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人材の定着と将来性は税理士事務所で両立する!?業界トップの経営者達の目線から解説

人材の定着と将来性は税理士事務所で両立する!?業界トップの経営者達の目線から解説

税理士事務所の成長には、顧問料の値上げや付加価値業務の提供などにより、売上を伸ばすことが必要です。しかし、売上を伸ばすことで従業員への負担が増えるため、離職につながる可能性もあるでしょう。
従業員の定着と事務所の成長をどのようにして両立すればよいか。そう悩んでいる方も多いでしょう。

本記事では、税理士法人SS総合会計の鈴木氏と税理士法人イデアコンサルティング伊東氏の対談から、トップ経営者の姿勢や取り組みを紹介します。

税理士事務所で従業員が定着するカギとは?

従業員を事務所に定着させる方法として何を思い浮かべるでしょうか。
税理士事務所関係者(約200人)に聞いた結果は下記の通りです。

アンケート「従業員を事務所に定着させるために最も注力している取り組みは次の内どれですか?」
  • 教育環境の提供40%
  • 給与への反映33%
  • 福利厚生の充実18%
  • 理念の浸透9%

(対象:本対談を拝聴された当議会会員様 約200人)

こちらのアンケート結果を元に、鈴木氏と伊東氏が人材定着のために注力していることを紹介します。

給与は従業員のモチベーションを上げないが下げることはある

給与を上げることで、従業員のモチベーションを上がるため、人材が定着する。
この考え方は本当に正しいのでしょうか。

鈴木氏は「私は、給与で従業員のモチベーションはあがらないと考えています。」と述べます。

例えば、パートタイムの従業員はあまり給与が上がらない条件で働いています。
しかし、SS総合会計のパートタイムの従業員から、前職に比べて高いモチベーションをもって働けていると聞くことが多いのだそうです。

これより、モチベーションを上げるポイントは給与以外にあると考えるべきでしょう。

ただし、あまりにも低水準の給与はモチベーションを下げる可能性があります。
あくまでも、従業員のモチベーションを上げるために、安易に給与を上げることは得策ではないということを理解しておきましょう。

従業員のエンゲージメントを高める

単に定着率のよい会社が良い会社ではありません。
トラブルを持ち込む、業務の質が悪いなど、会社にとって良くない影響を与える人も定着しては会社のためにならないからです。

「会社に貢献しようと、情熱をもって業務に取り組む人を増やす(=エンゲージメントの高い職場)必要がある。」と鈴木氏は述べます。

エンゲージメントとは

熱意をもって自発的に職場に貢献しようとすること

社員のエンゲージメントを高めるには、社員自身が提供したサービスの価値を、顧客と一緒に体験することが重要です。自身の業務やサービスに自信とやりがいをもって取り組むことができるようにます。

税理士事務所であれば、『付加価値業務』が該当するでしょう。
例えば、SS総合会計のMAS(財務コンサル)が挙げられます。
顧問先と伴走して、経営が改善する(固定費削減、生産性向上など)と非常に感謝されます。
そのため、所属事務所のサービスが顧客に響いている!と自信を持っている社員が多いです。

本気でやりがいのある仕事をしている従業員は定着します。そして、その雰囲気は職場でパートタイムの従業員にも伝わります。
このように、やりがいのある仕事と顧客の満足度が一致すると従業員が辞めることは限りなく少ないでしょう。

教育と評価制度に完成はない

「会社規模が大きくなるにつれ、応募者から給与体系や研修体系を質問されることが増えた。」と伊東氏は語ります。
大手事務所で知識や経験を習得したいというニーズに応えることはもちろん、人手不足の税理士業界において、未経験や新卒社員の雇用には教育が必要です。
事務所の規模感に合わせた教育方針を立てるようにしましょう。

また、伊東氏は「現在は、会社の採用や給与体系について従事し、従業員の給与を減らさないようにしながら、働き続けてくれるように2、3年に1回給与・評価体系の見直しをしている。」と語っています。
会社を長年経営するにあたり、結婚・出産といった様々なライフステージをむかえる社員が出てくるでしょう。会社と社員の成長にあわせて、評価制度も修正していく必要があります。

事務所を成長させるにあたって経験した悩みや失敗

事務所を発展させるにあたり、悩みや失敗はつきものです。
これから、事務所を大きくしたい方に向けて、これまで経験した悩みや失敗をお二人に伺いました。

税理士事務所の採用は求職者目線で

人不足が顕著な税理士業界では、税理士の採用は非常に難しく、事務所ごとの工夫が必要となります。
伊東氏は、採用は悩みながら下記のような工夫で乗り切ってきたと語ります。

  • 税理士事務所か税理士法人か選ぶ時は、求職者目線で考えて法人を選択した(当時社員2名)
  • 税理士事務所で採用がうまくいかないとき、経理の事業会社で経理の経験者を採用し、税理士事務所の業務を手伝ってもらっていたなどです。

このように、採用は求職者目線で柔軟に考えましょう。

教育は従業員ごとのバランスを見極める

教育の質を高めると、従業員のモチベーションアップにつながりますが、業務レベルも上がるため、勤務時間が長くなる傾向にあります。
本人が納得して働いている場合でも、家族や友人から転職を勧められることもあるでしょう。
鈴木氏は、教育を一生懸命にして、失敗した経験があると語ります。
パートタイムの従業員に対し、こちらから「もう帰って大丈夫ですよ」と伝えていても、「ここまでは対応します!」と言うほど意欲的な人が、急に辞めてしまうことがありました。
最初は疑問に感じているだけだったが、後に大量の辞職者が出てしまい、原因を調べたところ、家族から日々転職をすすめられていたことが分かりました。
教育の質を高めることはいいことですが、従業員ごとに合わせたバランスでおこないましょう。

業務の質は経営者のシビアな姿勢で担保される

鈴木氏は、経営者として従業員に対し過度に優しい姿勢をとることで、業務の質が低下することがあると指摘しています。
以前、鈴木氏の経営方針に大変賛同してくれる従業員に甘く対応したことで、結果的に思った通りにいかず、業務の質が落ちてしまったことがあるそうです。

経営者にとって、業務の内容に関しては厳しく接することが、業務の質を担保するうえで重要と言えます。

事務所の規模によって経営者の立ち振る舞いはどう変えるのか?

事務所の経営を始めた当初は、元々信頼関係のある税理士や従業員ばかりで、事務所内で仲良く話すことも多いかと思います。
事務所の人数規模が大きくなった場合、どのように立ち振る舞いを変えるべきか悩んでいる方必見です。

事務所のトラブル防止のために明確に変えるのも手

伊東氏は「法人が20人規模になった時、従業員個人に対して話しかけることはしないように変えた。」と語ります。
日によっては丸一日従業員と話さないこともあるそうです。
特定の人と仲良くした場合、その人が贔屓されていると感じることや他の従業員から不満が生じる原因となるため、トラブル防止にもつながります。

属人化を目指すなかで業務の質はどこまでこだわるべきか?

事務所を経営していると、自身と他の従業員で、提供したいと思うサービスの質が異なることがあります。
顧客にできる限り高い価値を提供したいと考えるのは良いことですが、他の従業員の能力や業務時間の範疇を超えて、高品質なものを毎回提供することは難しいでしょう。
この問題が「再現性の壁」です。
再現性を求めるには、商品定義が必要となります。
経営者として、サービスのどの部分をこだわるか、定義を決めるようにしましょう。

再現性の壁を乗り越えるには?

ここでは鈴木氏の経験を紹介します。
SS総合会計では、MASを提供するか、月次の財務サービスを提供するか検討したことがありました。
先代は、従業員では企業経営の理解が難しいため反対していましたが、MASが中小企業の支援につながると確信し選択したそうです。
その後、従業員も提供できるMASを確立するために、企業見学などをおこない、時間をかけて商品定義を決めていったと語っています。

このように、新しいサービスの開発など事務所のリノベーションにつながることは、経営者が時間をかけて検討し、拘りたい基準から商品定義を定めていきましょう。
その商品定義をもとに、従業員に研修をおこなうことで提供サービスに再現性をもたせることが出来るようになります。

まとめ

この記事では、鈴木氏と伊東氏の対談から、人材の定着と事務所の将来性を両立させるポイントを紹介しました。
事務所を成長させるにあたり、両者が共通していることは「変化を恐れない」ことです。
事務所の発展ステップにあわせて、経営者も同じようには変化をしていきましょう。

人材の定着と事務所の生産性を向上させるには
  • 従業員のエンゲージメントを高める
  • 評価制度は事務所の成長に合わせて変更する
  • 採用は求職者目線でおこなう
  • 教育は従業員ごとにバランスを見極める
  • 提供するサービスは時間をかけて商品定義を定める

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