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求められる会計事務所の条件とは?しんこう会計が実践するオンライン化×マーケ戦略【事例付き】

求められる会計事務所の条件とは?しんこう会計が実践するオンライン化×マーケ戦略【事例付き】

『これから日本の税務はもっとクラウド化、オンライン化がすすむ』と語るのは、オンライン完結型の会計事務所として、県外からも多くの顧問先を獲得している「しんこう会計事務所」代表の新美敬太(にいみけいた)先生です。

近年、クラウド会計ソフトの普及や顧問先ニーズの多様化により、会計事務所の在りかたが変わってきています。従来の訪問型を中心とする顧問サービスの提供と異なり、オンラインを中心にサービスを提供するスタイルは、顧問先の満足度や事務所の生産性向上に大きく影響します。

本記事では、税務に加えて財務支援についてもオンライン化で成功している「しんこう会計事務所」におけるオンライン化の取り組み内容と顧問先を掴むマーケティング戦略を解説します。

しんこう会計事務所はどのような事務所ですか?

しんこう会計事務所(以下:自社)は、愛知県名古屋市の本社事務所と東京都内のサテライトオフィスの2拠点を構えています。従業員数は、私(新美)を含め12名、有資格者が2名とスタッフが10名であり、スタッフのうち半分が未経験者です。


自社の特徴は「オンライン完結型」であることです。
私が勤務していた会計事務所は従来型で、アナログな仕事の進めかたや顧問料の低下などに危機感をもっていました。差別化が必要であると思っていても、私自身に大きな強みをもっていないと感じ、事務所をクラウド化・オンライン化することで優位性を築こうと考え、今の事務所を独立開業しました。

現在、顧問先のクラウド会計導入率は100%、税務顧問サービス・財務支援サービスともにオンラインで提供し、顧問先の約8割が県外です。

事務所経営で大事にしていることはなんですか?

自社が「やりたい」ことを押し付けるのではなく、顧客が求める「ほしい」を考えることを大事にしています。
顧客⽬線に⽴って、⾃社を知る・分析するところから始め、現在の「オンライン化」で差別化しています。

自社のSWOT分析や3C分析を行う中で、改めて気づいたのは、「脱属人化は難しい」「高付加価値提案は難しい」という点でした。

顧問先の経営者や自社スタッフの個性・経験によってサービス品質に差が出てしまうため、特に経験の浅いスタッフや未経験者が、高付加価値な提案を行うのは現実的に難しいと判断し、その点については割り切ることにしました。

これらの取り組みを通じてたどり着いたひとつの答えが、「オンライン化」そして「オンライン税務顧問」という現在のスタイルです。このスタイルは、「税務会計において効率的に改善策を提案する“高付加価値”」ではなく、「経営者自身が改善点に気づく“中付加価値”」の提供を重視しています。その結果、自社のブランディングにもつながるサービス形態となっています。

サービス内容を教えてください

自社が提供するサービスは、⼤きく「オンライン税務顧問」「社外CFO」「融資サポート」の3つです。

オンライン税務顧問

オンラインツールをフル活⽤し、すべての税務顧問業務をオンラインで完結させています。

オンライン化することで訪問コスト・時間が不要となります。また、「オンラインのほうが気楽、簡単、スマート」といった経営者、特に若手起業家のニーズに対応しています。顧問先が遠方であっても対応できるなどのメリットもあります。

社外CFO

財務顧問サービスとして、主に次の3つをおこなっています。中小企業は社内にCFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)がいることは少なく、ニーズがあります。顧問先のニーズに応えるサービスは、県外からも顧問先を獲得しやすいです。

  • 資⾦繰り・資⾦調達

資金繰り改善の支援は、中小企業の顧問先から評価されます。自社は顧問先の経営者に「計画は、なぜこの数字となっているか」「実績は、なぜこうなったか」という点に気づいてもらうことを重視しています。

  • 決算書、診断書チェック

経営革新等支援機関推進協議会の『F+prus』(エフプラス)を活用し、顧問先の財務状況や金融機関からの評価を見える化しています。

経営革新等支援機関推進協議会の『F+prus』(エフプラス)


 顧問先からは「自社についてしっかり理解できていると感じる」と好評です。

  • 毎月1回の財務ミーティング

オンラインで顧問先と経営状態を共有し、税務・財務をサポートしています。

  • ⾦融機関との交渉

金融機関への融資申込み資料の作成や借換え手続きのサポート、面談への同席などの諸手続きをワンストップで対応しています。

融資サポート

主に起業する人向けに創業融資をサポートしています。提出資料の準備、計画書の作成サポート、金融機関との⾯談への同席などです。

オンライン化で使用しているツールは?

自社が使っているオンライン化ツールは次のとおりです。

ツール名概要使用目的
FLOWタスク管理・顧客管理を中⼼とした、クラウド型の情報共有ツールです。 顧客情報のカルテ化、タスク管理・進捗管理、生産性分析が可能。業務管理
BOXファイルやフォルダの保管・管理・共有などができるクラウドストレージサービス。データ管理
Chatworkオンラインチャットツールです。メッセージや画像、データのやりとりが可能。自社での導入率は91%です。連絡手段
ZOOMPC、スマホなどハードを問わないWEB会議ツールです。セミナーにも適しています。面談
『F+prus』(エフプラス)金融機関目線で分析できる企業財務診断報告が簡単に作成できます。資金繰りシミュレータや決算レポート、5か年事業計画なども生成できるパッケージツールです。事務所に代わり作成する「財務帳票らくらく作成サービス」も利用できます。付加価値
マネーフォワードクラウド会計データ連携で資料回収などが容易なクラウド会計ソフトです。自社での導入率は100%です。会計ソフト
マネージボード会計ソフトと連動したクラウド型の予実管理ツールです。経営管理
ストリームド会計事務所向け自動記帳サービスです。顧問先から紙で回収した証憑をスキャンし送信すると、翌日に仕訳データ化されます。自動記帳
グレートサインクラウド型の電子契約サービスツールです。電子契約

オンライン化を進める際のポイントは?

会計事務所がオンライン化するときに大切だと思うポイントが4つあります。

ポイント1:使⽤ツールを統⼀する

業務の効率化や画⼀化につながるため、ツールを統一することはとても大事だと思います。また、事務所のブランディングにおいても有効的です。

「このツールといえば、この事務所」となり、セミナー講師の話をいただいたり、顧問先が理解しやすくなったりなどの効果があります。

ポイント2:業務フローの明確化

業務管理ツールを使うことで業務の流れを可視化でき、顧問先側も初回相談、契約、⽉次業務、決算までの流れがわかりやすくなります。

ポイント3:信頼関係の構築

オンラインで直接会わないからこそ、信頼が大切です。一番大事にしていることは「レスポンスの早さ」です。遅くとも翌営業日にはレスポンスしています。

自社へ移ってきた顧問先に話を聞くと、「前の事務所は返事が遅かった」などの声を聞くことも珍しくありません。

ポイント4:ニーズに合ったターゲット選定

会計事務所のオンライン化は、オンラインに抵抗のない業種や世代との相性が良いです。逆にアナログな顧問先へオンラインをアピールしても響かないでしょう。事務所の方針と相性が良くない顧問先を取らないことも重要だと思います。

オンライン化で地域を問わず対応できると、ニッチな専⾨分野をターゲットとしやすくなります。

新規顧客を獲得するために、どのようなマーケティング戦略をとっていますか?

マーケティングのスタートは「自らを分析すること」であり、分析・マーケティング・集客の流れとなります。

まずは顧客⽬線に⽴って、⾃社を知る

前提として大事なことは、事務所が「やりたい」ことではなく、顧客が求める「ほしい」ものを考えることです。記帳なのか、節税なのか、あるいはMAS監査なのか、顧客が求めることと自社の得意・不得意を考えるところから始めます。

SWOT分析

まず、自社分析で活用したのは、SWOT分析表です。

SWOT分析

3C分析

次に3C分析です。自社でいえば「オンライン」「中付加価値」が合うというイメージです。

3C分析

MVVC

次にミッション、ビジョン、バリュー、カルチャーの設定です。組織化するときは皆が同じ方向を向かないといけないと思います。
自社では『経営を楽しく、スマートに!』をミッションとして掲げ、楽しくやっています。

MVVC

集客で重視していることは?

自社の集客チャネルはオンラインが中心であり、集客の約4割がホームページからです。オンラインを中心とする集客のポイントは次の4つです。

ターゲットを明確にする

自社の強みを認識したうえで、誰に向けたサービスであるか明確とします。
アピールしたい顧客像を明確とすることで、相手に自社の強みや専⾨性が正しく伝わり、ミスマッチを防ぎます。

ランディングページ等の整備

低コストでできるため、積極的に取り組んでいます。特定のキーワードの検索結果で上位表⽰を⽬指し、検索結果からの⾃然流⼊を狙っています。
問い合わせまでの動線や実績・料⾦・対応エリア・プロフィール・使用するデジタルツールなどもしっかり載せています。

情報発信を積極的に⾏う

コストゼロでできるSNS、YouTubeなどで継続的に情報発信しています。

意外かもしれませんが、アナログな情報発信も大事にしており、後々の紹介につながることもあります。

⾯談・契約のスムーズさをアピール

クラウド共有や電⼦契約は「スムーズ」「オンラインでも⼤丈夫そう」と思ってもらうことが大切です。「全国対応」や「⾮対⾯OK」がむしろメリットとなるように伝えています。

今後の展望を教えてください

私が今後強化したいと考えていることは、「顧客教育」「ブランディング」「情報発信」「AI活⽤」の4つです。

「顧客教育」は苦手な先生が多いかもしれませんが、事務所の価値を顧問先に理解してもらうことは今後の生き残りのために大切だと思います。

「ブランディング」と「情報発信」はリンクが強いです。事務所の強みやブランドをしっかりと発信することが大切です。

「AI活用」は今後の業務改革のカギを握るテーマであり、業務効率の向上だけでなく、顧問先への提案の質的改善にもつながると考えています。

今後は、会計事務所に特化したAI活用支援サービスである「AI研究会」(株式会社エフアンドエム)なども活用しながら、必要に応じて業務への実装を進めていきたいと考えています。

しんこう会計事務所の事例からの学び

しんこう会計事務所様は、オンライン化を通じた新規顧客の獲得、事務所の差別化に成功しており、参考としたい会計事務所様も多いでしょう。

しんこう会計事務所様を成功事例として、経営革新等支援機関推進協議会がおすすめするポイントは次の5つです。

  • ⾃社を知り、市場を分析することが必要
  • 「気づき」を与える中付加価値の提案が求められる
  • 顧客教育を行い「抜本的な業務設計」が必須
  • ブランディングして差別化を図る
  • 積極的な情報発信を行う

しんこう会計事務所様も活用している『F+prus』(エフプラス)は “中付加価値”を提供するサービスとして利用しやすく、会計事務所の強みとして差別化へつなげることが可能です。
財務分析に不慣れなスタッフについては、経営革新等支援機関推進協議会が提供する実務体験型プログラムでスキルアップできます。

財務支援の拡充や事務所の差別化などの課題については、全国約1,700の会計事務所が利用する経営革新等支援機関推進協議会へお気軽にご相談ください。

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経営革新等支援機関推進協議会
経営革新等支援機関推進協議会は、株式会社エフアンドエムが運営する会計事務所向けの支援団体です。2014年4月に設立し現在では、全国1700以上の会計事務所が正会員として参画しており、中小企業支援制度についての勉強会・システム提供を通じて全面的にバックアップしている。