会計事務所がおこなう重要な顧問先支援の1つが「顧問先が潰れないようサポートすること」です。申告に直結するPL確認に終始しがちな若手職員が、BSを重視した財務コンサルをおこなうためには、かんたんなBSチェックから始めてみましょう。
本記事では、会計事務所が財務コンサルですぐに取り組める方法をわかりやすく解説します。
目次
税務申告にはPLが重要な一方、金融機関はBSを注視する
会計事務所の職員は、顧問先の申告に直接影響するPL科目を重視します。
しかし、経営者や金融機関などが重要視していることは、「事業の継続のための財務と資金繰り」です。
月次監査の流れ
会計事務所がおこなう月次監査の主な流れは次のとおりです。本フローの中で最も時間をかけている部分が、顧問先との面談であるといわれています。
顧問先との面談時の内容は、PLに基づく売上や利益だけとなっていませんか?
特に若手職員については、借入金返済や運転資金を話題とすることに慣れていないため、時間的・心理的にハードルが高いと考えている可能性があります。
金融機関はBSを注視する
PLを重視することが多い会計事務所と異なり、金融機関は融資先のBSを注視しています。
金融機関は融資先のBSを下記の4つの観点から見ています。
- 財務格付(債務者区分)
- 金融庁の形式基準
- 自己資本比率、債務償還年数
- 3つのBS科目(現預金、売掛金・買掛金、借入金)
金融機関の融資の仕組み
BS監査の目指すゴールとは「潰れない会社づくり」であり、そのためには顧問先が金融機関から融資を受けることができる状況を維持する必要があります。
金融機関からの融資の生命線は、顧問先の債務者区分が正常先(自己資本がプラスかつ債務償還年数が10年以内)であることです。
債務者が正常先となっていない場合は課題を特定し、改善する必要があります。
潰れない会社づくりはここを見ることから始まる!3つのBS科目とヒアリング事例
会計事務所による財務コンサルは、次の3つのBS科目を見ることから始めることができます。通常の監査時に、試算表をもとにBSを一緒に見ていくだけです。
- 現預金
- 売掛金、買掛金
- 借入金
現預金残確認
監査時のチェックとともに、現預金保有額が月商1.5か月分以上となっているかを確認します。
手元流動性は金融機関が最も重視する指標の1つです。
黒字倒産を防ぐためにも、現預金の保有額が月商の1.5か月分以上であることを確認し、下回っている場合は資金手当の提案を検討しましょう。
監査時のトーク例は次のとおりです。
(職員)『人件費や経費の値上がり、返済などで現預金が減ってきています。
追加の借入などは検討していますか?』
(社長)『返済があるけど、まだ大丈夫だと思う。』
(職員)『一般的には月商の1.5か月分の現預金があると、経営に専念できるといわれています。御社の場合は〇万円が目安です。
急に金融機関へ融資を申し込んでも、すぐに実行されるとは限りません。
資金繰り表を作って、お金が不足する時期を予測してはいかがでしょうか?』
売掛金・買掛金
現預金の次に確認する科目は売掛金と買掛金です。
売掛先や買掛先を確認したうえで、入金サイトと支払サイトとのギャップを確認します。
入金サイトが長い場合は、売掛金の回収サイトを短縮化する提案ができます。
監査時のトーク例は次のとおりです。
(職員)『売上金額が大きいA社、B社、C社の回収サイトは何日くらいでしょうか?』
(社長)『売上だとA社は45日、B社は60日、C社は30日になっている。
営業担当者に入金を管理させていたはず。
仕入のほうは、一律で末〆翌月末支払にしている。』
(職員)『売上の回収サイトは平均で〇日間ですが、支払はより短い〇日です。
主な原因は売上先B社のサイトが長いことです。
一度、B社へ売掛金の入金を早くするよう交渉してみてはいかがでしょうか。』
借入金
最後に借入金についてです。
上記の所要運転資金とは「(売掛金+棚卸資産)-買掛金」で計算します。経営上、常に必要となる運転資金であるため、短期借入金(当貸)で調達することが望ましいです。
監査時のトーク例は次のとおりです。
(職員)『借入は順調に返済できていますね。
来期は何か設備投資などの予定はありますか?』
(社長)『投資予定はないけど、毎年運転資金を借りているから〇月に借りるかも』
(職員)『運転資金の借入の原因は売掛金の入金が支払よりも遅いためです。
御社では常に〇万円の運転資金をもっておく必要があります。
借入予定の〇万円は返済がない当貸を利用してはいかがでしょうか?』
財務支援(コンサル)モデルを事例付きでご紹介!
財務支援のよくある事例を紹介します。
【モデル事例】 | |
所要運転資金(売掛+棚卸-買掛金) | 55,701千円 |
簡易キャッシュフロー | 15,543千円 |
有利子負債残高 (うち当貸利用額20,000千円) | 132,450千円 |
年間借入返済額 | 27,036千円 |
返済余力(④-②) | ▲11,493千円 |
債務償還年数((③-①)÷②) | 4.9年 |
上記の事例の場合、財務改善としてすぐに提案できる点が2つあります。
- 所要運転資金の調達を当貸へシフトする
- 借り換えによって年間借入返済額をキャッシュフローの範囲内へ抑える
所要運転資金を借入(元金返済がある借入)で賄っているため、継続的に借入が必要となっています。当貸の利用によって新規借入の頻度を下げることが可能です。
また『借入返済額>返済能力(キャッシュフロー)』となっている企業は多くみられます。
この場合は適切な借り換えを支援することで、返済額をキャッシュフローの範囲内に抑えることができ、資金が手元に残る体質へ変わります。
この『手元にお金が残る』という経済的なメリットが明確であれば、顧問先が会計事務所からの提案を評価し実行してもらいやすくなります。
財務支援(コンサル)は収益化できない?失敗する3つの理由
財務支援の収益化は難しいといわれますが、うまくいかない主な理由として、次の3つがあげられます。
- ターゲット選定の誤り
- 対応者のミスマッチ
- 責任の所在が不明確
ターゲットが間違っている
「ターゲット選定の誤り」では、業績が厳しすぎる企業へアプローチしていることが考えられます。業績が非常に厳しい顧問先への財務改善提案はハードルが高くなります。
問題点が多く改善策の優先順位の決定が難しい、金融機関の支援を得られるか不透明などが理由です。また、業績が厳しい顧問先への財務コンサルをおこなうためには、次のスキルが求められます。
- 資産項目の見直し(少資産経営化)
- 原価低減、経費削減
- 405事業、抜本再生など活性化協議会の支援スキームの理解
対応者を誤っている
「対応者のミスマッチ」について、財務コンサルには向き不向きがあるといわれています。
財務コンサルに向いている人とは、大局的な見地からポイントを絞り込むことができる人、検討や実行に粘り強く取り組むことができる人などです。
財務改善の初期段階においては、大きな視点から、大まかな方針策定が必要となります。
また、取り組みを実行するためには、経営者の真剣さに伴走する本気度が職員についても求められることがあります。
責任所在が定まっていない
「責任の所在が不明確」については、事務所として新しいサービスに取り組む場合、責任者を明確化しましょう。
BS監査は税務顧問として必須の業務ではないため、推進するリーダーが必要です。
事務所の収入増加につながる重要な取り組みであるため、積極的に推進する体制づくりをおこないましょう。
明日からBS監査を始めるためにはどうすればいい?
BS監査は次の5つのSTEPから始めましょう。
- STEP1:顧問先へ提供するサービスメニューを作る
- STEP2:月次監査の延長線から始める
- STEP3:3つのBS科目を確認する
- STEP4:ターゲット、対応者、責任者を設定する
- STEP5:外部サービスの活用などによりスピーディに始める
STEP1:サービスメニューを作る
まず、顧問先へ提供するサービスと報酬額を決めます。
職員が顧問先へ提案しやすく、収益化するための仕組みづくりのポイントは次の3つです。
- 明確なメニュー
- 報酬額の明示
- 顧問先へ目に見える形による提案
メニューと料金を明示することで、月額顧問料の範囲ではない有料サービスであることを明確化します。
また経営者が目に見える形(提案書、シミュレーションなど)で提案することで、理解を得やすくなります。
サービスメニューの例は次のとおりです。
おすすめのメニューは、提供しやすい財務格付診断と顧問先が作成できないことが多い資金繰り表作成です。決算診断は決算申告プラス10,000円、資金繰り表作成は月額5,000円など、現状の顧問料に付加しやすい価格を目安とします。
サービスメニュー | サービス内容 | 報酬額(例) |
決算診断 | ①財務格付診断書の提供 | 1回10,000円 |
BS監査 | ①財務格付診断書の提供 ②3指標の予実管理 ③借入返済予定表の一括管理 | 月額3,000円 |
資金繰り表作成支援 | ①+②+③のセット ④資金繰りシミュレーションの提供 ⑤取引上位5社の予実管理 | 月額5,000円 |
財務コンサルティング | ①+②+③+④+⑤のセット ⑥事業計画策定支援 ⑦予実確認 ⑧金融機関との面談時の同席 ⑨借り換えコンサルの実施 | 月額50,000円 |
財務部長職 | 取締役会への参加など | 月額100,000円 |
STEP2:通常業務である月次監査の延長線上で15分から始める
経営者は多忙であることが多く、監査対応に十分な時間を確保できないことも多いため、月次監査の冒頭15分に、経営者へのBS確認と資金繰り対策などを相談し、その後に通常の月次監査をおこなう方法がおすすめです。
STEP3:納税のためのPLだけでなく3つのBS(科目)を確認する
月次監査で重要点となるPLだけでなく、顧問先の資金繰りをかんたんにチェックできるBS3科目を確認し、大まかに資金繰りを予測しましょう。
STEP4:ターゲット、対応者、責任所在を適切に設定する
財務コンサルを推進するためのターゲット、所内における対応者や責任者などを決めておきましょう。
まずターゲットとなる顧問先を決定します。
財務状況が良い顧問先から提案することがおすすめです。好業績企業であるからとアプローチしていないケースがあるためです。財務面が良好な顧問先への主な提案例は次のとおりです。
- 不動産担保や経営者保証がない資金調達へのシフト
- 保証協会保証付きの融資からプロパー融資への切り替え
- 所要運転資金についての短期資金調達を、手形貸付から当座貸越へ変更
対応する職員については、通常業務にプラスとなる業務であるため、事務負担を考慮して決定しましょう。
また、責任の所在についても明確にします。BS監査は事務所収入の増加につながる取り組みであるため、事務所としての推進体制や管理する職員などを明確化しておきましょう。
STEP5:外部サービスを使ってスピーディに対応
BS監査を迅速にスタートさせるためには、事務所で利用している財務コンサルツールを活用することが近道です。既存のツールを活用していない、ツールがない場合は、協議会など外部ツールの導入が効率的です。
経営革新支援機関推進協議会でかんたんにBS監査を始めよう!
BS監査を通じた顧問先への財務コンサルは「経営革新等支援機関推進協議会」がトータルでサポートしています。
財務分析・提案をまるごとパッケージ化した分析ツールの提供や、事務所職員のスキルアップ研修など、財務コンサルのスタートから収益化までを月額30,000円(税抜)で利用できます。
経営革新等支援機関推進協議会が提供する主なサービスは次のとおりです。
- 人材育成カリキュラム『実務体験プログラム』
- 情報提供自動サービス『FAS CLUB』
- 実務支援ツール
- 相談窓口
- 財務支援システム『F+prus』(エフプラス)
- らくらく作成シリーズ
人材育成カリキュラム 『実務体験型プログラム』
経営革新等支援機関推進協議会のACADEMYは、会員事務所様の付加価値に必要となる知識から実務経験までを、イチから学べるEラーニングです。
『補助金・公的制度』『金融・財務』『事業承継』のほか、事務所の経営ノウハウを学ぶ『事務所力強化』コースの全4コースがあります。
ACADEMYは月額費用の範囲内で職員何名でも受講できるため、職員のスキルやキャリアプランにあわせた研修体系をまるごと導入可能です。
情報提供自動サービス 『FAS CLUB』
『FAS CLUB』とは、会員事務所様に代わって、協議会事務局が顧問先や見込み先向けに補助金・助成金情報を自動で配信するサービスです。
情報提供素材の用意や発信作業はすべて経営革新等支援機関推進協議会事務局がおこないます。
事務所における作業負担がなく、集客を自動化する仕組みづくりが可能です。
実務支援ツール
会計事務所の実務をサポートするツールも豊富です。各種補助金の審査項目をおさえた申請書サンプルの提供、本番を想定したプレ審査、添削サービスなどにより、採択の可能性を高めます。
相談窓口
会員事務所様のお困りごとに迅速に対応するサポート体制を整えています。
「この取り組みはA補助金の対象となる?」「申請書の書き方で困っている」など、さまざまなお悩みに対し、各分野の専門家が対応します。相談窓口の利用は何度でも利用可能です。
財務支援システムF+prus
経営革新等支援機関推進協議会が提供する財務支援システム『F+prus』(エフプラス)は、金融機関目線の財務分析報告書から、事業計画の自動生成までを盛り込んだ財務分析・提案ツールです。
経営者が見やすくわかりやすい帳票構成とアイコン表示に加えて、金融機関が重視する視点を網羅しています。各種会計ソフトに対応しており、顧問先の課題と解決支援メニューとの連携などの機能が満載です。
らくらく作成シリーズ
らくらく作成シリーズは、顧問先の決算データ(CSVまたはExcel)と借入返済予定表(Excel)を送信するだけで企業財務診断報告書を生成するサービスです。
作成できる提案資料には、財務格付診断、資金繰りシミュレーターなど経営者の関心が高いフォーマットが豊富にあります。