自ら事務所を経営する開業税理士は、収入アップや自分のペースで働くことができる、自分の考える事務所づくりができるなどの魅力があります。
本記事では、税理士事務所の開業後、成功するための事前準備について解説します。
目次
税理士事務所を開業するまでの流れ
主に勤務税理士(所属税理士)が開業するまでの主な流れは以下のとおりです。
- 税理士としての登録申請
- 独立のための自己資金の準備
- 事務所としての方針を決める
- 顧問先の目途をつける
- 勤務している事務所と調整する
- 事務所の場所、事務所スタッフを選ぶ
- 事務所の備品、システムなどを発注する
- 開業税理士への変更登録、税理士事務所の開設手続き
【参照】税理士登録の手引き|日税連
税理士事務所の開設にかかる費用の平均は約200万円といわれています。主な項目は次のとおりです。
- (自宅開業時を除き)事務所の敷金や保証金など約50万円
- 事務機器、事務用品約10万円
- PC、ソフトウェアなど約10万円
- 広告宣伝費用約50万円
- 税理士会入会費約20万円
- そのほか運転資金など
税理士として独立開業するメリットデメリット
税理士として独立開業することは多くのメリットがあります。一方でデメリットもあります。
開業税理士となる前に、自分自身で考える理想の税理士像、働き方、収入とプライベートのバランスなどの考えをまとめたうえで、後悔しない開業準備をおこないましょう。
税理士として独立するメリット
開業税理士となるメリットとして次の内容があげられます。
- 働く場所や時間を自分で決めることができる
- 力を入れる業務を自ら設計し、自分のペースで進めることができる
- 自らの経営方針で事務所の働き方をデザインすることができる
- 結果次第で収入を増やすことができる
- 働く年齢が定年によって左右されない
開業税理士のデメリット
メリットが多い開業税理士ですが、デメリットとしては以下の例があげられます。
- 顧問先を獲得できず、低収入となることがある
- 顧問先を獲得するための営業活動が必要となる
- 福利厚生がなくなる
- 事務所を運営するためのバックオフィス業務を自らおこなう必要がある
- 事務所スタッフとの人間関係に気を遣う重要さが増す
- 自分の体調や家族の介護などで収入が左右される可能性がある
- 税賠などのリスクがある
独立開業に必要な『場所』『ツール』『資金』『リスクヘッジ』
税理士事務所を独立開業するために必要なものは数多くあります。
その中でも独立開業前に検討しておく大切な項目は次の4つです。
- 事務所の場所
- 会計ツール、広告宣伝ツール
- 開業資金、開業後の運転資金
- 開業後のリスクヘッジ
税理士の独立開業の準備1『場所』
事務所の場所を決定する前に、事務所としての顧問先との接触スタイルを検討します。
事務所のスタイルにあわせた物件選定
- 顧問先への訪問、オンラインでのやりとりが主となる場合
事務所の場所や物件の質を考慮する優先順位は下がります。自宅の一部を事務所とすることも検討します。
- 顧問先からの来所を想定する場合
・エリア
事務所を設置するエリアを検討します。勤務税理士から独立開業する場合、勤務していた事務所の意向によって違うエリアでの開業を望まれることがあります。
・周辺の顧問見込み先
顧問見込み先となる企業が周辺にどのくらいあるか確認する着眼点は次の例です。
・個人事業主、法人の別
・経営者の年齢層
・周辺企業の業種
・連携相手との距離
顧問先への本業改善提案などに力を入れる予定の場合は、連携する士業や公的支援機関などとの距離や移動方法についても考慮しておくことが望ましいです。
・物件
交通の便や駐車場などの利便性を考慮します。実際の周辺環境についてもチェックし、開所時間中の周囲の状況を確認しておきます。
マンションの1室を事務所とする場合、オフィス利用や法人登記が可能であるかについても確認します。
周辺の税理士事務所の確認
事務所の設置場所を検討する時は、周囲の税理士事務所、特に開業後に考えている事務所の特長と類似の事務所があるかについても確認しておきます。
周辺の税理士事務所は日税連のサイトから探すことが可能です。
顧問先、連携する専門家との距離
顧問先から遠すぎる場合、顧問先の来所頻度が下がるほか、監査などの移動時間がかかり不便となります。
税理士の独立開業の準備2『ツール』
税理士事務所の開業時に必要なデジタルツールは会計システムだけではありません。顧問先獲得のための提案ツール、マーケティングツールは必須です。
事務所のホームページ、SNS
インターネットを活用した広告宣伝は重要さを増しています。インターネットでの情報発信は拡散性、即時性が優れるほか、24時間宣伝ができるなどの利点があります。
開所前からSNSでアナウンスする、開所後はホームページ上で積極的に情報発信するなど、開業前からインターネットによるマーケティングに慣れておきましょう。
会計システム
開業後に使用する会計システムや税務システムは、大きくクラウド型とパッケージ型(インストール型)にわかれます。システムを決める場合の着眼点は下記のとおりです。
クラウド型 | パッケージ型 | |
初期費用 | 不要または少額 | 約2万円~約30万円 |
導入後のランニングコスト | 月額 約3,000円~約5万円 | 基本的に不要 |
対応OS | Windows Mac | Windowsのみが多い |
バージョンアップ | 自動 | 自分で更新 (有料の場合があります) |
対応デバイス | PC、タブレットなど | PCのみが多い |
顧問先との連携 | 比較的スムーズ | データのやり取りが必要 |
多い顧問先層 | 若い企業 若い社員が多い企業 | 業歴が長い企業 |
勤務税理士時代から使い慣れているなどの理由で安易に選択せず、開業後の顧問先とのやり取りやシステムのバージョンアップなどを想定し、長期的に使うことを前提に選定しましょう。
広告宣伝ツール
広告宣伝ツールとしては、紙媒体とデジタル媒体があります。
紙媒体は名刺、紙のチラシや封筒、紙袋などです。事務所通信、補助金情報のチラシなどがあります。
デジタル媒体はホームページやSNSなどです。ホームページは事務所のサービス事例の説明、サービス報酬の掲示などに向いています。SNSは顧問先の関心を引くことに役立つなど違いがあるため、情報発信の内容やユーザー層に応じて併用します。
開業後の忙しい中で顧問先へ提案する資料を作成することが難しいことが考えられます。開所後の事務所にあった内容を、顧問先へタイムリーに提供するためには、税理士事務所向けの提案物を提供してくれるサービスの利用が効率的です。
顧問先への提案ツール
顧問先への提案ツールとは、財務分析ツール、補助金申請書のサンプルなどのことです。
経営に関する数字のプロとして顧問先へ提案できる財務分析ツールは大変有効です。財務分析ツールを選択する時のポイントは次の4点です。
- 経験が浅いスタッフでも作成しやすい
- 顧問先が見てわかりやすい構成
- 金融機関の目線を踏まえている
- 実績の分析と事業計画がセットになっている
金融機関目線を踏まえ、顧問先がわかりやすくできているフォーマットを採用することで、金融機関への融資資料として提出するなど応用が利きます。
税理士の独立開業の準備3『資金』
税理士の開業に必要となる資金額はさまざまです。不動産やPCなどに必要となるほか、開業後の収入の変化に対応できるよう運転資金の確保も必要です。
税理士の独立開業にかかる費用
一般的は200万円から500万円ほどといわれます。費用の多寡は事務所の家賃・保証金などに左右されます。高額となりやすい費用は次の例です。
- 事務所の敷金、礼金、保証金、前家賃
- 営業用自動車
- 会計システム、税務システム
初期投資額を抑えたい時は家賃が低い事務所を探す、自宅で開業する、キャビネットなどは中古品で賄う、クラウド型の会計システムを採用するなどの工夫をおこないます。
開業資金の調達
開業時の資金は自己資金だけで賄えず、融資を受けることがあります。
開業資金について融資を受けることで、金融機関の創業融資について実経験を経てノウハウを得ることもできます。
開業後の運転資金
開業時に必要となる運転資金の目安は、開業後3か月間から6か月間の経費分といわれます。
一般の事業会社の起業では経費3か月分といわれていますが、税理士事務所については6か月分がおすすめです。既に顧問税理士がいる企業が顧問税理士を乗り換えするタイミングは確定申告時期が終わる時期などが多いため、顧問先を獲得するまで時間がかかることがあるためです。
税理士の独立開業の準備4『リスクヘッジ』
開業後に思わぬリスクが顕在化することがあるため、事前に備えておくことがおすすめです。
開業後のリスク1:収入不足
開業後、思うように収入があがらないリスクです。また開業当初はうまくいっても突然顧問先から解約されるケース、収入の多くを占めていた顧問先が倒産する、大手企業の子会社となるなどの可能性もあります。
独立開業前に顧問先を獲得する見込みを立てておくとともに、万が一に備えた運転資金の確保が必要です。
開業後のリスク2:人間関係
税理士仲間と一緒に開業した後、軌道に乗ってから事務所の経営方針に違いが発生することがあります。また事務所のスタッフとの人間関係が悪化する可能性があります。会計事務所は人手不足が続いているため、補充の人員獲得が遅れて業務がこなせない事態もあります。
独立する前にパートナーと細かく話し合っておく、事務所スタッフの育成に十分に気を遣う練習をしておくなどの準備が好ましいです。
開業後のリスク3:税賠
税理士賠償責任、いわゆる税賠のリスクがあります。そのほかの士業と異なり、税理士は損害額の確定が容易であるため賠償責任を追及されるリスクが高くなります。
事前に税賠保険に加入準備をしておきましょう。
開業後のリスク4:自分または家族の事情
税理士当人の健康リスクに加えて、家族の介護などが発生することがあります。開業資金と別に生活費についても準備しておきましょう。
まとめ
税理士事務所を開業するためには数か月、開業費用は200万円ほど必要といわれます。
開業税理士として成功するためには事前の準備をしっかりとしておくことが大切です。また開業後に顧問先に選ばれ続けるためには、ほかの事務所との差別化も重要となります。
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