AIを監査業務に活用する動きが広がっています。ChatGPTを使った文書作成や調査、AI-OCRによる自動記帳などに加えて、豊富な専門知識と経験が求められる監査業務をAIが手助けしています。
本記事では、大手監査法人におけるAI監査の導入事例、AI監査を導入して事務所の付加価値をあげる方法などについて解説します。
目次
AIを活用した月次監査とは
AIを活用した監査とは、取引内容の適正さや仕訳の確認などの作業をAIが担う監査手法のことです。
税理士事務所向けにAIを活用した監査支援ツールがさまざまな企業から提供されており、主な機能と導入事例は次のとおりです。
AI監査支援ツールができること
AIを活用した監査支援ツールの主な機能は「チェック」と「異常検出」です。会計システムから取り込んだデータをクラウド監査ツールへアップロードすると、設定した監査ルールに基づいて勘定科目と仕訳をチェックし、異常を発見することができます。
特に仕訳数が多い顧問先の帳簿チェック作業は、作業時間の大幅な短縮が期待できます。
AI監査支援ツールにおける主な自動チェック機能は次のとおりです。
- 異常な増減
- マイナス残高
- 仕訳の適正さ
- 重複仕訳の有無
- 消費税課税区分の誤り
AI監査ツールの導入により月次監査の内容が変わる
AI監査ツールを導入することで、仕訳チェックなどの確認時間が大幅に削減できます。
月次監査で顧問先と面談する内容についても絞り込んだ調査・確認事項に集中することができ、生み出された時間を使い、経営者への提案などに時間をあてられます。
これからのAI監査のイメージ
AIを活用することで、仕訳チェックなど事前確認業務にかかる時間が大幅に短縮できます。
ただし、AI監査はデータに基づくため、従来の紙証憑をベースとする業務の流れは見直す必要があります。
例えば、大手監査法人のPwCが考えるAI監査は、データの自動収集・OCRによる読み込み・データ間突合・異常検知・レポート作成までをAIがおこなう流れとなっています。
顧問先によってはデジタル化(ペーパーレス化)から提案する必要があるでしょう。
AIを活用した監査のメリットと課題
AIを活用した監査には、作業時間の大幅な短縮などのメリットがある一方、課題もあります。
AIを活用した監査のメリット
AI監査の主なメリットは、次のような作業を効率化できることです。
事務所スタッフにとっても「入力時の安心感がある」、経験が少ない監査担当者であっても「一定水準以上の監査が可能となる」などの効果も期待できます。
効率化により確保された時間を使って、顧問先とのより深い対話や改善支援の提案にあてられます。
- 定型的な作業・データ量が多い作業におけるミスの減少
- 入力・集計作業の削減による監査時間の短縮、事務所の生産性向上
- 監査品質の標準化
- 早期あるいはリアルタイムでの異常検出
- 訪問監査時における確認事項の削減
- 月次決算、年次決算の早期化
AIを活用した監査の課題
AI監査における課題として以下の事項があげられています。
- ルールの事前標準化
- 顧問先に応じた調査事項や異常値のルール設定
- 監査手法や異常値水準などのAIへの学習
- 人の経験による勘や気付きがない
- システム導入・維持費用
- スタッフへの教育時間
AI監査ツールは事前に共通ルールが登録されており、設定されたルールや事例に基づくチェックは得意です。
事務所の決まりごとや顧問先に応じた勘定科目の使い分けなどは個別に登録、学習させることが必要です。
また人の経験による勘や気付きはひとつずつ学習させる必要があります。
例えば、受注から納品までの期間が極端に短い不自然さ、取引相手が不正でないかの気付きなどは、人による確認が必要といわれています。
AIで監査業務を効率化するために必要なこと
AI監査を導入するときは、資料をデジタル化する体制を整えるなどの事前準備が必要です。
また定型業務を削減することで生み出された時間を活かして、顧問先へどのようなサービスを提供するか検討しておく必要があります。AI監査により、月次監査の重点は事前確認作業から「顧問先との検討や提案」へ移るためです。
顧問先の協力や自計化
AI監査は証憑をデータで回収することが前提であるため、顧問先の協力が必要です。
また書類のデジタル化と同時に顧問先の自計化を進めることで、記帳代行業務など定型業務を削減することができます。
企業の自計化率は増加しており、クラウド会計ソフトの浸透とともに自計化を進めやすい環境となっています。
月次監査時に顧問先への提案を強化
月次監査時に書類や取引をチェックする時間が削減されるため、事務所から顧問先へさまざまな提案をおこなう時間が確保できます。
事務所として顧問先へ「どのようなサービスを提案するべきか」考案しておきましょう。
スタッフのスキルアップが必要
AIを事務所のスタッフが使えるようになる必要があります。また定型業務を削減して新たにおこなうサービスについてもスタッフのスキルアップが必要となります。
そのほかの業務の負担とならないよう、動画研修の導入など、効率的な教育研修体制を整備しましょう。
AI監査による税理士ニーズに対応するためには経営革新等支援機関推進協議会を活用
AI監査の導入で単純作業を削減する事務所は、経営者との対話を増やし、改善提案に注力できるため、より経営者のニーズに寄り添い、頼られる存在となります。
「人手不足でスタッフを育成する時間がとれない」「経験者が採用できない」「未経験者を採用すると育成に時間がかかる」などの課題がある会計事務所様は、経営革新等支援機関推進協議会へご相談下さい。
スタッフ採用・新人を即戦力化する財務分析ツール・補助金などの公的支援策のチラシ素材提供など、会計事務所の効率化や差別化は、経営革新等支援機関推進協議会がサポートします。