税務分野においてもAIの活用が広がっています。記帳や申告書など税務書類作成業務にAIを活用するシステムが既に利用されはじめており、今後は税務相談業務におけるAI活用が広まると予測されています。
本記事では税理士がAIを活用する方法やAI活用のメリットについて解説します。
目次
税務分野でAIの活用が浸透
専門性が高いため「AIの活用はこれから」と言われていた税務分野ですが、記帳業務以外にもAIの活用が進んでいます。国税庁や顧問先である企業、同業の税理士事務所などで、データの収集、根拠情報の確認、文書作成などにAIが活用されています。税務分野におけるAI活用の主な例は次のとおりです。
AI税務調査で追徴課税が増加⁉
国税庁は課税・徴収においてAIを活用しています。国税庁の『税務行政のデジタル・トランスフォーメーション』において、過去の調査データを機械学習させたAIにより、申告漏れリスクが高い納税者を判定し、重点調査対象を絞り込むなどの活用方法が記載されています。
また国税庁の発表によると、2022年事務年度(2022年7月から2023年6月)の追徴税額が過去最高となった理由 として、AIにより調査必要度が高い法人を絞り込み、重点的な調査をしたことをあげています。
【参考】税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(2023年6月23日)|国税庁
税務書類の作成はデジタル化・IT化が急激に進んでいる
記帳業務については、銀行取引明細やレシート内容を読み込み、適切な勘定科目を選択するデジタル化・IT化が進んでいました。
最近は進化したAI-OCR技術を利用し、証憑読み込みと同時に仕訳を生成、申告書などの会計書類まで作成できるサービスなどが提供されています。
税務相談業務にAIを活用
従来は人による対応が中心であった税務相談業務もAIが活用されはじめています。代表例が国税庁の税務相談AIチャットポッド『ふたば』です。
『ふたば』と同様に、税理士事務所がホームページ上や顧問先とのLINE上にAIチャットボットを設置し、一般的な質問・回答をおこなっているケースが増えています。
税理士がAIを活用する5つの業務とそのメリット
税理士がAIを活用する直接的なメリットは効率化です。主なメリットを活用方法とともにまとめると次のとおりです。
税務書類作成
AI-OCRの導入が代表例です。入力作業が劇的に減少する、ミスの見逃しが減るなどの効果が期待できます。PwCによると、AI-OCRの導入により経理事務の80%を削減したと発表しています。
また異常値を自動で検出する機能を実装させ監査業務を効率化する、申告書作成時のチェックポイントをAIに取り込むことで、申告書の品質を向上させるなどの活用法があります。
【参考】税務のDXが企業価値の向上を加速する。AI活用で税務はどのように変わるのか|PwC
税務相談
一般的な質問対応をAIがおこなうことで、スタッフはより専門的な対応に専念できます。
また顧問先への回答のための事例や根拠の収集にAIを活用することで、調査時間を大きく削減できます。
スタッフの育成・ノウハウの共有
過去の事例やマニュアルなどを検索・閲覧・要約するAI(チャットポッドなど)を導入することで、スタッフがノウハウを共有化しやすい、所内研修が容易となるなどの効果が期待できます。
そのほかにもチャットポッドを使ったトークスクリプトの作成、顧問先との会話の訓練などの利用方法があります。
財務分析
顧問先の決算内容をAIへ読み込ませ、財務分析レポートの生成、経営課題の抽出などを自動でおこなうことが可能です。経験が浅いスタッフや知識が少ない業界・業態であっても一定の分析が可能となります。
顧問先に対する提案
顧問先への提案などの資料はAIで効率的に作成できます。例えば税制改正の内容を顧問先へ案内する文書や補助金情報の提案書の作成などがあげられます。
税務相談AIは使える?評判は?
専門的な税務相談に対応可能な税務相談AIが複数の企業から提供されはじめています。
現時点では税務相談を任せることは難しいですが、今後は実務家としての要求水準に適うAIが増えると予測されています。
税務相談にAIを活用できるようになると、多くの業務時間を割いていた顧問先対応・回答のための情報収集や確認作業が大幅に効率化できると期待されています。
現在利用されている税務相談に使えるAIを大きく分けると次の3つとなります。
- 一般的な質問へ回答するAI:ChatGPT、国税庁『ふたば』など
- 税理士の利用を想定したAI:『税務相談ロボット』『ZeiMee』など
- 大手事務所が監修するAI:PwC、EYなどの税務AIアシスタントツール
税務相談AIの主なメリット(評価)とデメリット(課題)をまとめると次のとおりです。
メリット | ・24時間対応 ・大量の情報収集が短時間で可能 ・ある程度満足できる回答が得られる ・外国税務など入手しにくい情報を集めやすい |
デメリット | ・質問の言い回しによって回答が異なる ・情報の正確性を検証する必要がある ・AIの品質管理とアップデートが必要 ・情報が流出する可能性がある ・質問回数により料金が変わる |
AI時代に必要とされる税理士は付加価値業務がカギ
AI時代においては、AIと人間との協働が前提となります。
- AIがおこなう業務:データ収集、確認、検出、資料作成などの定型作業
- 人がおこなう業務:経営者や企業への洞察、顧問先に応じたカスタマイズ対応
日税連においても、『納税者が税理士事務所に期待するサービス内容が高度化・複雑化する中、それに対応するためにはAIを有効活用して税理士事務所経営を効率化』させ、『単純作業からより会計コンサルティングなどにより高度な作業にリソース』を割くと予測しています。
【引用】第4次産業革命と人口知能(AI)について|近畿税理士会
AI時代における税理士は、AI活用により業務を効率化させ、生み出された時間を活かし、より専門性が高い業務、付加価値が高いサービスを提供することが求められます。
AIを活用できる税理士となるために必要な5つのアクション
税理士がAIを使いこなすためには次の5つの取り組みが必要です。
AI活用ルールと管理体制の整備
AIを活用する事務所内のルールを整えます。主な内容は次のとおりです。
- 情報セキュリティ対策
- AIを利用する業務の範囲
- 個人情報や顧客情報など入力内容に関するルール
スタッフのリスキリング
AIを活用するためには慣れることが近道です。
身近な業務から使いはじめることで、スタッフがAIの仕組みや限界を理解し、適切に使いこなせるようになる必要があります。
顧問先のIT化
AIを活用するためにはデジタルデータの準備が前提です。
顧問先から回収した紙の領収書をデータ化する、顧問先で証憑を電子化するなどの体制づくりが必要となります。
思考力・創造力
AIは企業経営や経営者の考え方を洞察することができないため、税理士が経営者に寄り添った提案や情報提供を考えることがますます重要となります。例えば節税方法であっても、当期の節税を優先するか、中期の安定を重視するかにより対応は異なるなどです。
提案業務の拡充
業務を効率化させて生まれた時間を何に投入するか、事務所としての方針を決めておきます。例えば「より高度なノウハウが求められる分野を強化する」「補助金申請支援サービスを拡充する」などです。
税務・会計と異なるサービスを強化するために、スタッフの教育研修制度を整備しておきましょう。
付加価値業務の推進は協議会がサポート
事務所経営の効率化が喫緊の課題となっている会計事務所は、AIを活用することで生産性を向上させられる可能性があります。また生産性の向上により生み出された時間を活かし、より付加価値が高い業務を推進することで、長時間労働の削減、スタッフの定着率向上などが期待できます。
会計事務所の効率化・高付加価値化のお悩みは、経営革新等支援機関推進協議会へご相談ください。全国約1,700事務所への支援実績がある協議会が、事務所経営の悩みごと解決をトータルでサポートします。