多くの税理士事務所が財務コンサルティングを提供しています。税務・会計業務から発展しやすいサービスであるとともに、中小企業の経営者からのニーズが高いためです。
本記事では、税理士がおこなう財務コンサルティングの内容と取り組むときのポイントについて解説します。
目次
税理士がおこなう財務コンサルティングとは

財務コンサルティングとは、主に財務面からのアプローチによって顧問先の経営状態を分析し、資金繰りや税務などの課題に対して改善策を提案することです。投資戦略・資金繰り・事業再生・企業価値算定など幅広い分野にわたります。税理士がおこなうことが多い財務コンサルティングの内容は主に次のとおりです。
財務分析、財務改善支援
顧問先の決算や試算表などに基づいて経営上の課題を把握し、解決策を提案することです。また事業計画の策定支援、計画の予実管理などをおこないます。
資金調達支援
顧問先の財務状態や資金需要にあわせた資金調達方法を提案することです。借入や増資などの資本政策に関する助言、補助金・助成金の申請支援などがあげられます。
金融機関対応支援
顧問先が金融機関へ提出する資料の作成支援、金融機関との面談への同席などです。
資金管理体制(経理体制)構築支援
顧問先の社内で予算や資金繰り表を作成できるようになるための助言や、経理業務におけるIT化を支援するなどです。
相続・事業承継支援
顧問先の株価算定、経営者の相続税対策や事業承継に備えた税務面の助言や対策を提案することです。
財務コンサルティングをおこなう税理士は約半分!?

財務コンサルティングをおこなっている税理士は、全体の約半数とみられています。
中小企業庁が発表した「2024年認定経営革新等支援機関に関する任意調査報告書」によると、認定経営革新等支援機関業務として「財務分析・経営分析」を実施した税理士は42.4%、税理士法人では56.8%となっています。
税理士がおこなっている経営コンサルティング(分野別)
認定支援機関として登録している税理士・税理士法人は約26,000件ありますが、認定支援機関としての活動が少ない分野もあります。
上記の報告書によると、税理士が認定経営革新等支援機関としておこなった業務の割合は、「税務」(税理士51.5%、税理士法人60.4%)と「財務分析・経営分析」がほぼ同水準、次いで「資金繰り」(同38.0%、52.1%)、「事業計画策定」(同24.8%、44.5%)となっています。しかし「IT利活用」、「売上拡大」など具体的な分野に取り組んでいる税理士は少なくなります。
【認定経営革新等支援機関としておこなった中小企業支援業務の分野】
分野別(複数回答) | 税理士 | 税理士法人 |
税務 | 51.5% | 60.4% |
財務分析・経営分析 | 42.4% | 56.8% |
資金繰り | 38.0% | 52.1% |
事業計画策定 | 24.8% | 44.5% |
IT利活用(内部管理・効率化) | 11.6% | 21.3% |
売上拡大 | 13.9% | 17.5% |
施策活用(補助金申請含む) | 4.1% | 11.6% |
税理士がおこなっている財務コンサルティング
税理士が認定経営革新等支援機関としておこなった具体的な業務内容としては、「経営力向上計画」が最も多く(税理士22.3%、税理士法人43.3%)、「ものづくり補助金」(同5.1%、11.4%)や「事業承継補助金」(同3.5%、7.1%)は少ないです。
顧問先や事務所のスタッフに応じて得意な業務を磨くことで、認定支援機関の中でも差別化できる可能性があります。
【認定経営革新等支援機関としておこなった中小企業支援業務の内容】
業務別(複数回答) | 税理士 | 税理士法人 |
経営革新計画 | 8.3% | 13.5% |
経営力向上計画 | 22.3% | 43.3% |
経営改善計画策定支援事業 (代表) | 8.7% | 17.6% |
早期経営改善計画策定支援事業 | 4.5% | 9.8% |
ものづくり補助金 | 5.1% | 11.4% |
事業承継補助金 | 3.5% | 7.1% |
税理士が財務コンサルティングを拡充するメリット
税理士は税務の専門家として日頃から顧問先と接しているため、業績や経営状況の変化をいち早く把握できる点が強みです。そのため、税理士が財務コンサルティングに取り組むことで、以下のようなメリットが期待されます。
税理士が財務コンサルティングを拡充するための課題
税理士事務所は慢性的に人手不足となっており、財務コンサルティングを拡充するためには課題もあります。
【税理士が財務コンサルティングを拡充するための課題】
- 業務の生産性の向上
業務フローの見直しや、定型業務の効率化などが不可欠です。 - スタッフのスキル向上
財務コンサルティングに関する実践的な知識や、顧問先に対するわかりやすい説明力(プレゼンテーションスキル)などの習得が求められます。 - 他士業・専門支援機関との連携
対応が難しい分野については、他の士業や専門支援機関と連携し、補完し合える体制づくりが重要です。 - 効果的なマーケティング戦略
財務支援に関心のある顧問先を的確に把握し、アプローチするためのマーケティング施策が求められます。
決算は財務コンサルティングの好機!顧問先への提案のはじめかた

確定申告前後の時期は顧問先へ財務コンサルティングを提案しやすい好機です。顧問先へ提案するときのポイントは次のとおりです。
決算の前に事前検討会をおこなう
確定申告前に利益や納税額の見込みを顧問先へ伝えている税理士は多いでしょう。この機会を活かして、財務分析や財務改善レポートの提供を提案しましょう。
確定申告前後は経営者が財務に関心をもちやすいタイミングです。またこの時期は、翌期の投資計画や賃上げ予定などをヒアリングしやすく、事業計画の策定支援などの提案にもつなげやすくなります。
財務コンサルティングを「メニュー」として表示する
財務コンサルティングは事務所の提供サービスとして明確に「メニュー化」しておくことが重要です。内容や価格をあらかじめ提示しておくことで、顧問料に含まれると誤解されることを防ぎ、トラブルの回避にも役立ちます。
また本来は有償サービスであるサービスを“お試し”として提供し、次のサービスを提案するなどのテクニックにも活用できます。
財務コンサルティング資料はわかりやすさを大切にする
会計に詳しくない経営者や多忙な経営者でも一目で理解できるように、明確でわかりやすい表現を心がけ、グラフや表などのビジュアル要素を積極的に活用しましょう。
また、成果や効果を数値で示すことで、経営者の取り組み意欲を高めることが期待できます。
決算報告を提案の場とする
決算報告会は単なる報告で終わらせず、時系列比較や同業比較の結果、今後の改善策の提案の場として活用しましょう。
また財務状況が良好な顧問先に対しても、積極的な提案を検討しましょう。
業績の良い企業の経営者は、情報感度が高い傾向にあり、金融機関などからは、顧客に寄り添った視点や細かな改善提案が高く評価される可能性があります。
課題と解決策を提案する
財務コンサルティングは、何について、どのように取り組むかを提案することが大切です。課題と改善提案に優先度をつけると評価が高まります。
提案が難しい場合は、複雑な課題を整理するだけでも経営者から評価される可能性があります。財務改善提案書のサンプルは次のとおりです。

金融機関への決算報告に同席する
顧問先が取引金融機関へ決算報告する場合、税理士として同席する方法があげられます。報告時に事業計画や資金繰り表を作成しておくと、金融機関から顧問先に対する評価が高まります。
また税理士が金融機関と連携することで、新規顧客開拓につながることがあります。
財務コンサルティングを決算後も継続する取り組み方
財務コンサルティンを単発で終わらせず、計画の振り返りや予実管理(計画と実績の差異分析)を通じて、長期的な支援につなげていきましょう。顧問先の状態によっては、経営改善計画策定支援事業(405事業)など策定後の伴走を支援する施策が活用できます。
顧問先のイベントを共有する
顧問先の納税・確定申告・設備投資などの時期や内容については、顧問先と事務所の双方で共有しておくことが重要です。
顧問先ごとに「イベント管理表」を作成することで、タイミングに応じた提案や準備がしやすくなり、事務所内の業務の属人化も軽減できます。
以下は、イベント管理表のサンプルです。

顧問先のイベントにあわせてサービスを提案する
顧問先のイベントに先立ってサービスを提案しましょう。納税前に資金繰り確認(資金繰り表の作成)を提案する、新入社員採用前に就業規則の見直しを提案する、投資前に補助金・助成金の申請を提案するなどです。
月次監査の機会を活かした予実管理を提案する
税理士がおこなっている月次監査は、顧問先における計画の予実管理に最適です。計画の進捗や変動に対して迅速にアドバイスできます。
中小企業庁が発表した2025年版中小企業白書においても、事業計画の振り返りをおこなっている企業は業績の改善が着実に進んでいます。
【参考】2025年版中小企業白書・小規模企業白書の概要|中小企業庁37ページ
税理士がおこないたい財務コンサルティングの例
税理士が取り組みやすい財務コンサルティングとして次の例があげられます。
経理のIT化コンサルティング
経理作業のデジタル化が進んでいない顧問先に対して、会計ツールの導入を支援するなどです。顧問先における経理事務の削減効果に加えて、事務所の生産性が上がるなどの効果が期待できます。中小企業白書によると、売上高1億円以下の企業の約半数が会計ソフト以外の方法で集計や帳簿作成をおこなっています。
資金繰り表の作成コンサルティング
融資の審査で求められることが多い資金繰り表を作成している企業は全体の約半分とみられます。顧問先が資金繰り表を作るときの課題は予測の難しさだけでなく、「実績の把握」があげられています。会計業務をデジタル化することで、数値の管理が円滑となる、資金繰り表を作成しやすくなる、など税理士目線による提案が可能です。
財務コンサルティングの拡充は経営革新等支援機関推進協議会がサポート
財務コンサルティングは、財務体質の見直しを通じて資金繰りの改善や資金調達の円滑化を図ることで、顧問先の経営安定に大きく貢献する有効な取り組みです。
税理士が日頃行っている業務から発展させやすく、補助金申請や融資申込みといった多様な場面において、顧問先を幅広く支援することが可能です。
また、顧問先1社あたりの収益性向上や、スタッフのやりがいやモチベーションの向上といった効果も期待できるため、積極的な導入を検討する価値があります。
財務コンサルティングを拡充したいとお考えの会計事務所様は、経営革新等支援機関推進協議会がトータルでサポートします。コンサルティング業務の立ち上げから、スタッフのスキルアップ支援までを含め、月額30,000円(税抜)でご利用いただけます。
経営革新等支援機関推進協議会が提供する主なサービスは次のとおりです。
- 財務分析から改善提案までをパッケージした財務支援システム『F+prus』(エフプラス)
- スタッフにあわせてスキルアップをサポートする動画研修プログラム『ACADEMY』
全国約1,700の会計事務所様が利用する経営革新等支援機関推進協議会へ、お気軽にご相談ください。