会計事務所支援ブログ

【特別寄稿】小規模事務所の顧問先支援と収益化について

小規模事務所の顧問先支援と収益化について

年々複雑化する税制。特にいま最大の話題はインボイス制度です。増大化する業務量と税務リスク。税理士にとって色々な意味で悩ましい時代です。

その一方で、この状況は大きなチャンスと捉えることもできます。

とある小規模事務所の実例を通じて、「税理士業の未来」について一緒に考えてみたいと思います。

高橋昌也税理士・FP事務所様のご紹介

はじめまして。神奈川県川崎市で開業をしている、高橋昌也です。

2007年2月、28歳で税理士登録をしました。

いわゆる二世税理士ですが、合格直後から親子で「性格も違うし別々にやろう」ということで、別に事務所を立ち上げました。

いくらかの顧問先を分けてもらえたのは本当に助かりましたが・・・それでも開業初年度は赤字だったのを強烈に覚えています。

税理士会から紹介される相談や講師に関する業務を受けつつ、少しずつ顧問先を増やしていきました。

開業して2年が経過したところで事務員さんの雇用に踏み切りました。現在は税理士が私ひとり、事務員さんが2名という典型的な「マチの税理士」をしています。

3年前の時点で、法人の顧問先が40社くらい、個人事業者が20名くらい、年イチの申告を含めて全部で80件くらいの申告をしていました。

そして2020年1月末に父が病に倒れ税理士業務が不可能に。

確定申告目前ということもあり、ともかく父の顧問先についても私が対処することに。

文字通り必死で仕事をしていたら、気が付けば世の中はコロナ一色。大混乱の中でなんとか申告期を乗り切り、その後いくつかの顧問先を引き継ぎ。現在は年間で約100件の申告を担当しています。

書面添付制度と経営力向上計画

ひとりの税理士が担当している件数としては、結構多いのではないかと思います。

業務品質の向上と維持、そして効率化は常に考え続けています。

その中で、特に「これはやって良かった」と思えるのが書面添付制度経営力向上計画です。

書面添付制度

税理士法第33条の2に規定される書面添付制度。

現状ではあまり活用されているとは言い難い制度ですが、個人的にはもっと広まってほしいと考えています。

書面添付をはじめたのは、開業して3~4年目くらいからです。

まずは比較的規模の大きなお客様から添付をはじめました。記載する内容について、最初は事例集などを読んで勉強をしつつ、次第にお客様との面談で話した内容等を中心にまとめるようになってきました。

経営全般、前年と比較して変化したこと、設備投資を含めた当期中の主な取り組み、今後の目標など、できる限り平易な言葉でまとめるようにしています。

そのメリットは絶大で、主に以下の3つにまとめられます。

対税務署のメリット

おかげさまで、税務調査の回数は書面添付をはじめて以降、激減しました。意見聴取がたまにあるくらいで、そのときにも「書面がとてもよく書かれています」とお褒めの言葉を頂いたことがあります。

対金融機関のメリット

これは当初、想定外だったのですが・・・お客様が取引している金融機関の担当者から御礼の言葉を言われました。「稟議や報告の書類をつくるのに、先生が書いてくれた書面がものすごく役立つ」とのこと。

対顧問先のメリット

申告書を提出する前に、完成した書面原稿をお客様に提示します。

そのやり取りを通じて、これまでの取り組みや現状認識、そして今後の取り組みについて共有できるようになりました。

また、税務上の選択について確認することで、トラブル防止にもつながります。

特に消費税など事前の選択が迫られるときに「説明をした上で、このように選択した」ということが書面にまとめておくのは、とても大切だと考えています。

経営力向上計画

制度開始から数年が経過しましたが、こちらもまだまだ活用されているとは言い難い状況です。

ほんとうに良い制度なので、もっと活用する事例が増えてほしいと心から願っています。なんといっても大きいのは税制優遇です。設備投資の税額控除等は取り逃し厳禁といっても良いレベルの制度です。

計画書を作るというと、苦手意識をお持ちの方も多いようです。ただ、経営力向上計画はそれほど複雑な記載内容が求められるものではありません。慣れてしまえば比較的簡単に作成できます。

ちょっと難易度が高いのは、事前に計画を作成する必要があるB類型です。たしかに少々手強いのですが、これも件数を重ねていくと次第に慣れてきます。特に工場建設や新規出店など規模の大きな設備投資の場合、B類型に対応できるか否かで、数百万円レベルで税額控除の差が出ることもあります。

そして、慣れるのは税理士だけではありません。お客様の側もどんどん慣れてきます。

設備投資というのは、繰り返し行う方は行うものです。その度に経営力向上計画の変更申請をしていくと、次第にお客様の側からも情報が出てきやすくなってきます。

ウチで一番慣れている方だと「今回はA類型だから楽ですね。生産性の証明書はメーカーに依頼済です。」「今回は証明書が出ないから事前の計画作成が必要ですよね。

時間制限があるので、早めに見積もりをお渡ししますね。」なんて話が出てきます。こうなってくると、お客様もそうそう簡単に離れたりはしないのかな、と。

もちろん、これに付随して先端設備導入計画への対応も同時に進めます。

書面添付にしろ、向上計画にしろ、大切なのは「お客様の仕事を言語化してあげること」です。

この作業を通じて、お客様自身が自分の仕事を再認識すると共に、その作業をする税理士に対して、一定の信頼感をもってくれるようになる。

数字的な定量情報に加えて、言語による定性情報を提供する。これを継続することが、結果的に長期契約の実現につながっていると感じています。

経営革新等支援機関推進協議会さまとの関係

これらの取り組みを続けていく中で、経営革新等支援推進協議会さまにも色々とお世話になっています。

経営力向上計画については、取り組みを始めたとき、概要の把握や具体的な記載方法など、色々なことを教えてもらいました。

事前添削のサービスも活用して「これくらい書ければ大丈夫らしい」ということを確認していました。何回か続けていく中で次第に慣れてきて、最近は自分ひとりで書けるようになりました。

向上計画以外にも、気になる優遇税制の情報も適宜確認しています。事前に情報を整理してくださっているので、たいへん助かっています。

合わせて金融に関する基礎講座はものすごく役立ちました。金融機関の融資審査における基本的な考え方がわかったおかげで、お客様と融資関連の話をするとき、とても具体的な行動指針を提言することができています。

こちらの基礎講座、定期的に開催されているようなので、ぜひ一度参加してみることを強くオススメします。

顧問先との継続的なやり取りが結果的に業務効率化へ

上記のようなやり取りを通じて、お客様の事業実態や現在の課題が共有されます。

その結果「ここはこうやった方がお互いに楽でしょうね」という業務効率化を進めることができています。

お客様と私、そして私と事務員さんの間でその辺りの情報を共有し、より現状に適した経理・税務体制を構築していく。手間がかかるようですが、これが相当件数の顧問先とのやり取りを継続できている、一番のコツだと考えています。

そんな中、インボイス稼働に向けて、既存のお客様から「ウチの外注先、ぜんぶ先生のところでやってくれない?」なんてお話も出ています。

最終的には「信頼される税理士に仕事が集まってくる」という傾向が、より顕著になるのではないでしょうか。

ということで、私の「小さな事務所なりの工夫」について、簡単にご紹介しました。

ほんのすこしでも、皆さまのお役に立つことがあれば幸いです。

ABOUT US

高橋 昌也
1978年神奈川県生まれ。2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。 その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。