税理士試験の終了と同時に税理士の採用活動が本格化します。売り手市場である税理士を採用できている事務所には、応募者が働きたいと思う仕組み作りがあります。
本記事では税理士の採用が円滑となるためのポイントについて解説します。
目次
人手不足が続く会計事務所
会計事務所では人手不足が続いています。
税理士の有効求人倍率は全国平均で2.31倍、大阪府においては3.07倍となっています。(2022年度)
【参考】職業情報提供サイト|厚生労働省
人手不足の要因として「高齢化」「低定着率」「採用難」があげられています。
高齢化、低定着率、採用難
- 高齢化
税理士の平均年齢は60歳代以上が53.8%を占めています。
また受験者数の37.5%、科目合格を含む合格者数の22.0%が41才以上となっています。
- 低定着率
独立予定の所属税理士や社員税理士がいるため、定着率が低い(離職率が高い)といわれています。
統計では一般的な離職率は13.9%、税理士を含む学術研究、専門・技術サービス業の離職率は11.9%です。(2021年)
- 採用難
税理士事務所を含む学術研究、専門・技術サービス業の労働者過不足判断D.I.(正社員など)は45%ポイント(2023年5月)となっています。
2022年8月から連続して調査産業平均を超えており、人手不足が続く業界となっています。
労働者過不足判断D.I.(正社員など) (単位 %ポイント) | 2022年 8月 | 2022年 11月 | 2023年 2月 | 2023年 5月 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 44 | 46 | 50 | 45 |
調査産業計 | 41 | 44 | 46 | 44 |
(注 労働者過不足D.I.とは、労働者数について「不足(やや不足、おおいに不足)」と回答した事業所の割合から「過剰(やや過剰、おおいに過剰)」と回答した事業所の割合を差し引いた値のことです。%と%の差である%ポイントで表示されます。)
背景として税理士事務所数の増加と、税理士試験合格者数の減少があげられています。
税理士事務所数27,958か所は+14.3%の増加です。
一方、税理士試験合格者数(科目合格者を含む)は5,139名であり-8.9%の減少です。(いずれも2016年と2021年の比較)
【引用】税理事務所数
2016年経済センサス サービス関連産業Bに関する集計 全国結果|e-Stat
2021年経済センサス サービス産業に関する集計|e-Stat
試験合格者数(2016年、2021年)2022年度統計年報|国税庁
働き方改革における対応も必要
会計事務所は12月頃から6月頃までの繁忙期に業務が集中し、労働時間が長くなります。
また2020年4月から時間外労働の上限規制が施行されており、法定外労働時間が月45時間を超えることができる期間は年6か月までとされているため、会計事務所においても働き方改革にあわせた対応が必要です。
税理士を採用しやすい会計事務所とは
税理士を採用しやすい事務所、税理士が働きたいと思う事務所は次の点に力を入れています。
- 働きやすい職場環境の整備
- 給料水準や充実した福利厚生制度の導入
- 将来の昇給、キャリアパスの明確化
- SNSや求職サイトの活用
働きやすい職場環境
応募者が重視する働きやすさは人により異なります。一般的に働きやすい職場環境としては次の例が挙げられています。
- 複数人で対応できる体制となっており、休暇をとりやすい
- 所長や事務所スタッフとコミュニケーションしやすい
- 自己研鑽のための時間がとれる
- 日曜祝日が休みである
- リモートワークや時差通勤など多様な勤務体系を導入している
税理士事務所は平均従業員数5.3名(2021年27,958事業所での従業員数146,965名)と少人数の事務所が多くなります。
このため若い応募者を中心に、人間関係、勉強時間と休暇の取得しやすさについての関心が高いといわれています。
またリモートワークを導入することで、多様な働き方を望むスタッフへの対応や、遠隔地の優秀な人材を採用することも可能です。
給料、福利厚生が充実
求職者は給料だけでなく福利厚生についても注目しており、法定外福利厚生を整える事務所も多くあります。
具体的には従業員数5名以下だが健康保険や厚生年金に加入している、退職金制度を整えているなどです。
昇給、キャリアパスが明確
明確な給与規定や評価制度の導入はスタッフのモチベーション維持につながります。
昇給制度についての考え方は事務所により異なるため、応募者への明確な説明が望ましいです。
また将来のキャリア像を示すことも重要です。一般的な税務顧問、法人顧問先へ幅広い対応など、事務所の方針や事務所内でのキャリアコースを示すことで、応募者の理解を得やすくなります。
SNS、転職サイトを上手に活用
応募者は事務所内の雰囲気やスタッフの年齢層、所長の考え方についても関心を持っています。採用に力を入れている事務所では次のような取り組みをおこなっています。
- SNSにおいて、所長やスタッフの紹介などを発信する
- 事務所のホームページなどで、事務所の取り組みや方向性などを公開する
- 転職サイト内の情報量やホームページの採用サイトを充実させ、応募者とのミスマッチを防ぐ
税理士を採用しにくいときにおける対応
人手不足が続き、思うように税理士を採用できないこともあります。税理士を採用しにくいときは『新卒・未経験者』『中高年』の採用も検討します。
新卒・未経験者から育てる
会計事務所を志望する新卒者や異業種に勤務している未経験者、科目合格者を採用し、長期での戦力化を検討します。なお税理士資格取得者のうち24.9%が税理士事務所と公務員以外の職業からの資格取得です。異業種からの転職者の採用も検討しましょう。
50代も⁉中高年者を採用する
税理士試験合格者の年齢は高く、5科目合格到達者の44.2%が41歳以上です。(2022年第72回試験)
このため50歳代の応募者であっても、職歴などを考慮した採用を検討することもできます。
人手不足が続くときはアウトソーシングを活用
人手不足が続くなかで会計事務所が生き残っていくためのスタートは、事務所の業務の効率化です。
業務を効率化するためには、定型業務を減らすことがおすすめです。具体的には、時間が必要となる教育研修や差別化が難しい業務をアウトソーシングし、付加価値が高い業務を強化するなどです。
スタッフの教育研修
税理士事務所のスタッフ向けに、法改正や本業支援業務の研修プログラムを提供するサービスがあります。
忙しいスタッフは短時間ごとに動画を視聴する研修、顧問先への実践的な支援をおこなうスタッフは基礎から実務実践までを一貫したプログラムを受講させるなど、個々のスタッフで柔軟な対応が可能です。
差別化しにくい業務
差別化が難しい業務として記帳代行があげられます。重要な業務ですが、不足書類の追いかけなど煩雑な作業を伴い、時間がかかります。
税理士事務所から記帳代行を受託するサービスが複数あるため、顧問先の経理水準やコストを比較して、最適なサービスの活用を検討します。
記帳代行サービスの多くは仕訳入力のみ、仕訳数に応じた従量制料金体制が主流です。
顧問先が次のような場合は、仕訳数にかかわらず定額制料金であるサービスの利用が効果的です。
例えば『おくるダケ記帳』サービスであれば、従来の記帳代行サービスの不満点を解消することが可能となります。
顧問先の特徴 | 『おくるダケ記帳』 | 一般的な記帳代行サービス |
紙の領収書が多い | 紙の領収書を郵送するだけ スキャンもお任せ | 電子データのみ対応 |
仕訳数が多い | 安心の定額制料金 | 仕訳数に応じた従量制料金 |
税理士事務所の経営は協議会がサポートします
人手不足時代における会計事務所の生き残りの秘訣は、働きやすい職場作りです。この実現のためには、定型業務の削減、高付加価値業務の推進が重要です。
事務所の効率化と付加価値化のお悩みは、経営革新等支援機関推進協議会へご相談ください。
協議会では次のようなサービスの提供を通じて会計事務所の収益化や差別化を支援しており、1,712の事務所が利用しています。(2023年8月時点)
- 新人スタッフを即戦力化できる財務分析ツール『F+prus』
- 知識習得から実務実践までをトータルで受講できる研修プログラム『ACADEMY』
事務所の繁忙期対策は、記帳代行業務をアウトソーシング可能な定額制サービス『おくるダケ記帳』がおすすめです。
- 書類のスキャンが不要
- 仕訳数に応じた追加料金が不要
まとめ
会計事務所における人手不足は今後も続くと予想されています。事務所がこれからも生き残るためには業務の付加価値化をすすめ、税理士やスタッフの採用と定着につなげることが重要です。
税理士やスタッフの採用をすすめるためには、福利厚生制度の整備、事務所や所長の方針の明確化など、応募者が自身の採用後の姿をイメージしやすくすることが大切です。
また人手不足が続く場合は事務所スタッフが離職する可能性が高まるため、アウトソーシングによる業務量の削減などを検討します。
会計事務所の経営上の悩み事は、経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。