企業の経理担当者や会計事務所がおこなう経理・会計業務は、AIを活用することでより迅速かつ正確に処理できます。経理担当者や監査担当者は、定型作業の削減で生まれた時間を使い、分析や提案など、より創造性が求められる業務に集中することができます。
本記事では、AI会計ソフトをはじめとする効率化や、今後求められる経理担当者・会計事務所の役割について解説します。
目次
会計ソフトで浸透しはじめたAIの活用
会計業務におけるAI活用の代表例がAI-OCRを搭載した会計ソフトです。
AIの搭載が進んでいるクラウド会計ソフトは、従来の自動入力機能とは異なり、常に精度が進化している点が特長であり、今後も利用者が増えると予測されています。
AI会計ソフトの主な機能
現在提供されているAI会計ソフトの主な機能は次のとおりです。
- 帳票自動読み取り
スキャナやスマホから取り込んだ領収書などの画像から、記載された文字や数字を自動で読み込み、データ化する機能です。 - 自動仕訳
金融機関との取引明細やクレジットカードの利用明細などを自動で取得し、取得したデータから自動で仕訳を切る機能があります。 - 監査
過去とのデータと比較して異常なデータを自動で検証し、異例値を注意喚起する、修正を提案してくれる機能です。 - レポート作成
取り込んだデータを自動で集計し、分析レポートを自動で作成できます。 - 操作サポート
AIチャットポットにより、操作方法などの質問に自動で回答してくれる機能があります。
会計事務所における生成AI活用は約4割
会計業務におけるAI活用は会計ソフトが中心でしたが、最近は会計ソフト以外に生成AIを活用することが増えています。
ミロク情報サービスが2024年に会計担当者・会計事務所向けにおこなったアンケートによると、「生成AIを使ったことがある」会計事務所は37%となっています。
利用したことがある生成AIとしては「ChatGPT」(70%)、「Copilot」(17%)の2つで、大半を占めています。
AIを利用する主な使い途は「文章の生成」(61%)、「調査・検索」(43%)、「アイデアを聞く」(42%)などであり、さまざまな用途で活用されはじめています。
会計業務にAIを導入するメリット
会計業務にAIを導入する主なメリットは次のとおりです。
入力業務の効率化
スキャナやスマホなどから読み込んだデータをAIが自動でデータ化することで、入力作業が大幅に減少します。また転記ミスや誤入力などヒューマンエラーを防止できます。
仕訳処理の自動化
読み込んだデータをもとに自動で仕訳を切ることができるため、多数の仕訳入力が自動で処理されます。
データチェック・レポート作成の自動化
AIにデータの異例値を検出してもらうことで、データチェックを自動化できます。例えば多数の取引データから課税・非課税区分の誤りを見つけ出す、源泉徴収漏れを自動で検出するなどです。
チェック基準が一定でチェック者による差異がない、チェック漏れが減少する、多くのデータを短時間で確認できるなどのメリットがあります。
また月次の財務レポート作成などが自動化できます。
属人化の防止
AI会計は証憑などをデータ化することが基本です。データ化により資料を個人で管理する必要がなくなります。
また自動仕訳機能を利用することで、会計知識が少ない経理担当者や入力担当者であっても一定水準の仕訳を切ることができます。
AI活用で変わる経理担当者・税理士の役割
AIにより作業の自動化が進むと、企業の経理担当者や会計事務所のスタッフ、税理士が担う業務は変化していくと予測されています。日次・月次・年次の経理業務や会計事務所の監査における確認作業が減るため、確認や改善策の検討、提案などに集中できます。
すべての業務をAIに代替することはできないため、AIと人が業務分担する時代であるといえます。
AIに向いている経理業務とは
AIが得意とする分野は定型作業、大量処理などです。次のような業務はAIを活用する効果が高いといわれています。
- 大量のデータ処理業務:データの読み取りや多数のデータからの異常値検出など
- 日次業務:売掛金・買掛金の消し込み、立替金・仮払金の精算、出張旅費の処理など定型的な仕訳
- 月次業務:月次試算表や財務諸表の作成
これからの経理担当者が求められる業務はチェック・分析・サポート
AIの活用により、企業の経理業務や経理担当者がなくなるわけではありません。AIと相性が良い分野はAIに任せ、AIが不得意な分野は経理担当者が担う必要があります。
AI時代における経理担当者として求められる役割は、主に以下のような内容であるといわれています。
- AIが処理した内容のチェック
- AIが対応できない異例処理、異常値の検証
- データに基づく多面的な分析、経験に基づく予測
- 経営陣への財務面からの助言
- AIへの学習などの運用サポート
税理士はより高い専門性と柔軟性が求められる
AIを活用することで会計事務所が担っている定型業務は縮小し、より専門性が高い業務が中心となるでしょう。今後、顧問先からの会計事務所に対するニーズは、下記の内容が中心となるといわれています。
- 税務当局との調整や調査対応
- 税制改正対応のサポート
- より高度な税務判断アドバイス
- 顧問先への財務改善提案など
会計事務所がAIを活用するときの4つの注意事項
上記の会計事務所向けアンケートによると、今後「生成AIを使ってみたい」「興味がある」とする回答は82%であり、一方「生成AIの使用ルールがない」事務所は89%となっています。
これから生成AIを業務に活用するためには次の4点に注意が必要です。
情報セキュリティ
AIは主にクラウドサービスを利用しています。クラウドサービスはインターネット上にデータをアップロードして利用するため、事務所外のサーバーに顧問先のデータが残ってしまう可能性があります。
自事務所においてもウイルスチェックやアクセスできるスタッフを制限するなど、情報漏えい防止策を万全としておきましょう。
スタッフのリスキリング
事務所で利用するシステムやAIをスタッフが使いこなせるように経験を積む必要があります。
ファクトチェック(内容確認)は必須
AIを利用する場合の注意点として、情報が古い可能性とハルネーション(嘘)の発生があげられます。AIによる成果物は、人が情報源の確認や内容を最終する必要があります。
顧問先へ提供するサービスの拡充
業務をAI活用で効率化し、生み出された時間をどのように使うかが大切です。顧問先の財務に直接関与する会計事務所は、財務的な観点から顧問先の改善を提案するサービスを強化することがおすすめです。例として次のようなサービスがあげられます。
- 借入金の借換など資金繰り改善の提案
- 顧問先における補助金・助成金の申請支援
- 事業計画や資金繰り表作成の支援
- 給料計算などバックオフィス業務の合理化支援など
また税務・会計以外の顧問先支援を拡充することで、顧問先のニーズにあわせたサービスに強みがある事務所として差別化することにもつながります。
AIと協働する時代に選ばれる会計事務所となるために協議会がサポ―ト
顧問先における経理・会計事務が効率化されると、顧問先が税理士へ求めるニーズは税務・会計の処理から財務面の改善などへと移り変わります。AIを活用する事務所は顧問先への提案を強化し、そうでない事務所は定型業務に忙殺されてしまう可能性があります。
顧問先への本業支援業務は、事務所の効率化とスタッフの育成が必須です。会計事務所における効率化や人材育成の主な取り組みは次のとおりです。
- 金融機関目線で見た財務分析ツールの導入
- スタッフが受講しやすい動画研修の実施
- 事務所通信など情報提供素材の購入
「人手不足で時間がない」「顧問先支援業務を研修する時間が取れない」などの課題は、経営革新等支援機関推進協議会がサポートします。
監査担当者向け動画の配信や補助金・助成金改正情報の周知チラシなど、会計事務所経営をトータルでサポートするサービスを月額30,000円(税別)で使い放題です。
まとめ
会計業務におけるAI活用は、入力作業を大幅に効率化でき、ミスの防止などに役立ちます。
会計業務にAI活用が進む時代においては、AIを活用し効率化できる業務と、人が担う業務に分けて業務フローを再構築することで、人はより重要な業務に集中し付加価値を高めることができます。
会計事務所経営の効率化や顧問先への支援業務の拡充は経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。