2024年9月から10月にかけて、多くの金融機関が融資の金利の基礎となる短期プライムレートを見直しました。
今後も金利上昇が続くと、企業によっては支払利息や仕入コストが上昇し利益が減る、資金繰りが悪化するなどの影響が出る可能性があります。
本記事では、融資金利の状況と税理士から経営者への提案を検討したい金利上昇対策について解説します。
目次
融資の金利上昇が本格化!「金利のある世界」へ
2024年7月に日銀が追加利上げを決定し、多くの金融機関は融資の金利の基礎となる短期プライムレートを見直しました。また2025年1月以降に、日銀が再度の利上げを行う可能性があるとみられています。
金利が上昇し、支払利息を実感する「金利のある世界」に備えて、企業は支払利息の増加を抑えるなどの対策が求められます。
最近における融資の平均金利の状況や金利上昇がもたらす影響は次のとおりです。
新規融資の平均金利
2024年7月に日銀が追加利上げを決定したことを受けて、9月にメガバンクが、10月に地方銀行や信用金庫の多くが新規融資の金利を見直しました。
その結果、多くの中小企業において金融機関から金利見直しの連絡を受けた、新規融資の利率が従来よりも高くなったとみられています。
日銀が発表した資料によると、2024年10月時点における新規融資の平均金利は、約1.2%~1.7%となっています。
金利上昇がもたらす中小企業への影響
金利上昇は預金利息が増加するなどのメリットがある一方、支払利息が増加し利益が減少するなどデメリットがあります。また金利上昇による投資の鈍化など事業環境に対しても影響があります。
金利上昇が企業におよぼすマイナスの影響をまとめると次のとおりです。
- 支払利息の増加
変動金利の利率が上昇し、支払利息が増加します。 - 資金繰りの悪化
支払利息の増加だけでなく、利上げによるコスト上昇を理由として仕入価格が上昇する可能性があります。支払利息やコストが上昇することで支出が増加し、資金繰りが圧迫されることとなります。 - 財務の悪化
元利均等払いの場合は元金返済額が減少することとなり、借入金が減りにくくなります。 - 設備投資や不動産投資の鈍化による景気悪化
利上げにより設備投資や住宅着工が停滞するなど、事業環境が悪化する可能性があります。
借入金への依存度が高い企業ほど利上げの影響を受けやすく、金利上昇が続くと資金繰りが悪化するリスクがあります。
中小企業の経営者に向けて税理士から提案したい“金利上昇対策”について以下で紹介します。
中小企業の金利上昇対策①借入金を減らす
借入を削減し支払利息を減らすことがあげられます。借入を削減する主な方法は次の3つです。
- 不要な預金による借入の繰上返済
- 遊休不動産や有価証券の売却による借入返済
- 資金繰り改善による追加借入の縮小や借入時期の繰り延べ
中小企業の金利上昇対策②固定利率に変える
借入の金利条件を変動金利から固定金利へ変更する方法です。固定金利への変更方法として次の2つがあげられます。
- 金融機関と交渉し、現在の借入の金利条件を固定金利(固定利率)へ切り替える
- 変動金利の借入を固定金利の借入で借換する
中小企業の金利上昇対策③財務体質を改善する
顧問先の財務体質を改善することで金融機関からの評価を上げ、金利条件をより良くする方法があげられます。
金融機関からの借入金利は市場金利だけで決まるわけでなく、借入する企業の財務体質によっても変わります。
中小企業の金利上昇対策④コストを削減する
支払利息以外のコストを削減し、利息の増加をカバーする方法です。主なコスト削減例は次のとおりです。
- オンライン面談の導入による交通費の削減
- 在庫削減による倉庫料の削減
- 勤怠・給料システム、会計システムなどの刷新によるバックオフィス業務の効率化
- プロパー融資への借換による信用保証協会への支払保証料の削減
- 省人化設備の導入による生産性の向上
- 省エネ設備への更新による電気・水道光熱費の削減
中小企業の金利上昇対策⑤資金繰りを見直す
資金繰りの改善により、追加借入を減らす、借入頻度を下げるなどの対策です。中小企業における主な資金繰り改善策は次の4つです。
- 値上げによる売上の増加
- 取引先からの売掛債権回収を早期化
- 経費削減による支出の削減
- 在庫保有量の見直しによる必要運転資金の縮小
中小企業の金利上昇対策⑥設備投資は補助金を活用する
設備投資のための資金調達は、補助金を活用することで新規に借入する額を減らすことができます。
2024年度(令和6年度)補正予算において「新事業進出補助金」や「成長加速化補助金」の新設、「省力化投資補助金」の拡充(一般型の新設)などが予定されています。顧問先の補助金申請を円滑に支援できるよう、早めに情報を入手し顧問先へ提案する準備をしましょう。
## 中小企業の金利上昇対策⑦人件費上昇を助成金でカバーする
中小企業の中には賞与支給のための資金を借入で賄っている場合もあります。このような顧問先は、賃上げと金利上昇のダブルパンチにより資金繰りが圧迫されてしまいます。
人件費の上昇における対策としては、省人化投資による生産性向上が効果的です。賃上げとともに行う生産性向上投資を支援する「業務改善助成金」などの助成金を活用することで、顧問先における投資負担を軽減できます。
顧問先へ財務改善を提案するときの5つのポイント
金利上昇が予測される時期は、顧問先へ財務の見直しを提案する好機です。
金利上昇は支払利息の増加だけでなく、材料や家賃などコスト全般の上昇につながる可能性があるためです。
顧問先へ財務や資金繰りの改善を提案するときは、経営者の行動につながる5つのポイントを踏まえた提案がおすすめです。
決算レポート・財務診断結果はわかりやすく
財務改善提案は、決算レポートや財務診断報告書の作成からスタートすることがおすすめです。経営者は、自社の改善すべき事項や同業種での比較結果などに強い関心をもつことが多いためです。
忙しい中小企業経営者へ説明するときは、経営者が「見てすぐにわかる」表示が好まれます。また望ましい水準を達成するまで「どれだけ改善すればよいか」について明確に示すと行動しやすくなります。
参考として、全国約1,700の会計事務所で利用されている「経営革新等支援機関推進協議会」の財務診断報告書(サンプル)をみると、表情マークと目標までの改善幅がわかりやすく表示されています。
経営者に金融機関の目線を理解してもらう
「債務償還年数」や「自己資本比率」(債務超過解消年数)など金融機関が重視する指標を意識して改善することで、より有利な金利条件となる可能性が高まります。
金融機関が融資先企業を格付するシステムは非公開ですが、信用保証協会が採用しているCRDスコアが参考となります。
資金繰り改善効果を金額で説明する
多忙な経営者の行動を促すポイントとして、顧問先における金銭的なメリットを具体的に説明することがあげられます。
改善効果を金額で表すことで、「費用を支払っても実行する価値がある」ことをわかりやすく伝え、事務所の受注につながりやすくなります。
経営者の想いは事業計画書で「見える化」する
財務改善を提案するときは、経営者の事業構想を計画書としてまとめることも同時に提案してみましょう。
金融機関からより良い条件で資金調達するためには、顧問先の財務内容や事業の将来性を評価してもらう必要があるためです。
中小企業庁が発表した中小企業白書(2024年版)によると、金融機関が融資先を評価するときに重視している項目は「財務内容」(88.0%)、「事業の将来性」(49.6%)となっています。
経営者の将来構想を「見える化」し、同時に金融機関が融資しやすくなる事業計画書の例は次のとおりです。
事業計画にあわせた補助金・助成金の活用を提案する
顧問先から事業見通しをヒアリングした後は、適切なタイミングに補助金や助成金の活用を提案しましょう。
顧問先へ提案するタイミングを外さないためには、次のような顧問先ごとの長期スケジュールを立てておくことがおすすめです。
金利上昇対策は顧問先支援を拡充する好機!協議会がサポートします
金利上昇の影響を受けやすい中小企業は、今後の金利上昇に備えるために財務体質や資金繰りを改善することが大切となります。
金融機関が重視する財務指標は何か、借換はどのように行うかなどについて、不慣れな経営者に対しては、顧問税理士から積極的に提案することを検討しましょう。
「財務改善提案を強化したいが人材が足りない」「多忙でスタッフの教育時間がとれない」などの悩みがある会計事務所様は、経営革新等支援機関推進協議会をご活用ください。
経営革新等支援機関推進協議会は、新人スタッフを即戦力化する財務分析ツールや会計事務所向けの動画研修プログラムの提供などのサービスを月額30,000円(税別)で利用できます。
スタッフの採用・育成や付加価値業務の拡充など会計事務所様の悩みごとは、全国約1,700事務所が利用する経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。