック企業」と呼ばれる企業は求職者から敬遠されるなどの影響が出る可能性があります。
ブラック企業とは
「ブラック企業」という言葉に正確な定義はありません。一般的には、次のような労働環境、労働条件がある職場を指します。
- 給料水準が低く、拘束時間が極端に長い
- 休日が少ない
- サービス残業を強制される
- 過剰なノルマがある
いずれも人により認識が異なるため、明確な基準はありません。しかしながらSNSの広まりによって「ブラック企業」との流言が広がることがあります。「ブラック企業」との印象が独り歩きした場合、スタッフの求職者が減るなどの影響が出ます。
会計事務所=ブラック企業というイメージを持たれる理由
会計事務所は繁忙期と閑散期で業務量が大きく異なるなどの特徴があります。また税理士資格取得のための勉強時間も必要です。このため、会計事務所にはブラック企業が多いとの誤解が生じます。
税理士事務所が繁忙な5つの理由
税理士事務所が繁忙といわれている理由は次のとおりです。
- 人手不足
- 繁忙期に業務が集中
- 資料の回収と確認に時間が必要
- 税制、法改正への対応
- 顧問先におけるニーズの高度化
人手不足
税理士登録者は過半数が60歳以上といわれています。また税理士試験合格者の平均年齢も上昇しており、第71回(2023年)合格者のうち53.6%が36歳以上です。税理士業界全体が高齢化しており、新規の採用には消極的であるといわれています。
また税理士試験合格者の独立による離職も加わり、慢性的に人手不足の事務所が多いともいわれています。
業務が集中する繁忙期
個人の確定申告準備が始まる11月以降は、法人の確定申告件数もピークの時期を迎えます。確定申告が集中しはじめる1月頃から、多くの法人の確定申告が終了する6月頃までは業務が集中し、労働時間も長くなります。
顧問先からの資料の回収と確認の負担
顧問先からの領収書などの資料の回収、内容の確認事務は時間をかける必要があります。記帳代行や給与計算などの業務が多い事務所は、書類を揃え、内容を確認する作業も多く、労働時間が長くなる理由の1つとなります。
税制改正、電子帳簿保存法・インボイス制度など法改正への対応
税制は毎年のように変わります。また電子帳簿保存法・インボイス制度などの新たな法制に迅速に対応する必要があります。
事務所における対応だけでなく、法改正内容や適合した事務を顧問先へ指導できるようにするためには習熟が必要であり、労働時間が長くなります。
ニーズの高度化
顧問先からのニーズは税務・会計相談だけでなく、補助金申請への支援や財務改善への助言、事業承継へ向けた相談など、高度化、複雑化、専門化しています。
顧問先におけるさまざまなニーズに対応するため、事務所スタッフのレベルアップのための時間も必要です。
事務所も生産性向上が必要
会計事務所もサービス業であり、顧問先からの多様なニーズに対応し、顧問先から選ばれる続けるためには、事務所内の生産性の向上が欠かせません。
事務所の売上を簡単に示すと次のとおりです。
事務所の売上高 = 事務所スタッフの人数 × 担当件数 × 単価
スタッフ1人あたりの売上、付加価値の向上
事務所スタッフの1人あたりの売上、収益を向上させます。
会計事務所における担当件数は、法人20から30件、個人10から20件といわれています。また、税理士事務所および会計事務所における事業従事者1人あたりの平均売上高は9,011千円(2017年)となっています。
スタッフ1人あたりの担当件数を増やすことで、売上を増加させることができます。
【関連記事】会計事務所の担当件数の考え方とは
顧客単価の向上
事務所スタッフの担当件数には限りがあります。このため顧問先1件からの受注金額を増やすことも検討します。
例えば、顧問料の引き上げ、従来は無償でおこなっていたサービスの有料化、今まで受注していなかった業務を新規に受注するなどです。
事務所の生産性を向上させる方法5選
事務所の生産性向上は「収入の増加」「人時生産性の向上」の2つがポイントです。
「収入の増加」は税務・会計業務以外の業務の拡充が効果的です。記帳指導や給与計算のみでは差別化が難しく、今後は顧問先におけるDX化に伴い業務の縮小が予想されるためです。
「生産性の向上」は事務所スタッフのスキルアップ、付加価値が低い業務の削減などがあります。
業務の拡充による差別化
「収入の増加」は事務所の差別化が大切です。事務所の差別化の方向性としては次の2つがあります。
- 専門分野がある事務所
(資産税に強い事務所、海外取引に強い事務所など)
- 事業のホームドクター的な事務所
(資金調達や補助金申請相談など事業のさまざまな悩み事に対応する事務所など)
専門分野を磨きあげるためには時間がかかるため、税務・会計業務以外のサービスを提供することで売上の増加を図ります。
煩雑な定型業務の外注化
付加価値が低い業務については、事務所内の業務を見直しします。具体的には次の作業です。
- 顧問先からの資料の回収遅れ
- 書類の追いかけ、前さばき、不足書類の確認
- 記帳入力
- 軽減税率の確認
- インボイス制度への対応
などがあげられます。
顧問先の自計化をすすめるだけでなく、領収書の確認と入力を外注化する方法があります。
広告宣伝の自動化
税務・会計業務以外の受注は顧問先への案内が重要です。顧問先へのアピール方法は、DM、メルマガなどがあります。
重要なポイントは、「定期的、継続的に」「顧問先が関心を持つテーマ」を踏まえて、顧問先へ「提案する」ことです。
税制改正や補助金情報などテーマとして顧問先へ早めに案内する仕組みを作ります。
財務分析の定型化
事務所の差別化方法の1つとして、財務分析資料の提供が挙げられます。
事務所独自の様式だけでなく、広く採用され、見やすい、過不足ないフォーマットが好ましいです。またポイントを押さえたフォーマットを利用することで、経験が浅い事務所スタッフも顧問先や金融機関などへ説明しやすくなります。
教育訓練の外注化
事務所の業務の付加価値化を図るためには、事務所スタッフの教育訓練が必要です。
各種制度の改正情報を迅速に身に付けるとともに、顧問先に応じて具体的に提案し、計画書の作成などができるまでのレベルアップは、カリキュラムが確立した教育機関を利用することが早道です。
業務負担軽減と生産性向上は経営革新等支援機関推進協議会へご相談ください
インボイス制度や電子帳簿保存法への対応など、会計事務所の業務量は今後も増える予想です。
事務所の生産性を向上させるためには、業務フローの見直しをおこない、より付加価値がある業務に時間を割く必要があります。
業務の見直しや税務・会計業務以外の本業支援業務の拡充は、経営革新等支援機関推進協議会にご相談ください。
経営革新等支援機関推進協議会は、株式会社エフアンドエムが提供する、税理士事務所などの顧問先支援業務をサポートするサービスです。会計事務所業務を全面的にサポートする豊富なノウハウを月額30,000円(税抜)で利用することができ、全国1,686か所の会計事務所様にご利用いただいています。
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- 監査担当、入力担当による煩雑業務を実質『ゼロ』に
まとめ
時間外労働の削減は会計事務所にとっても重要な課題のひとつです。
事務所スタッフの慢性的な長時間労働は、業務の見直しや外注化によって削減することが可能です。
煩雑な事務作業の時間を縮小し、顧問先への本業支援などに力をいれることが事務所の差別化、付加価値化に繋がります。
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