税理士登録者数の増加や税務会計のDX化など、税理士事務所の経営環境が厳しくなっています。顧問先数を維持するためには、顧問先からの解約を防ぐことが有効です。
本記事では、顧問先から事務所への評価を高めることで解約を防ぐ方法を解説します。
目次
顧問先の満足度が高い税理士事務所とは
顧問先における税理士事務所への満足度として重視される要素は、価格・サービス・人間的な相性です。要素ごとに事例をまとめると次のとおりです。
要素 | 顧問先が満足と感じる例 |
費用 | ・費用の水準に納得感がある ・費用に見合ったサービスを受けることができる ・事前に費用についての説明がある |
業務内容 | ・自社のニーズに合ったサービスが受けられる ・業務の内容が正確で、信頼性できる ・事務所からの回答が早い ・事務所側からコミュニケーションがある |
人間的な相性 | ・事務所側が自社を理解していると感じる ・担当や先生が人間的に信用できる ・スタッフの見た目や身なりがしっかりとしている ・担当や先生と話をして、相性が良いと感じる ・事務所へ相談しやすい |
顧問先が税理士の解約を考える主な理由
顧問先が顧問契約の解除を申し出る理由は、これまでの不満の蓄積と考えられます。顧問先が抱える不満の代表例は次のとおりといわれています。
レスポンスが遅い、コミュニケーションが少ない
顧問先から事務所への連絡や相談に対して「折り返しの電話がない、または遅い」、「満足できる回答を受けるまで時間がかかる」などです。
また「事務所との接触が少ない」「アフターフォローがない」などの不満を顧問先が抱いている例もあります。
顧問先との面談の頻度・時間の平均は次のとおりです。
- 面談頻度:月1回…58.1%、四半期に1回…20.6%
- 1回あたりの面談時間:30分以上1時間未満…40.8%、1時間以上2時間未満…39.1%
税理士事務所からの提案が少ない
「補助金や税制優遇制度を聞かないと教えてくれない」「事業計画や資金繰り表の作成を支援してくれると知らなかった」などの不満です。
経営者は日常的な相談相手として税理士を選ぶ傾向が強いことに加えて、補助金申請、資金繰りの改善、事業承継などの内部課題に対する助言を求めています。
接遇への不満
「専門用語を説明してくれない」「顧問先を見下すような発言がある」などです。
心理的な要素が加わるため一概にいえないものの、顧問先が事務所に対して「話しにくい、相談しにくい」と感じることは不満の原因となります。
費用とサービスがアンバランス
「顧問料に見合うサービスを受けられていない」「新しい担当者になってから、レベルが低下した」などの不満です。
顧問料とサービスが釣り合っていないと感じる原因として、顧問先のニーズを把握していない、事務所から顧問先への提案がされていないなどが考えられます。
事務所側の担当者を変更した時は、顧問先が不満を持ちやすくなります。新しい担当者への引き継ぎを十分におこなうとともに、経験が浅いスタッフのスキルアップが必要です。
時代の変化における対応の遅れ
「新しい会計システムへ対応してくれない」などの不満です。
DX化や電子帳簿保存法における対応など、顧問先における会計システムの変更に対して事務所側において対応が遅れると、顧問先が不満を抱えやすくなります。
顧問先からの評価を上げる方法7選
顧問先の満足度を高めるためには大きく下記を意識しましょう。
- 顧問先のニーズと事務所の特長や業務とのギャップを小さくする
- 顧問先のニーズに対応した業務をおこなう
- さまざまなサービスを提供できるよう、事務所の生産性を向上させる
これらを意識したうえで顧問先からの評価を上げるポイント7選を紹介します。
事務所の特長を明確化
事務所の特長を明確化しておくと、顧問先へ説明しやすくなります。会計事務所のおおまかな方向性としては次の3つです。
- 低価格だが、サービスは限定的である
- 税務・会計業務を中心に、本業支援業務などの提案に力を入れている
- 専門分野に特化している
顧問先から税理士へのニーズを把握する
顧問先におけるニーズの把握は、顧問先からの評価を上げるために最も重要です。
中小企業の経営者は、『自社の経営に関する理解』とそれを踏まえた『支援策の提案』を重視しています。
顧問先の具体的なニーズを把握する方法として下記が考えられます。
- 顧問先へのアンケートをおこなう
- 以前の顧問先との解約理由を聞く
- 事務所からの情報発信を充実させ、顧問先が反応したテーマを把握する
顧問先の課題に対して提案をおこなう
顧問先のニーズにあわせた業務をおこなうことで、顧問先の不満を減らすことができます。また顧問先が期待する水準以上のサービスを提供することは、顧問先が高い満足度を得ることにつながります。
多くの経営者は経営上の日常的な相談相手に対して、「事業計画策定」「経営改善」「資金繰り」などの課題解決への支援を必要としています。
明瞭な料金体系と事前説明
顧問先は顧問料の相場がわからないため、報酬額と得られるサービス内容が釣り合わないと感じることがあります。
事務所の業務メニューを整え、報酬額を事前に明示しておくことで、後日の不要なトラブルを防止することができます。
事務所における業務の効率化
顧問先との面談や顧問先への提案を検討する時間を確保するためには、事務所の業務を効率化する必要があります。
付加価値が低い業務の削減や繁忙期におけるスタッフの負担を軽くする業務フローへの見直しを検討します。
DX化における対応
顧問先におけるシステム変更へ積極的に対応することで、顧問先がほかの事務所へ移ることを防止します。
本業支援業務の拡充
経営者は自社の内部課題ごとに相談先を変えています。税理士への相談は税務・財務だけでなく、経営改善や事業承継など幅広い分野にわたります。
顧問先におけるDX化や税理士数の増加により、経営者は顧問税理士事務所を変更しやすくなっています。差別化が難しい税務・会計業務のみをおこなう事務所にとっては、顧問先からの顧問料引下げや顧問契約の解除の可能性が高くなることがあります。
顧問先から選ばれ続ける事務所となるためには、顧問先へのサービスを拡充し、ほかの事務所との差別化を検討しましょう。
顧問先が解約を申し出るタイミングと兆候
顧問先は顧問税理士を変更するデメリットを理解したうえで解約を申し出ることが多いため、事前に兆候を掴むことが解約の予防策となります。
顧問先が解約を申し出するタイミングと兆候は次の例があります。
顧問先からの解約申し出のタイミング | 事務所側から見た兆候 |
確定申告終了後の閑散期 | ・顧問先からの相談が急に減る ・ほかの事務所との比較を口にする ・過去の資料やデータの引渡しの申し出が増える |
会計システムの刷新 | ・顧問先から「データ連携できず不便」などの不満を聞く ・「会計システム刷新で自計化したので顧問料を下げてほしい」との申し出が続く |
必要とするサービスを提供してもらないが、 ほかの事務所であれば可能 | ・「経営改善計画や資金繰り表の作成が必要なので手伝ってほしい」との依頼が複数回あったが断っている ・「(社外から)『経理が甘い』と指摘された」との不満が増える |
顧問先における2大不満への解決策
顧問先が抱きやすい2つの不満である「回答が遅い」「スタッフのスキルに不安、不満がある」における解決策は次のとおりです。
『回答が遅い!』という不満の場合はスタッフの負担を軽減
回答が遅くなる要因はスタッフの多忙です。スタッフの負担軽減のため、事務所の業務フローを見直しましょう。
業務の見直しは、付加価値が低い業務の削減、繁忙期における業務量の抑制などがあり、次の解決策がおすすめです。
- 記帳代行業務の全面的なアウトソース
- 顧問先が受給できる可能性がある補助金制度を調べるツールの導入
- スタッフへの教育訓練を提供する外部サービスの活用
『スタッフでは不安、不満』の時は外部研修でスタッフをスキルアップ
スタッフの教育訓練は時間がかかります。事務所における負担を軽くするため、税理士事務所スタッフ向けに提供されている研修プログラムの導入を検討することができます。
さまざまな会社が研修サービスを手掛けており、中でも実務的なカリキュラムが組み込まれている研修サービスや動画視聴により受講できる研修がおすすめです。
顧問先から選ばれ続ける事務所となるためには協議会がサポート
会計事務所の生産性向上と付加価値向上は、経営革新等支援機関推進協議会へご相談ください。
協議会は会計事務所における本業支援業務の推進をサポートするサービスを月額30,000円(税抜)で提供しており、全国1,712の事務所が利用しています。(2023年8月時点)
事務所の効率化とスタッフのスキルアップをサポートする2つのサービスを紹介します。
- 紙の領収書を送るだけで記帳業務が委託できる『おくるダケ記帳』
紙の領収書を送るだけでスキャン、記帳業務が月額固定費用で委託できるサービスで、確定申告時期などにおける負担を大幅に削減することが可能となります。
- スタッフの即戦力化はお任せください『ACADEMY』
補助金・財務支援の実務実践まで、短期間で一気に習得できる研修サービスです。
繁忙期も受講しやすい動画視聴、実務実践内容を一体化したカリキュラムとなっており、現場ですぐに活用できます。
事務所の差別化や効率化にお悩みの事務所経営者様は、認定経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。
まとめ
顧問先からの解約の申し出を予防するためには、顧問先から事務所への評価を高めることが必要です。
顧問先の満足度を高めるための方法は、税務・会計業務に加えて、顧問先の内部課題の解決をサポートすることです。顧問先への本業支援業務の拡充により事務所の差別化が可能となり、顧問先から選ばれ続ける事務所となることにつながります。