昨今、税理士業界では、「会計事務所数の増加」「求職者からのネガティブイメージ」などを原因とした人手不足が問題となっています。
採用に力を入れていない会計事務所は、マンパワー不足から事業拡大を断念したり、最悪倒産したりする可能性あるでしょう。
この記事では、年間2,400名以上の税理士の転職者面談をもとに情報発信している、株式会社ミツカルの城之内楊氏より、即戦力人材と税理士試験の受験生から選ばれる事務所となるポイントを解説します。
目次
税理士業界特化の採用支援会社からみた業界の転職事情とは?
現在、税理士業界の労働人口は約16万人(うち5万人超は事務所所長など)です。
業界の転職率は約17%と一般的な業界よりも高く、年間の転職者は1.8万人に上ります。
ただし、全体の20%が即戦力人材と考えられるため、即戦力人材としては年間4000人(月平均300人)が転職をしていると言われています。
即戦力人材と受験生が事務所選びで重要視する点は異なるため、事務所で採用したい人材に合わせた採用戦略を立てるようにしましょう。
会計事務所経営者がしっておきたい!即戦力人材が転職する理由と事務所選びの優先順位
即戦力人材を採用するためには、経験年数3年以上の求職者が、事務所選びで重要視している条件を把握する必要があります。
会社には伝えられない転職する本当の理由を知っていますか
ミツカルで面談した求職者に「会社に伝えた退職理由と本当の退職理由について」アンケートをおこなったところ、下記のような結果となりました。
会社(人事)に 伝えた退職理由 | 結婚、家庭の事情 23% 体調を崩した 18% やりたい仕事内容ではなかった 14% 業界・企業の将来性が不安だった 6% 社風や風土が合わなかった 6% 人間関係が悪かった 6% 給与が低かった 5% その他 22% |
本当の退職理由 | 人間関係が悪かった 25% 評価・人事制度に不満があった 12% 給与が低かった 11% 社風や風土が合わなかった 11% 残業・休日出勤など拘束時間が長かった11% 待遇(福利厚生等)が悪かった7% 業界・企業の将来性が不安だった 7% その他 8% |
会社に伝えた理由は家庭の事情や体調の悪化が多いものの、本当の退職理由は給与・評価への不満が全体の40%を占めています。
即戦力人材が事務所選びで優先する条件はこれだ
先述した通り、税理士業界では退職した理由の40%を給与や評価への不満が占めています。
即戦力となる求職者目線で優先順位が高い内容から、現在の採用戦略が合っているかどうか見直しましょう。
- 事務所の平均年収が地域でボーダーラインの上にあるか?
- キャリアステップができるイメージが沸くか?
- 実務においてチャレンジできる分野は広いか?
- 適切に評価される制度が定着しているか?
- 事務所の人間関係は良好か?
研修制度が充実している事務所様もいらっしゃいますが、即戦力人材の採用においてはミスマッチのことが多いです。
実際、ミツカルで5~10年以上の経験がある求職者の方々に、研修制度が充実していますと伝えても興味を持ってもらえず、給料やキャリアステップについて確認されることがほとんどです。
一度、事務所で出している求人情報が、採用したい人材とマッチしているかどうか確認することをおすすめします。
事務所の平均年収が地域でボーダーラインの上にあるか?
即戦力となる方は給与を重視している方が多く、求職者との面談でも確認される条件です。
地域における年収のボーダーラインは、求人サイトで確認することができます。
特に、「マイナビ」「リクナビ」といった、月額使用料を支払う必要がある求人広告に掲載している事務所は、採用に力をいれているため参考となるでしょう。
大体15~20事務所ほど確認すれば、地域における年収のボーダーラインを把握することができます。
キャリアステップができるイメージが沸くか?
求職者との面談で、自身のキャリアを高めたいという向上心の高い方が多いと感じます。
実際、面談をしていると下記の言葉をよく耳にします。
「今の事務所でやっている業務が物足りない」
「別の分野の業務にチャレンジしていきたい」
「幅広い業務を担当したい」
そのため、顧問先へのサポート業務が充実している事務所の場合、事務所の強みとしてPRすることができるでしょう。
実務においてチャレンジできる分野は広いか?
先述のキャリアアップにもかかわりますが、幅広い実務経験を積むことができる事務所は、即戦力となる求職者から魅力的な事務所と受け取ってもらえます。
実際、転職面談をしていると、大手・準大手企業から相続や医療といった幅広い分野の業務を扱う中小規模の事務所への転職も見られます。
適切に評価される制度が定着しているか?
税理士業界にて、退職理由の約40%が給与・評価への不満であるため、業務に対して適切な評価ができる体制であることは非常に重要です。
もし、給与や評価に納得できない事務所では、即戦力人材の採用ができないだけでなく、既存社員が流出してしまい、人手不足となるリスクが高まるでしょう。
税理士の給与は売上金額の30~40%が業界平均といわれていますが、売上以外にも事務所へ貢献している業務(スタッフ教育など)があるため、定量・定性的に評価ができる制度を準備することをおすすめします。
事務所の人間関係は良好か?
給与条件や評価制度が良い事務所でも、人間関係が良好でない場合は、業務が円滑に進まないことやストレスの蓄積につながるため、求職者は入社を避けてしまいます。
税理士受験生が選びたくなる事務所と辞退されてしまう事務所の違いとは?
税理士受験生を採用したい場合は、試験合格支援が手厚いことをイメージさせることがポイントです。
- 事務所の試験サポートが手厚い
- 事務所に受験生が在籍している/科目合格者がいる
- 平均残業時間が20時間以下である
事務所の試験サポートが手厚い
試験サポートが手厚い事務所は、税理士受験生からみて魅力的な事務所と言えます。
【試験サポート例】
- 大学院や専門学校の費用を負担
(合格後の3年間は事務所に所属するというなどの条件付き) - 試験休み(特別休暇)
- セミナールームの解放
- 試験前後は業務量の調節
セミナールームの開放や業務量の調節などは、少ない初期費用で対応が可能なため、取り組まれていない事務所においては導入をおすすめします。
また、大学院や専門学校の費用負担は、ミツカル登録事務所様(約200事務所)のうち約50事務所で導入されており、全国でも珍しくないサポートです。
実際、税理士受験生を採用している多くの事務所で、大学院や専門学校の費用を負担または試験休み(特別休暇)を導入しています。
受験生の採用を勧めたい場合は、どちらかのサポートの検討が好ましいでしょう。
事務所に受験生が在籍している/科目合格者がいる
税理士受験生は、試験に合格できるかという不安と戦いながら働くため、受験生の在籍数や科目合格者の人数はPRポイントとなります。
平均残業時間が20時間以下である
受験生にとって、日々の試験勉強の時間を確保ができるかどうかは、非常に重要なポイントです。
受験生が、求人サイトにおいて必ず確認する項目のため、残業時間が短い場合は事務所のPRポイントとして掲載した方がよいでしょう。
あなたの事務所は大丈夫!?税理士の採用ができない原因4選
税理士を採用するためには、自身の事務所の情報をどれだけ正しく伝えられるかが重要となります。
特に、採用時に気を付けてほしいポイントは下記の通りです
- 事務所の魅力、強みが求職者に伝わっていない
- 事務所の価値観、 考えが求職者に伝わっていない
- 欲しい人物像、事務所の雰囲気が伝わっていない
- 面接前後、入社前後で事務所イメージにギャップがある
求職者の大半はインターネットで情報を収集しており、気になった事務所については事務所ホームページから詳細な情報を入手しています。
自社ホームページや求人サイトを確認し、求職者に刺さる内容を掲載できているか見直しましょう。
採用者に選ばれるためのエリア別年収の決め方と評価方法。
即戦力となる人材を採用したあと、採用者に選ばれる事務所と選ばれない事務所の違いは「年収」と「評価方法」です。
- 掲載サイト(有料媒体) の他社より年収10%アップを提示
- 事務所の平均生産性 (評価)も15%アップを設定
- MVVに基づき自社に合う評価制度を導入・運用
求人サイトでは、①年収②平均残業時間の順に見られる事を意識して、掲載内容を決めましょう。
求職者との面談時に、事務所の平均生産性といった年収を高く設定できる根拠を説明することで、求職者が気になる業務と年収の関係性を想像しやすくなります。
生産性向上のための実践的なアプローチ
年収と生産性は相互関係にあるため、事務所の生産性を高める施策は常に検討しましょう。
- 自社サービスの充実化と教育体制
- 自社のアライアンス提携先を増やし、スポット報酬を得る。
月次や確定申告などの定型業務に絞ってしまうと、財務コンサルや相続などに挑戦したい社員が離職したり、優秀な人材の採用が難しくなったりします。
ただし、むやみにサービスを充実化すると社員が疲弊するため、自社のリソースを考慮して設定しましょう。
保険会社や不動産会社などと提携し、顧問先を紹介することでスポット報酬を獲得することができます。
さらに、顧問先の幅広い悩みを解決することにつながり、信頼を獲得することができるでしょう。
まとめ
この記事では、年間約6000人との面談をおこなうミツカル社の城之内氏が教える、求職者から選ばれる税理士事務所となる方法を紹介しました。
城之内氏は、採用はマーケティングと同じで、採用したい人材目線で採用施策を考える必要があると述べています。
事務所の採用サイトの情報や評価制度について、一度求職者目線で見直してみてはいかがでしょうか
会計事務所の運営や社員の教育方法に悩んでいる場合には、経営革新等支援機関推進協議会の会員登録もおすすめです。