2023年10月のインボイス制度開始に伴い、顧問先との交渉が始まりつつあります。
インボイス制度が開始すると、今までの会計・税務処理が複雑になるため、事前に顧問先との擦り合わせが不可欠です。
本記事では、2022年12月に経営革新等支援機関推進協議会でMGS税理士法人の勝部貴史様が講演いただいた「インボイス制度の対応について」の一部をご紹介します。
【登壇者】
目次
値上げをおこなうと決めている事務所は47%?
2022年12月に開催された「インボイス制度の対応について」の講演中にアンケートを実施したところ、受講していただいた事務所の約47%が「インボイス制度に対応する場合、値上げをおこなう」と決めていらっしゃいました。
一方で、「値上げをしない」事務所が約27%、「検討中」の事務所も約27%と参加者の半数以上が値上げに対して否定的、または検討段階であることがわかりました。
インボイス制度の開始に伴い、事務所の作業量は必ず増える一方で、顧問先との関係性も考慮すると値上げをして良いものか悩んでいる事務所も多く見受けられます。
また、顧問先の中には、すでに課税事業者である顧問先、免税事業者から課税事業者へ申請する顧問先、免税事業者のままの顧問先それぞれに対応方法を検討しなければなりません。
インボイス制度の顧問先対応について
まずは、インボイス制度の開始に伴い、顧問先の状況に応じて最適な対処方法を取るために顧問先と対応について考えていきましょう。
免税事業者への方針確認
免税事業者の顧問先には、2023年10月以降、課税事業者へと切り替えるか、もしくは免税事業者のままで事業を続けるか方針を確認しましょう。
課税事業者へと切り替える場合、自社が発行する請求書等のインボイス対応や、取引先が発行したインボイスの受け取りにおける対応を話し合う必要があります。
免税事業者から課税事業者へと切り替える顧問先とのやりとりは、以下のポイントを押さえましょう。
- どれくらい負担が増えるかを説明する→ 小規模事業者の負担軽減措置(消費税額の2割納税)を説明するなど
- 免税事業者の顧客における対応方法を提示する→ 消費税額2割納税(経過措置中のみ)、簡易課税(1種、経過措置期間後)、値引き対応(経過措置期間中のみ)、原則課税のいずれかを選択してもらう
- 顧問先に結論を出してもらう→ 負担軽減措置ができたため、顧客への値引き対応は選択肢から外す方向で進言しても良いかもしれません
- 各業界のインボイス制度における対応をよく理解する→ 例)タクシー業界では、個人タクシーに対して、全車インボイス登録を推奨など
顧問先が発行する請求書等のインボイス対応について
顧問先が課税事業者である場合、適格請求書や適格簡易請求書がインボイスに対応している旨を明示(課税事業者登録番号の記載や備考欄への注意書きなど)しましょう。
備考欄に注意書きとして記載する際は、2023年の施行前後で内容を変更しておくことがおすすめです。
【備考欄への記載例】
2023年9月まで:2023年10月以降、こちらの書類がインボイスとなります。
2023年10月以降:こちらの書類がインボイスに該当します。適切に保管ください。
インボイス以外の書類には、備考欄に「こちらの書類はインボイスではありません」と記載しましょう。
顧問先が発行された適格請求書の取り扱いを決定する
顧問先の顧客が発行した適格請求書(インボイス)の取り扱いについて、事前協議を通して決定しておきましょう。
顧問先の取引先のうち、金額が大きく、継続的に取引する相手には事前に登録事業者の有無を確認しておきます。
もし取引金額が大きく、登録事業者以外(免税事業者)が顧問先の取引先にいた場合は、対応を検討するよう促しましょう。
また、発行された適格請求書の確認方法や税理士事務所との共有方法も併せて確認しましょう。
インボイス制度の開始に伴い、事務所の事前準備について
インボイス制度の開始に伴い、顧問先との連携や対応業務の切り分け、具体的な対応方法、スタッフの教育など事務所としてやるべき事前準備は多岐に渡ります。
業務フローを見直す
顧問先に対して、事務所がおこなっている記帳代行(資料回収方法、入力方法、チェック方法)や自計化(チェック方法)の棚卸から始めます。
業務フローを見直した上で、非効率な作業を洗い出し、組織全体として改善点を見つけ対策しましょう。
対応方法の模索(自計化や報酬増額の提案)
業務の棚卸しをおこない、事務所や顧問先双方で業務フローを改善した上で、インボイス制度における対応方法を模索します。
まずは今まで通りに顧問先と資料をやり取りする場合、顧問料の増額を打診します。
その際、インボイス制度が開始することで、どの程度業務が増えるかを説明できるように準備が必要です。
多くの顧問先は税理士事務所が面談以外にどんな業務をしているか把握していないことが多いため、業務内容の共有機会としても活用できます。
顧問料の増額を抑えたい顧問先には、自計化または資料の回収方法の見直しを打診しましょう。
中には、顧問料の増額の打診に対して、記帳代行の業務が打ち切りになる可能性もあります。
その場合、事務所としてどういった価値を提供できるかを明確にして、営業力を上げておかなければなりません。
消費税課税事業者の管理体制の整備
登録事業者の場合、自動で免税事業者にはならないため、事前に顧問先に説明して判断をしてもらう必要があります。
また、免税事業者が課税期間の初日から登録を受けようとする場合には、当該課税期間の初日から起算して15日前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。
そのため、今まで以上に顧問先の消費税管理が必要となるため、情報共有を徹底できる体制の構築が必要です。
スタッフ教育
インボイス制度では、入力業務を含めて顧問先の管理が煩雑となります。
そのため、スタッフを教育するにあたり、教育ツールの選定・導入や作成が必要です。
外部の教育ツール、また社内研修や社外研修の受講を検討しましょう。
インボイス制度対応のおける注意点
受け取った請求書の確認をどちらがするかなど、取り決めを徹底することが大切です。
中でも登録事業者の確認について、事前に取り決めておかないと認識のズレが生じてしまい、トラブルに発展してしまいます。
登録事業者の確認について
登録事業者の確認は、顧問先でおこなうか、事務所でおこなうか事前にしっかりと取り決めましょう。
業務の棚卸しや業務フローの改善の段階で、作業内容に含めて、どちらが担当するか決定しておくことが大切です。
契約書に明記するかについて
登録事業者の確認をはじめ、インボイス対応は従来の業務よりも負担が増えます。
顧問先と事務所が担当する業務を、契約書に明記しましょう。
契約書の再締結が負担の場合、覚え書きにおける対応にも有効です。
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まとめ
インボイス制度が開始するにあたり、顧問料増額を検討している事務所が多いといえます。
税理士事務所が普段どんな業務をおこなっているか把握していない顧問先も多く、インボイス制度対応に向けた話し合いは事務所の業務共有や付加価値を伝える良い機会でもあります。
「なぜ業務が増えるのか」という疑問にしっかりと応えていけば、顧問先の多くは理解を示してくれます。
まずは事務所の業務フローの棚卸しを始め、業務改善をおこなった上で顧問先の希望に応じた対応をおこないましょう。