顧問先を財務診断する際に、「的確に効率よく分析する方法があれば活用したい」と思うことはないでしょうか。顧問先が抱えている財務上の悩みは、収益性や効率性に関する問題など、さまざまあります。
財務診断には、「収益性」、「安全性」、「生産性」、「成長性」、「効率性」の5つを総合的に分析することで経営状況の把握が可能です。
本記事では、財務診断の概要や、5つの視点に沿った分析方法について解説します。
目次
財務診断とは
財務診断は、顧問先の財務諸表から現状と問題点を分析することです。
財務諸表には、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などがあり、「収益性」、「安全性」、「生産性」、「成長性」、「効率性」の5つの視点で診断します。
財務診断によって、経営状況で問題になる部分の解決策を提示する、あるいは業績が好調であれば設備投資や事業拡大をおこなうためにアドバイスすることができます。
もし、適切に企業の財務諸表を読み取って現状と問題点の分析ができなければ、正しい解決策やアドバイスを出せず、顧問先を窮地に立たせるため注意しなければなりません。
財務診断の必要書類
財務診断は、財務諸表から分析します。財務諸表には、3つの財務資料があります。
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書が主な資料です。この3つの書類を「財務3表」と呼びます。
貸借対照表分析
貸借対照表は、企業の財務状況を把握する資料で、ある時点の資産や負債、純資産の金額を表すために作成します。
決算時に表すことが一般的なため、3月決算の企業であれば3月31日時点の財務状況となります。
貸借対照表で表す資産は、現金や普通預金、売掛金などの流動資産、建物や土地などの固定資産といった、会社が所有する財産です。
負債は、買掛金や未払金、1年以内の短期借入金などを「流動負債」、金融機関から長期的に融資を受けている借入金などを「固定負債」といい、企業が取引先などから負っている債務をいいます。
純資産とは、資産と負債の差し引いた金額のことで、企業の自己資本です。
損益計算書分析
損益計算書は、企業の業績を把握する資料で、一定期間の収益と費用の金額を表すために作成します。3月決算の企業の場合、4月1日から翌年3月31日の業績です。
損益計算書で表す収益は、企業の売上のことで、費用は企業が支出した販売経費や管理費を指しており、収益から費用を差し引いたものが、利益となります。
キャッシュフロー計算書分析
キャッシュフロー計算書は、企業の現金状況を把握する資料で、一定期間の現金の流れを示すために作成します。
3月決算の企業の場合、4月1日から翌年3月31日の現金の流れです。
キャッシュフロー計算書で表す現金の流れは、営業活動や投資活動、財務活動の3種類に分けて把握します。
- 営業活動:本業によって得た現金
- 投資活動:設備投資などによって生じた金額
- 財務活動:金融機関による融資などの借入金と返済によって生じた金額
キャッシュフロー計算書は損益計算書とは異なる視点で企業の資金状況を確認するため、同じ会計期間内の現金支出が一致しません。
その理由は、キャッシュフロー計算書が現金主義に基づいて作成され、損益計算書は発生主義で作成するためです。
「現金主義」と「発生主義」は、現金主義の場合、実際に現金の収入や支出があった場合に記入し、発生主義の場合、収入や支出の発生が確定した場合に記入する会計処理となります。
会計処理が異なるため、同じ会計期間内のキャッシュフロー計算書と損益計算書は一致しません。
5つの視点から財務診断
財務診断に必要な書類をそろえたら分析をおこないます。
「収益性分析」~企業の利益はどのくらいか〜
収益性分析は、「企業がどれだけお金を稼げる力をあるのか」を示す指標です。
代表的な指標は、3つあります。利益率が高ければ、現在の経営で好調な利益を出していることが示されます。
総資本経常利益率
総資本経常利益率は、企業が所有するすべての資本から、どのくらいの利益を出すことができたかを表す指標です。
経常利益は、企業がおこなう通常の事業の中で得た利益のことで、通常発生しないような利益や損失は計上されません。
次の計算式で算出できます。
総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100%
経営資本営業利益率
経営資本営業利益率は、企業活動のうち本業のみを対象としており、営業活動で使う資本から、どのくらい利益を出すことができたかを表す指標です。
次の計算式で算出できます。
経営資本営業利益率=営業利益÷経営資本×100%
損益分岐点売上高
損益分岐点売上高は、利益がプラスでもなくマイナスでもない時の売上高を表す指標です。固定費は、売上にかかわらず一定の費用がかかるため、どの時点で利益となり、または損失になるかを把握しておく必要があります。
次の計算式で算出できます。
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率({1-(変動費÷売上高)})
「安全性分析」~資金に余裕はあるのか〜
安全性分析は、企業の支払い能力がどのくらいあるのかを表すものとなるため、短期的な支払能力と長期的な支払能力を分析する指標です。
短期的な安全性分析
短期的な支払能力を分析する指標として次の2つがあります。
- 流動比率
流動比率は、流動資産と流動負債から、企業の短期的な支払能力を分析する指標です。
流動比率=流動資産÷流動負債×100
- 当座比率
当座比率は、換金性の高い当座資産と流動負債から、企業の短期的な支払能力を分析する指標です。すぐに換金できない資産を除いて計算する特徴があります。
当座比率=当座資産÷流動負債×100
- 自己資本比率
自己資本比率は、企業が所有するすべての資本のうち、純資産の割合を分析する指標です。割合が高いことで、経営の安全性を確認できます。
自己資本比率=純資産÷総資本×100
長期的な安全性分析
長期的な支払能力を分析する指標として次の2つがあります。
- 負債比率
負債比率は、自己資本からどのくらいの負債を支払えるのかを分析する指標です。負債比率が低いことで安全性が高まります。
負債比率=負債÷自己資本×100
- 固定比率
固定比率は、 固定資産への投資がどれくらい自己資本で賄われているかを分析する指標です。固定資産が返済の必要のない自己資本で賄われることで、経営の安全性がわかります。
固定比率=固定資産÷自己資本×100
「生産性分析」~付加価値を生み出す体制になっているか
生産性分析は、企業が投入した経営資源のうち、どのくらいの付加価値を生み出せたかを分析する指標です。
労働分配率
労働分配率は、企業の付加価値に対して人件費の割合を分析した指標です。労働分配率が高いことで、少ない人件費で多くの付加価値を出していることになり、同時に人件費が低すぎる可能性も示します。
労働分配率=人件費÷売上総利益×100
労働生産性
付加価値労働生産性は、1人あたりの労働者が生み出した付加価値を分析した指標です。付加価値額は、付加価値を数値化したものとなるため、売上から原価を差し引く方法による計算や、生産過程を積みあげる方法による計算(経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課)があります。
労働生産性=付加価値額÷従業員数
「成長性分析」~将来の成長見込みはどのくらいか〜
成長性分析は、企業の一定期間どのくらい成長したかを分析する指標です。
売上高成長率
売上高成長率は、前期から今期で増加した売上高を分析する指標です。
売上高成長率=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100
経常利益成長率
経常利益成長率は、前期から今期で増加した経常利益を分析する指標です。
経常利益成長率=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100
総資本成長率
総資本成長率は、前期から今期で増加した総資本を分析する指標です。前期と比べて負債が増加しても、総資本成長率はプラスになるため、内訳を確認するなどして対処する必要があるでしょう。
総資本成長率=(当期総資本金額-前期総資本金額)÷前期総資本金額×100
「効率性分析」~利益は効率良く出せているか
効率性分析は、企業の資産によってどのくらい効率良く売上を出しているかを分析する指標です。
総資本回転率
総資本回転率は、企業の総資本によって売上が何回転するかを分析する指標です。総資本に対して効率的に売上高を生み出せているかがわかります。
総資本回転率=売上高÷総資本
仕入債務回転率
仕入債務回転率は、原材料や商品を仕入れた際に未払いになっている買掛金や未払金などの債務が売上原価の何回分かを分析する指標です。
仕入債務回転率=売上原価÷仕入債務
財務診断をおこなう注意点
顧問先の経営課題を解決させるには、会計事務所が適切に財務診断をおこなえなければなりません。
日頃から財務診断をおこなって、回数をこなしていくことで、さまざまな事例が増えるため、一つ一つの企業に合わせた解決策の提示も可能でしょう。
会計事務所が、顧問先に財務診断をおこなううえでの注意点を紹介します。
的確にサポートする
財務診断によって示された数値は、あくまで顧問先の現状を把握するための目安です。
示された数値から、なぜこの数値になっているのか、どうやってこの数値になったのかを分析できなければなりません。
将来を正確に予測することは難しいものの、企業の置かれている現状などさまざまな要素から総合的に判断することで、顧問先に合った的確なサポートができるようになるでしょう。
効率的に件数をおこなう
財務診断をおこなうには、会計事務所職員の数に比例した件数しか対応できません。
つまり、1人あたりが対応できる時間は決まってしまうため、いかに質を落とさず効率的に件数を進めるかが重要となります。
5つの財務診断を活用すれば、効率的に件数を進められるでしょう。
財務支援システム F+prus(エフプラス)のサービスと導入事例
経営革新等支援機関推進協議会では、会計事務所に向けて中小企業の持続的な経営を支援するために財務支援システム「F+prus(エフプラス)」を提供しています。2022年7月現在、F+prus(エフプラス)は1,602の事務所に利用いただいています。
会計事務所では、事業を拡大するために財務コンサルティング事業を新たに導入したいと考える事務所もあるでしょう。
F+prus(エフプラス) には、顧問先の決算書データや借入明細などを取り入れることで財務診断報告書を作成する機能があります。
作成した財務診断報告書は、瞬時に問題点を自動抽出してくれます。
財務診断をおこなったあとの解決策の提示として、金融機関への融資があるでしょう。
融資のサポートとして、金融機関が求める事業計画書を策定する支援もおこなっています。
実際に導入した事務所によると、顧問先の問題点を解決するための計画作成や毎月の予実管理などにF+prus(エフプラス)を活用し、顧問先に喜ばれています。
また、金融機関に提出する事業計画書の作成もF+prusを活用して、金融機関から「わかりやすい」と評価をいただくこともあります。
F+prus(エフプラス)は、会計事務所に向けた「経営革新等支援機関推進協議会」のサービスの一つで、実務支援やマーケティング支援などもあります。
月額33,000円(税込)で導入できるため、F+prus(エフプラス)のサービスをぜひご活用ください。